懸念
最近はタカマサも、ユミの部屋にいることが多い。
ユミは、第二話以降の、スケジューリングに苦吟している。PCに向かい、さっきから考え込んでいる。
「ε4zさんて、何歳くらいの人かなぁ?」。タカマサが、ユミに聞く。
「さぁ?」。気のない返事だ。
「立ち振る舞いから受ける感じは、二十代半ばくらいかなぁ?」
「VRの中だから、分からないわよね。……。それに」
「ん?」
「VRの中では、そういう詮索、するものじゃないんじゃない?」
「そうだけど。……」
「何? 気になる? ユニット内、恋愛禁止よ」
「そういうんじゃないよ。ただ、ちょっと、……」
「プライバシー聞いていいなら、私もタカマサ君に、ちょっと質問」
ユミが、タカマサに向き直った。
「いいよ。なに?」
「タカマサ君って、小学校の時、電車通学してたじゃない?」
「うん」
「なんで?」
「親が、俺を、埼大の付属か、少なくとも、同じ学区の市立の中学に通わせかったんだよ。県立の高校を見据えて。それで、あの辺りにマンション買ったんだと思う」
「前から思ってたけど、タカマサ君家って、子供の進学の為には、出費を厭わないよね」
「……。まぁ、有難く思わないと、いけないんだろうなぁ。……」
「ん?」
「結局おれは、周辺と馴染めなくて、不登校みたいになってた」
「ふ~ん。……」
「親が見かねて、母親の実家があるこっちの町に、住民票だけ移して、康祐と同じ小学校に通うことになったんだよ」
「私も同窓生」
「だよね。あの頃、ユミちゃんとは、クラス、違ってたでしょ?」
「だったね」
「こっちでも、友達は皆無に近かったけど」
「うん」
「おとなしい感じの康祐だけとは、不思議と普通にしゃべれたんだ。……」
「あいつも、超おとなしい方だからね」
「……」。頷くタカマサ。
「それに、康祐も、転校してきたばっかだったから、……」
「そうだってね。後で知ったよ」
「あいつ、自分のこと、あまり話さないでしょ?」
「だね」
「育ちが、トラウマになってるのかも。……」
「ふ~ん。……」
「今、康祐が住んでるお祖父ちゃん家は、こーちゃんのお母さんの実家なの」
「ふ~ん」
「康祐は、両親と、他の町で暮らしてたんだけど」
「うん」
「どうも、康祐のお父さん、恋人ができて駆け落ちしたみたいなんだよね」
「……」
「ウチの両親が話してるのを、盗み聞きしただけだから、私もよくは知らないんだけど。……」
「うん」
「康祐には内緒ね」
「うん」
「あいつも、どこまで知ってるのか、分からないし」
「うん」
「タカマサ君が転校してきた、ちょっと前だと思うんだけど」
「ん?」
「康祐のお母さん、病気が元で、亡くなっちゃったみたい」
「ふ~ん。……」
「お祖父さんに引き取られる形で、隣に住むようになったの」
「へ~」
「ウチと康祐ん家は、お祖父ちゃんのその前の代からの交際なんだって、聞いたことがある」
「ほぉ~」
「この辺がまだ、ドブ板って言われてた時代みたい」
「……」
「康祐、前、言ってた」
「ん?」
「お祖父ちゃんから聞いた、ひいお祖父さんの話」
「うん」
「すっごい話なんだって」
「へ~」
「ドラマになる位。でもあまり、人には言えないような話」
「ふ~ん」
「いつか、それを元に、お話、書けたらなぁって」
「へ~」
「タカマサ君になら、こーちゃん、話すんじゃない?」
「そう?」
「マンガの題材に、いいと思うよ。ぜったい」
「……。それは、きっと康祐の宝物だよ。貰う訳には、いかないなぁ」
「こーちゃん、言ってたじゃん」
「ん?」
「『俺が書くテーマは、一つ』だって」
「あぁ~。……。でも」と、タカマサ。
「康祐の胸の内は、分からないよ」
「それもそうか。……」
ユミが、夜間の専門学校に出掛ける時間になったので、タカマサは、ユミが開けてくれた康祐の部屋で、康祐を待つことにした。
出掛けて行くユミの後ろ姿を見て、タカマサには思うところがあった。しばらくして、康祐が帰ってきた。
「おう。来てたか?」と康祐。
「うん。……」
「ん? どした?」
「ユミちゃん」
「ん?」
「俺らの前だと、元気そうに振る舞っているけど、……」
「……」
「もしかしたら。……」
「……」
「SNSのコメントが、効いてるのかなって。……」
それは、康祐も感じていたが、
「そうか? アイツは、結構タフなやつだぜ」
「……」
「俺らなんかが気に掛けてるの、アイツのプライドが許さないかも」
「ま。そうかもしれないね」
「うん」
「ところでな」
「ん?」
「長い間、やっかい掛けたけど。……」
「ん?」
「そろそろ俺、この辺のもの、持ち帰って、自分家で作業するわ」
「そっか?」
「うん」
「気兼ねしなくて、いいんだぞ」
「いや。もう、必要なことはVRの中で、やればいいし」
「うん」
「この部屋に、来なくなる訳じゃないし」
「うん。いつでも来いよな」
「……」。黙って、頷く。
「俺が留守でも、ユミがいれば」
「うん」
「ユミに言って、開けてもらえばいいんだし」
「うん。いつもそうしてるし、今日も」
「ユミもいなかったら、ユミの部屋で待ってればいいよ」
「さすがに、それはなぁ。……」
「アイツのお袋さんに言えば、大丈夫だよ」
「う~ん。……」
「今まで、どうしてた?」
「康祐もユミちゃんもいない時?」
「うん」
「めったにないけど、その辺、ブラブラしてたよ」
「ふ~ん」
「そもそも、スマホで、連絡してから来るし」
「そっか」
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