第29話:決定的証拠 — 王の選択
第29話:決定的証拠 — 王の選択
最終監査の日。
玉座の間は、これまでで最も重い空気に包まれていた。
民衆代表、将軍団、主要貴族。
公開形式。
つまり——見せしめだ。
監査官が一歩前に出る。
「最終報告を行います」
書類が運び込まれる。
山のように。
「不足物資、計十七件。
総損失率、一八%」
ざわめきが走る。
「さらに」
一枚の書類が掲げられる。
「王国金庫より、匿名名義口座への資金移動を確認」
空気が凍る。
「その名義がこちらです」
掲げられた紙。
俺の正式名。
紋章付き。
完璧な証明書。
赤外套が静かに言う。
「これでも否定されますか」
視線が突き刺さる。
俺は紙を見る。
印章も、署名も、本物としか思えない。
だが——
金額。
ほんのわずかに、不自然だ。
小さい。
欲にしては少ない。
横流しとしては継続的すぎる。
「……巧妙だ」
俺は呟く。
監査官が即座に反応する。
「何がです」
「欲にしては小さすぎる。
不正にしては規則的すぎる」
「理屈ですな」
赤外套が口を挟む。
「結果は結果」
王がゆっくりと口を開く。
「参謀よ」
玉座からの声は重い。
「余は、お前を信じておった」
静まり返る。
「だが、国は信頼だけでは動かぬ」
俺は王を見る。
迷っている。
だが傾いている。
「証明はできぬか」
「今はできません」
正直に言う。
嘘は意味がない。
沈黙。
長い沈黙。
やがて王が言う。
「国の安定が最優先である」
それが答えだ。
即断はしない。
だが、方向は決まった。
「最終決定は三日後に下す」
三日。
猶予ではない。
形だけの時間だ。
会議は解散した。
廊下に出ると、視線はもはや疑念ではない。
失望だ。
「やっぱり……」
「英雄も人だったか」
「国を裏切ったのか」
支持は崩壊した。
リディアが俺の前に立つ。
「三日だ」
「ああ」
「何かあるんだろう」
期待と焦燥が混じる目。
「……可能性はある」
「どれくらいだ」
「五分」
彼女は目を見開く。
「五分?」
「相手が完璧を装い続けるなら、必ず歪みが出る」
「だが時間がない」
「だから五分だ」
沈黙。
彼女は歯を食いしばる。
「私は最後まで立つ」
「巻き込まれる」
「構わん」
その言葉だけは、迷いがなかった。
夜。
自室で書類を並べる。
金額の推移。
物資不足の発生日。
戦闘発生日。
並びが美しすぎる。
まるで“物語”のように整っている。
「……やりすぎだ」
完璧は、逆に人工的になる。
だがそれを暴けるか。
三日後。
王が決断する。
俺の運命も。
ほぼ、決まっている。




