慄(おのの)き
話は、二日前に遡る。
日曜日の午後。康祐の部屋に、三人が集まって、それぞれ作業していた。
さっきから、手の動きをとめて、ボーッとしている康祐。
「何、考え込んでるの? こーちゃん」
問い掛けられるのを待っていたように、康祐が
「お話つくるって、隠しようもなく、自分が出ちゃうんだなぁって。……」
「何? 今さら?」
「……」
「クリエーターは、みんな、そういうものと葛藤しながら、創作活動してるの。当たり前じゃない」
「当たり前なの? そういう悩み、持たずに活動してる人、絶対いない?」
「子供みたいなこと、言わないの」。諭すように、ユミが言う。
「他人のことは分からないでしょ。でも、そういうものだと思って、取り組んで行くしか、ないんじゃない?」
「……」
「タカミーは、どう思う?」。タカマサに問い掛けるユミ。
「タカミー?」
「いちいちタカマサ君って呼ぶより、短くていいから」
「了解」と、タカマサ。
「俺は、マンガだから。……」
「あまり考えない?」とユミ。
「いずれ、ぶち当たる課題だとは、思うけど。……」
「こーちゃんは、主張が強いからね」と、ユミ。
「俺が?」
「そう。こーちゃんは物静かで、大人しそうに見えるけど、芯に持ってる主張は、頑として揺るがない、強いものがあると、私は感じてる」
「ふ~ん。……。よく、他人のことが分かるんだね」と、康祐。
「言ったでしょ。私は、人間洞察の」
「達人?」と、康祐。
「まぁ。自分で言うのは、なんだけど。……」
「ほぼ、言ってるようなもんだよ」
「ふふっ」と、タカミー。
「こーちゃんは、主張が強い分、こーちゃんという人間が、滲み出やすいの」
「かも。……」。タカミーだ。
「真面目だからね、こーちゃん」とユミ。
「あっ。バカにしたな」と康祐。
「覚悟を決めることね」
「……」
「自分の創作物を、他人目に晒すということは、自分を晒け出すのと、同義語なの。それが怖いなら、さっさと止めちゃいなさい」
「……」
「ん?」と、挑発するユミ。
「随分、上から目線なんだな。ユミ」。康祐が、ボソッというように言う。
「私の目標は、ドキュメンタリーだからね。どうしたって、人間を暴いていってしまう側面は、持ってしまう。……」
「……。そうだろうなぁ。……」と、タカミー。
「他人にそれを強いるなら、真っ先に、自分もそうなることを覚悟してる。……」
そう言い、さらにユミは、
「そんなのは、まだまだ序の口なの」
「ん?」
「葛藤しながら、『いいもの、作らなきゃ』と頑張ってた頃が、一番いい時代だったなぁなんて、述懐する頃からが、目が見え始めるの」
「何を言ってるのか、分からないなぁ」と、康祐。
「多くの人に共感をもたらすものを書いたり、オピニオンリーダーになった積りで、世間に良識を訴えたりしてるのが、実は、とても危険な事をしていたことだったということも、あるってことよ」
「具体的に言ってもらわないと。……」
構わずに、ユミは続ける。
「『実は、何にも分かってなかったんだなぁ。書いたもの、言ったこと、全部なかったことにしたい』っていう思いに襲われることも、あるってことよ」
「ふ~ん。……」
「モノを表現する、作るっていうことは、それくらい恐ろしいってことよ」
「まだ何も作ってない、俺達に言われてもなぁ」と、康祐。
「こーちゃんの悩みに、ちょっとだけ、応えてあげただけ」
「あ。ふ~ん。そういうことに、なるのか」と、康祐。
「あとね、こーちゃん」
「ん?」
「最終話までのお話、出来たら原稿、私のスマホに送ってくれる?」
「うん」
「いつ頃に、なりそう?」
「頭ん中では、大体まとまってる」
「そう」
「プロット(あらすじ)だけでも、いいわ。それがあれば、色々手配できるから」
「うん。じゃあ、それは、明後日までに」
「OK。よろしくね」
「タカミーは、こうちゃんのプロット見たら、いつも通り、私たちのこんな様子の録画から、必要な部分を取り出して、編集してね」
「了解」と、タカマサ。
「編集するまでが大変で、あとはアプリで出来上がるっていう理解で、いいよね」
「うん。それでOK」
「じゃ、よろしく」
「よろしく」。二人も、声を合わせた。




