第25話:偽報告 — 完璧すぎる証拠
第25話:偽報告 — 完璧すぎる証拠
三日後。
嫌な予感は、外れなかった。
「参謀殿……またです」
今度は第二倉庫。
乾燥肉ではない。
今度は医療用包帯と回復薬。
不足率、一五%。
小さい。だが繰り返し。
俺は即座に帳簿を確認する。
そこには——
俺の承認印。
そして明確な搬出記録。
「転送先は?」
「南方補給路です」
「そんな命令は出していない」
補給官の顔が青ざめる。
「ですが……書類は正式です」
完璧だ。
筆跡、印章、日付。
しかも前回と違い、今回は複数枚。
偶発ではない。
計画。
俺は冷静に言う。
「全倉庫の過去二十日分を持ってこい」
山のような紙束。
暗算と記憶で照合する。
三か所。
三種類。
合計損失率、全体の約八%。
まだ戦力に影響は出ない。
だが。
「……積み上げ型か」
じわじわ削る。
目立たず、確実に。
その時、重い足音が廊下に響いた。
扉が開く。
赤外套の貴族と、監査官。
「ちょうど良かった、参謀殿」
赤外套が微笑む。
冷たい笑み。
「最近、物資の動きが妙でしてな」
「把握している」
「おや」
机に書類を並べられる。
「これら、全てあなたの承認印だ」
十枚以上。
俺は一枚ずつ確認する。
完璧。
偽物と断定できる証拠はない。
監査官が言う。
「数量は合計で相当額になります」
「証拠は?」
俺は淡々と聞く。
「あなたの署名、印章、そして搬出記録。十分でしょう」
理屈としては、成立している。
俺は反論する。
「その時間、私は別件で将軍と会議中だった」
「証人は?」
将軍は今、地方視察中。
確認は取れない。
赤外套が静かに言う。
「参謀殿ほどの方が、小さな横流しをする理由は何でしょうな」
“ほどの方が”
罠だ。
大きな汚職ではなく、小さく、継続的。
欲ではなく、油断を疑わせる構図。
扉の外に、リディアが立っていた。
彼女は中へ入る。
「何の話だ」
赤外套が説明する。
物資不足。承認印。横流し疑惑。
リディアの視線が、俺に向く。
「……本当か?」
その声は強くない。
疑い切っていない。
だが、完全な信頼でもない。
俺はまっすぐ返す。
「やっていない」
短い。
だが確実。
沈黙。
監査官が宣言する。
「正式に特別監査を行います」
「参謀殿の資源管理権限は、一時停止」
空気が凍る。
権限停止。
つまり——
俺は今後、補給に関与できない。
赤外套が頭を下げる。
「潔白ならば問題ありますまい」
その目は笑っていない。
リディアが俺を見る。
「……私は信じている」
だが。
ほんのわずか、迷いがある。
それが一番、痛い。
監査官たちは去った。
部屋に残る沈黙。
俺は書類を整理する。
感情は動かない。
だが、状況は悪い。
証拠は揃っている。
論理的に、俺が犯人だ。
「……なるほど」
完全包囲。
これは偶然ではない。
組織的。
そして計画的。
窓の外で鐘が鳴る。
城内に噂が広がり始める。
「参謀が横流し?」
「まさか……」
「でも証拠が……」
民衆の支持は、まだ崩れていない。
だが。
亀裂は入った。
リディアが小さく言う。
「何か、考えはあるのか」
俺は答える。
「ある」
「何だ」
「まだ、相手は詰めきれていない」
証拠は完璧。
だが。
完璧すぎる。
そこに、ほころびがある。
しかし。
それを暴く時間はあるのか。
権限は止められた。
次の戦が来れば——
俺は指示を出せない。
追い詰められ始めた。
静かに。
確実に。




