第28話:中間監査報告 — 逃げ場の消失 玉座の間。
第28話:中間監査報告 — 逃げ場の消失
玉座の間。
特別監査の中間報告が行われる。
貴族、将軍、文官。
ほぼ全員が揃っていた。
俺は中央に立つ。
被告の位置だ。
監査官が書類を広げる。
「物資不足は三倉庫、計十二件」
ざわめき。
「不足総量は王国備蓄の一三%」
小さくない。
だが致命的でもない。
問題は——
「これらすべてに、参謀殿の承認印が確認されております」
書類が並べられる。
俺の署名。
俺の印章。
完璧。
監査官が続ける。
「さらに、移送先として記録されている商会が判明しました」
扉が開く。
商人が連れてこられる。
怯えた目。
「……取引は事実です」
「誰と?」
商人は震えながら言う。
「参謀殿の名で」
空気が凍る。
赤外套が静かに言う。
「金の流れも確認済みです」
新たな書類。
口座記録。
金貨の移動。
名義は——
俺。
完璧だ。
偽造にしては、精巧すぎる。
「弁明はありますか」
監査官が淡々と問う。
俺は書類を見る。
構図は理解している。
小規模横流し。
複数回。
戦直前に不足発覚。
商人証言。
金の流れ。
論理的に、俺が犯人だ。
「私は関与していない」
静かに言う。
ざわめき。
赤外套が首を傾げる。
「証拠は揃っておりますが」
「揃えられている」
一瞬、空気が変わる。
「何を」
「完璧すぎる」
視線が集まる。
「不正はもっと雑になる。小規模で長期にわたるなら、必ず帳尻の歪みが出る」
「理屈ですな」
「理屈がなければ国は守れない」
王が初めて口を開いた。
「参謀よ、証明はできるか」
沈黙。
今は、できない。
証拠は相手の手にある。
「……現時点では不可能です」
その一言で、空気が決まる。
リディアが前に出る。
「陛下、彼は——」
「女騎士殿」
監査官が遮る。
「感情ではなく証拠を」
彼女は唇を噛む。
言い返せない。
王は重く息を吐く。
「最終報告までの間、参謀の職務は全面停止」
全面。
つまり、肩書きだけ。
実質、何もできない。
赤外套が一礼する。
「国のためです」
その目は勝利を確信している。
玉座の間を出ると、視線が痛い。
同情。疑念。失望。
混ざり合っている。
リディアが追いつく。
「なぜだ……」
「構図は読めている」
「なら」
「証拠がない」
彼女は拳を壁に打ちつける。
「私は信じている!」
その声は震えている。
だが。
彼女も、状況の重さを理解している。
「次で終わる」
俺が言う。
「最終報告で、決着をつける」
「どうする」
「相手が完璧を装うなら、綻びは必ずある」
理論上は。
だが時間は少ない。
城下では噂が広がっている。
「やっぱり不正だった?」
「英雄が裏切った?」
「信じられない」
支持は急速に崩れ始めた。
嵐は、もう目に見える。
逃げ場は、ほぼない。




