第9話:小競り合い — 山賊
王都北西の街道。
城内資源の再配置が完了して三日後、主人公は女騎士と共に現地視察へ出ていた。
理由は単純だ。
「街道警備費が増加しているのに、交易税収が伸びていない」
主人公は馬上で淡々と言う。
「つまり?」
「どこかで損失が発生しています。確率的には山賊」
女騎士は剣の柄に手を置いた。
「ならば討伐だ」
「いえ。規模を確認します」
街道脇の林へ視線を向ける。
足跡の数。
折れた枝。
荷車の轍の乱れ。
瞬時に計算。
「山賊は七名。弓兵二、短剣三、斧二。待ち伏せ位置は左前方三十歩」
「……本気で言っているのか?」
返答する前に、矢が飛んできた。
女騎士が弾く。
「伏せろ!」
兵士たちが応戦態勢を取る。
林から男たちが飛び出す。粗末な鎧、濁った目。
「荷を置いていけ!」
主人公は一歩も動かない。
数字がすべてを示している。
地形。
敵配置。
味方の装備。
風向き。
「右へ三歩。盾兵は前進二歩。弓兵、左上段の枝を狙ってください」
「枝?」
女騎士が怪訝な顔をするが、指示どおり兵士が放つ。
矢が枝を折り、隠れていた山賊が落ちる。
「なっ……!」
敵が動揺する。
「斧持ち二名は突撃志向。中央へ誘導してください。女騎士殿、左側を制圧すれば包囲が完成します」
「指図するな……!」
言いながらも、彼女は駆けた。
剣閃が走る。
主人公の視界では、戦況が俯瞰図として広がっている。
敵の重心移動。
攻撃角度。
疲労蓄積。
「あと十二秒で突破可能」
その言葉通り、女騎士が最後の一人を打ち倒す。
静寂。
山賊たちは地に伏した。
兵士の一人が呟く。
「……あんた、戦ってないよな?」
「はい」
「なのに、全部分かってたみたいに……」
主人公は淡々と答える。
「戦闘は確率です。優位を作れば勝率は上がります」
女騎士が剣を払って血を落とす。
「確率で片付けるな。命が懸かっている」
「だからこそ、無駄を減らします」
彼女は一瞬だけ黙り、やがて小さく笑った。
「……合理的だな」
拘束された山賊を見下ろし、主人公はさらに計算する。
装備の質。
体格。
訓練度。
「素人集団です。背後に資金援助はありません」
「つまり?」
「偶発的な犯罪。街道補給改善で発生確率は半減します」
女騎士は肩をすくめる。
「戦わずして勝ち、戦っても勝たせるか」
主人公は否定しない。
ただ数字が示した通りに指示しただけだ。
だが、兵士たちの視線は明らかに変わっていた。
畏怖。
尊敬。
そして、わずかな恐れ。
戦場を俯瞰し、感情なく指示を出す男。
女騎士が近づいてくる。
「次は私と並んで立て」
「私は後方支援向きです」
「共闘だと言っている」
主人公は少しだけ考える。
合理的かどうか。
勝率向上は3.8%。
「……了解しました」
彼女は満足げに笑った。
夕暮れの街道を戻る。
山賊は鎮圧された。
被害は最小限。
損耗ゼロ。
主人公の頭の中では、すでに次の数字が回っている。
街道改善案。
警備配置。
再発確率。
だがその隣で。
女騎士はちらりと彼を見た。
「お前、少しは自分が危険だと自覚しろ」
「危険?」
「戦場で一番怖いのは、冷静すぎる指揮官だ」
意味は完全には理解できない。
だが――
彼女が隣に立つことで、勝率が上がるのは事実だ。
それだけは、確かだった。




