第22話:王国内評価爆上げ — 英雄と呼ばれた日
第22話:王国内評価爆上げ — 英雄と呼ばれた日
王都帰還の日。
城門前は異様な熱気に包まれていた。
「帰ってきたぞ!」
「丘陵の戦い、大勝利だ!」
兵士たちの凱旋に、民衆が歓声を上げる。
俺は隊列の後方にいる。目立つつもりはない。
だが——
「参謀殿はどこだ!」
「数字の英雄だ!」
誰かが言ったその呼び名が、一気に広がった。
数字の英雄。
あまり好きな響きではない。
リディアが隣で小声で笑う。
「隠れるのは無理そうだな」
「目立つのは非効率だ」
「今日は諦めろ」
城門を抜けた瞬間、子どもが駆け寄ってきた。
「本当に三百人に勝ったの!?」
「地形と配置の問題だ」
「すげえ!」
純粋な目。
計算できない熱量。
城内へ進むと、さらに空気が変わった。
商人たちが頭を下げる。
「参謀殿のおかげで交易路が守られました!」
「うちの息子も助かった!」
俺はただ頷く。
戦果の波及効果。
交易損失回避、税収安定、物価変動抑制。
数字はもう計算済みだ。
だが今日は——
それが“感謝”という形で返ってきている。
玉座の間。
簡易的な戦果報告の場が設けられた。
将軍が高らかに言う。
「丘陵戦、圧勝! 損耗最小!」
王が満足げに頷く。
「参謀よ、見事であった」
俺は一礼する。
「最適解を提示しただけです」
ざわめき。
若い貴族の一人が小声で言う。
「……あいつがいれば、軍が強くなりすぎる」
それを、俺は聞き逃さなかった。
だが顔には出さない。
褒賞が与えられた。
金貨。
そして正式な肩書き。
王国戦略顧問・補佐参謀
名が、格上げされた。
拍手。
歓声。
城外では、すでに噂が広がっているらしい。
「戦えば必ず勝つ参謀」
「未来が見える男」
「数字の預言者」
誇張だ。
未来は見えない。
ただ、確率を削っているだけだ。
夜。
城下町の酒場では俺の話題で持ちきりだった。
「参謀殿がいれば戦は安心だ!」
「王国は安泰だな!」
庶民の支持は、一気に傾いた。
支持率が急上昇しているのが、空気で分かる。
だが。
城の上階、重い扉の奥。
赤外套の貴族が低く言った。
「……危険だ」
向かいに座る別の男が問う。
「何がだ?」
「あの参謀だ。軍も民も、あれを支持し始めた」
「それの何が問題だ」
赤外套は静かに答える。
「軍を握る者は、いずれ国を握る」
沈黙。
「今のうちに、芽を摘むべきだ」
部屋の空気が冷える。
一方、城の中庭。
リディアが月を見上げていた。
「……お前、出世しすぎだ」
「数字が評価された結果だ」
「それが怖いんだ」
「何がだ?」
「目立ちすぎる」
俺は空を見上げる。
星は無数。
だが、目立つ星ほど狙われる。
「問題ない」
そう言ったが。
胸の奥で、微かな違和感が芽生えていた。
今日、俺は王国の英雄になった。
だが同時に——
“排除対象”として認識された。
名声は盾であり、的でもある。
追放への歯車が、
静かに、しかし確実に回り始めた。




