ニューカマー ε4z
夕方のユミの部屋。最近では、タカマサも一人で、ユミの部屋を訪ねるようになっている。
「ユミちゃん。ちょっと、PC貸してくれる?」
「どうぞ」。立ち上げたノートPCを、タカマサに渡す。
タカマサが手元のスマホを見ながら、URLを打ち込む。
「ユミちゃんに頼まれた、俺たちのオフィス、作ったよ」と、タカマサがVR内の、その部屋をユミに見せた。
「ありがとう」
「普通のノートPCでも見れるように、軽い造りにしてあるから」
「軽い?」
「うん。いろんな物をゴチャゴチャ配置しないで、ただイスを置いただけ」
「なるほど」
「このURLを、」と、タカマサが指し示した。
「ユミちゃんの仲間に知らせれば、誰でもこの部屋の様子を見れるし」
「うん」
「VRゴーグルを持っている人なら、この部屋に入って、俺らと会議したりできる」
「うん!」
「今週の会議に、誰か呼ぶ?」
「呼ぶ。ε(イプシロン)4z」
「イプシロン・フォー・ジー?」
「私がダンス動画を集めた時、最初に声を掛けた人」
「ふ~ん」
「その後、仲良くなって、『お互い、必要な時は、いつでも声を掛け合おうね』って、言い合ってたの」
「へぇ~」
「私たちの短編映画のことも話してあるし、私がディレクターに回りたいから、私の代役での出演も、了解してもらってるの」
「おぉ。さすが、手早いね」
「ダンス動画、VRでも作ってる人だし、環境的には問題ないと思うんだよね」
「いいねぇ」
「でも、色々やってて忙しそうな人だから、ε4zの出番は、少なくしてやってほしいの」
「うん。それは、康祐に言っておかないと」
「だね」
「今日は?」
「こーちゃん?」
「うん」
「多分、図書館ね」
「ふ~ん。……」。康祐の行動を、把握してるんだなぁと、タカマサは感じた。
「帰りが遅い時は、たいてい図書館だから」
「へぇ~」
「帰ってくるまで、待つ?」
「うん、出来たら。……」。ユミの部屋で待つのは、ちょっとどうなのかなぁと、逡巡していると、
「こーちゃんの部屋で、寛いでいればいいわ」と、タカマサの迷いを察したように言う。
「入れるの?」
「うん。こーちゃん家への宅配便とか、留守の時はウチで預かっているから」
「ふ~ん」
「大きい荷物なんかだと、ウチに置いとけないから、預かっているカギで入って、店の中に置いとくの」
「へぇ~」
「それに、預かるのは大抵、瀬戸物みたいな割れ物だから」
「うん」
「ウチに置いておいて、割ったりしちゃったら困るから」
「ふ~ん。……」
後日、三人が康祐の部屋に集合し、ε4zとの顔合わせをした。
四人限定の『本部』を、タカマサが用意しておいてくれた。揃いの宇宙服と、EMU(船外活動ユニット)ヘルメットも用意されていた。それぞれ、好みの色に着色して、本部室に集合した。
「紹介するね。こちら、ε4zちゃん」。ネイビーブルーのユミが、パステルピンクのε4zを、他の二人に紹介する。
「ども。タカマサです」と、モスグリーンの宇宙服。
「康祐です」。こちらは、グロスブラック、あるいは呂色と言ってもいい艶のある黒だ。
「ちょっと、質問、いいですか?」と、ε4z。
「どうぞ」。タカマサだ。
「ここって、宇宙船の中ですよね?」
「そうです」
「EMUヘルメットを被っているのは、なぜ?」
「まぁ、宇宙空間を思わせる演出?」と、康祐。
「それと、顔のアバターのイメージが、頭に浮かばなかったから」と、タカマサ。
「そもそも、ここでは宇宙服でいる必要もないしね」と、ユミ。
「雰囲気を、演出してるだけだから」と、タカマサ。
「うん。よしと、しましょう」と、ε4z。
「顔合わせが済んだところで」と、ユミ。
「一つ、言っておきます」
何事かと、三人がユミを見る。
「ユニット内、恋愛禁止です」
「なんだ、そんなことか」というように、ため息を吐く三人。
「大事なことだからね。空気が悪くなるし、他の参加者に気を使わせるような事態は、予め防いでおきたいの」
「ここに、空気はありません」
「今の声は、こーちゃんね」
ビクッとする黒い服。
「言っておくけど、あなたが一番心配なんだからね」
「気苦労の多い人だね」と、康祐。
「まぁ、いいわ。後で、よく言ってきかせるから」
「……」




