第8話:暗算チートの威力 — 城内資源分配の最適化
第8話:暗算チートの威力 — 城内資源分配の最適化
王宮の中庭を歩きながら、主人公は頭の中で城内全体の数字を整理していた。
倉庫の穀物。
武器庫の弓矢と剣。
薬草保管庫。
兵士の配置と食料配分。
そして、税収金庫の残高と流入ペース。
すべてが目に見える。
いや、正確には「見える」のではなく、数字として浮かぶ。
量、劣化率、補給日数、消費確率。
すべて、瞬時に計算され、最適化の道筋が頭に描かれる。
「現在、穀物劣化率は月間3.2%。保存方法を改善すれば1.1%まで低減可能」
近くを歩いていた女騎士が眉を上げる。
「もう数値を出すのか?」
「効率的だからです」
彼女はため息をつきつつも、どこか楽しそうに笑った。
主人公は倉庫へ足を運ぶ。
木箱や麻袋が積まれ、埃っぽい空気が漂う。
一目で無駄な積み方、偏った配置が分かる。
「歩兵食料は北棟に偏重。南棟の騎兵分は不足。補給経路が非効率」
「なるほど……ではどうする」
女騎士が問いかける。
「配置を千鳥状に変更。補給ルートは二本に分け、移動時間を短縮。腐敗リスクは半減します。余剰は防衛用備蓄に回せます」
兵士たちは目を丸くして見守る。
誰も反論できない。
主人公は指示を出す。
「この箱は北棟へ、あの麻袋は南棟へ。薬草は気温と湿度に応じて保管庫を振り分けてください。兵士への配布は午前と午後に分ける」
数分後、倉庫内は一気に整理され、通路も広くなった。
女騎士が感嘆する。
「早いな……数字だけでここまで変わるとは」
「合理的です」
主人公は黙って頷く。
次に武器庫。
剣、槍、弓、盾が雑多に積まれ、手入れもまちまちだった。
瞬時に計算。
「戦力比率に応じた配置が必要です。軽装兵は近く、重装兵は遠くに配備。使用頻度と補充可能数から最適化」
兵士たちが忙しく動き回る。
剣は棚に、弓は弓立てに、矢筒は種類別に整理される。
補給表も即席で作成され、配布スケジュールまで数字で指示。
「城内全体の効率が、最大で17%向上します」
女騎士が目を細める。
「数字無双……恐ろしい」
主人公は表情一つ変えない。
ただ計算して、指示しただけだ。
最後に金庫。
税収、交易収入、備蓄金、軍費支出。
すべての金の流れを頭の中で算出。
「王国の資金流は不均衡。軍需費が突出、民生費が不足。来月には地方反乱リスクが8%」
「どうする?」
「余剰資金を民生に振り分け、補給費を維持。税収増加を狙った交易補助を行えば、反乱リスクは1.5%まで低減可能」
役人たちは息を飲む。
数字が示す合理的解決策に、異論は出せない。
すべての指示を終え、主人公は女騎士と共に城内を歩く。
「……お前、戦わずしてこれほど城を強化するのか」
「数字は嘘をつきません」
「だが、人は嘘をつく」
彼女は小さく笑った。
主人公はその意味を理解しない。
理解する必要もない。
城内の空気は確かに変わった。
兵士も役人も、指示に従い効率よく動く。
数字だけで、戦力は倍増したようなものだ。
だが主人公にとって、それは当然であり、特別なことではない。
合理的である限り、勝利は約束される。
戦わずして、戦いを制する。
その夜、城内の灯火は静かに輝き、数字に支配された秩序は確実に整えられた。
そして、主人公の頭の中では、次の計算がすでに始まっていた。
――外敵の動き、内部反発、備蓄の変動。
すべて、瞬時に処理される。
暗算チートの威力は、誰もがまだ理解していない段階で、確実に王国を変え始めていた。




