タカマサの提案
ユミが、アルミホイールで作った大きめのカップを、三つ持って現れた。
「ちょっと待って、ユミちゃん」
タカマサはそう言って、PCを立ち上げた。
「これからの会話を録音するから。普段通りに話していいよ」
「どうぞ」というような仕草で、ユミと康祐を促した。
「何、それ」と、康祐。
「優勝カップ」
「へっ?」と、康祐。
「第一目標クリアで、このブロンズ色のカップ」とユミが、手にして掲げた。
「第一目標って?」
「そうねぇ。第一作目の短編SF映画を、公開したら」
「ふ~ん」
「第二目標は?」と、タカマサ。
「大勢の人に、私たちの映画が認知された時」
「ふ~ん」
「第三目標は?」と、康祐。
「大手のメディアが、私たちの映画を取り上げた時」
「大きく出たねぇ~」と、タカマサ。
「第四目標もあるの。そこまで行けたら、ダイヤモンド製のトロフィーを作ってあげるわ」
「へぇ~」。男二人が、感嘆した声を上げた。
「実は、ダイヤモンドじゃなくて、スワロフスキーってガラスだけど。……」
「いやいや。それだって、きっとすごい物だよ」
「そこが、最終目標ね」
「ん?」
「私たち三人とも、それぞれ斯界の有力者とコラボして、さらに大きな飛躍を遂げた時」
「おお~!」。二人揃って、声をあげた。
「ただし!」。厳しい声を、ユミが発した。
「別の意味もあるの」
「ん?」
傍らに用意しておいた、プラスティック製のバットを手にして、
「諦めて、リタイアを決めた人は、このバットで、カップを叩き潰して、この部屋を出て行くの」
「……」
「この紙に、フェルトペンで、『諦めません。康祐』、『諦めません。タカマサ』って書いて、そこの壁にセロテープで止めてね」
「……」
「私のはこれ」。A4サイズの純白の紙に、「諦めません。ユミ」と書かれている。
「これはね、私のオマージュなの」
「ん?」
「両親ともに好きな女優で、デミ・ムーアっていう人がいるの。その人が出ている映画で、訓練から脱落していく兵士が、鐘をバットで叩くシーンがあるの」
「ふ~ん。……」
「私も彼女が好きで、彼女が出ている『ア ヒュー グッド メン』とか、特に好きだった」
「ふ~ん。……」
「まぁ、それは兎も角、諦めた人は、その、壁に貼った自分の紙をビリビリに引き千切って、カップをグシャグシャに叩き潰して、この部屋から出ていくの」
「うん。……」。固唾を飲み込むようにして、頷く二人。
「私たちの取り決めを、忘れないでね」
「ん?」
「決して何も強制しない。励ましたり、応援したりはいいけど、目標達成の為に、誰かに何かを強制をしない」
「うん!」
「叩き潰すのは、ブロンズ色からにしてね」
「……」
「最後に残った人が、目標を達成した時、金色が残っていた方がいいでしょ?」
「了解」と、タカマサ。続くように、康祐も言う。
「了解」
「うん。三人とも了解ね」。ユミが、ニコっとする。
「はい。ここで録音を止めるね」とタカマサ。
他の二人は、タカマサの次の言葉を待っている。
「今うごいているアプリが、録音を元に、ユミちゃんがイメージしているカット割りのマンガに仕上げてくれるんだ」
「へぇ~」。二人同時だった。
「例えばだけど、スマホの縦画面に、3コマ1カットにして、10カット。それを4倍速にして入れれば、『ん? 一瞬なにか映ったな』ぐらいの印象になるから、映画を見ている人のストレスには、あまりならないと思うんだ」
「おぉ~」
「作業の手間が、ぐっと省けるね」
「ね。AIって、すごいだろ」と、タカマサ。
「それもAIなの?」と、ユミ。
「マンガ制作アプリと、AIのコラボ」
「ふぅ~ん。……。今って、そうなってるんだ。……」。ユミが考え込んでいる。
「この技と、VR動画で、ユミちゃんの作りたい映画、大体具現化できるんじゃない?」
「うん。……」
「まぁ、でも。……」
「ん?」
「ユミちゃんが求める仕上がり水準にもよるけど」
「ん?」
「大雑把に言って、100万は必要かなぁ」
「ヒャ。ヒャクマン?」
「うん」
「100万円?」
「だね」
「……」。考え込んでしまっている。
「上を見たら、キリがないよ。1000万っていうこともあるだろうし」。駄目押しをするタカマサ。
「イッ。いっせん万!」
「個人じゃとてもムリだから、そうなると、プロジェクトとか、事業化だよね」
「……」
「まぁ、随分遠い将来のこと、言ってても始まらない」と、康祐。
なぜか、「キッ!」という目で、康祐を見るユミ。
「それよりまず、お話。ストーリーだよね」と、タカマサ。
「だね」と康祐。
「つまらないストーリーじゃ、夢を語ってるに過ぎない」




