第30話:最後の反論 — 論理と感情
第30話:最後の反論 — 論理と感情
三日後。
玉座の間は、前回以上の人で埋まっていた。
結論の日。
空気はすでに決まっている。
俺は中央に立つ。
王が告げる。
「最終弁明を許す」
静寂。
俺は一歩前へ出る。
「提示された証拠は、形式上は完璧です」
ざわめき。
否定しない。
まず認める。
「物資不足は計画的。
金の移動は規則的。
承認印は精巧」
赤外套が微笑む。
「では何を」
「完璧すぎる」
またそれか、という空気。
だが続ける。
「不正は利益のために行われる。
だが今回の金額は小さい。
十八%の備蓄損失に対し、私の得は王国を裏切るには少なすぎる」
監査官が言う。
「慎重な横流しという可能性も」
「ならば戦直前に不足を出すのは愚策だ」
室内がわずかに揺れる。
「戦の直前に不足を出せば、疑われる。
私は合理を重んじる人間として知られている」
将軍たちが顔を見合わせる。
「合理主義者が、最も疑われやすい手を打つか?」
沈黙。
赤外套が口を開く。
「心理誘導という可能性も」
「ならば過剰だ」
俺は書類を掲げる。
「不足発生日と戦闘日が整いすぎている。
まるで“演出”だ」
ざわめき。
リディアの目が強くなる。
俺は王を見る。
「陛下。
私は不正をしていない」
言い切る。
「証明は?」
王の問いは冷静だ。
俺は答える。
「現時点では、証拠の偽造を証明できません」
空気が沈む。
論理は通る。
だが決定打がない。
赤外套が静かに言う。
「国は推測で裁けません」
「同時に、疑念のまま重職に置くこともできません」
監査官が続ける。
王が目を閉じる。
長い沈黙。
その間、誰も動かない。
やがて王は目を開いた。
「参謀よ」
その声は重く、疲れていた。
「お前の言葉に理はある」
わずかな希望。
「だが、証拠は覆らぬ」
それが現実。
「国の安定を優先する」
決定だ。
即断はまだ下さない。
だが、方向は確定した。
リディアが前へ出る。
「陛下!」
声が響く。
「彼はこの国を救った!」
「分かっておる」
王は苦く言う。
「だからこそ、余は苦しい」
沈黙。
「最終裁定は明日、城門前で下す」
公開の場。
もはや形式。
会議は終わる。
人々は去る。
視線は同情に変わっている。
疑念ではない。
“終わった人間”を見る目だ。
リディアが俺の前に立つ。
「なぜ、怒らない」
「怒りは解を生まない」
「だが……!」
彼女の声は震える。
俺は静かに言う。
「私はこの国を守るために最適解を出してきた」
「今の最適解は?」
「国を揺らさないことだ」
それが、王の選択。
そして俺の立場。
夜。
城は静かだ。
明日、裁定が下る。
ほぼ、決まっている。
だが。
俺はまだ、盤面を見ている。
最後まで。




