第21話:中規模戦闘 — 数字が戦場を制す 王都北西、丘陵地帯。
第21話:中規模戦闘 — 数字が戦場を制す
王都北西、丘陵地帯。
偵察兵が戻ったのは夜明け前だった。
「敵勢、約三百! 山間から進軍中!」
三百。
小競り合いではない。だが全面戦争でもない。
中規模。
――ちょうどいい。
陣幕の中、将軍たちが地図を囲む。
「正面から当たるか?」
「数は互角だ。押し切れる」
その言葉を、俺は否定した。
「正面衝突は損耗率が高い」
数人が顔をしかめる。
赤外套の貴族もいる。無言だが、視線は刺さる。
俺は地図に指を置いた。
「敵はこの谷を抜ける。道幅は最大二十歩。三百が同時展開は不可能」
「……続けろ」
将軍が促す。
「前衛百を囮に見せ、実際は左右高所に伏兵。弓兵は三列交代射撃。接触前に敵の二割を削る」
「二割だと?」
「地形傾斜7度、風向き北東、平均命中率から逆算。可能です」
赤外套の貴族が鼻で笑う。
「また机上の数字か」
俺は淡々と返す。
「現場で証明します」
リディアが前に出た。
「私が左翼を率いる」
「右翼は第三小隊。接触後、三十秒遅らせて包囲」
将軍がうなずく。
「よし、参謀案で行く」
その一言で、全軍が動いた。
谷間。
朝霧が薄く残る中、敵軍が進む。
俺は後方の指揮台から全体を見ていた。
数が動く。
歩幅、隊列、密度。
全部、数字に見える。
「弓兵、第一列——放て」
弦音が連なった。
敵前列が崩れる。
「第二列、五秒後」
風を読む。
命中。
混乱が広がる。
「左翼、今だ」
丘上からリディア率いる部隊が突撃した。
敵は隊形を整えられない。
谷という制約が、敵の数を殺している。
「右翼、三十秒」
数える。
二十九、三十。
「行け」
包囲完成。
敵の背後が崩れた。
戦闘は十分で決着した。
敵損耗、推定六十以上。
味方損耗、軽傷含め十七。
予測誤差、三%。
悪くない。
戦後。
兵士たちの歓声が丘に響く。
「参謀殿のおかげだ!」
「数字の魔術師だ!」
俺は否定しない。
事実だからだ。
リディアが戻ってくる。鎧に血飛沫。
「……圧勝だ」
「予測通り」
「恐ろしい男だな」
だがその表情は誇らしげだった。
一方。
後方で赤外套の貴族が、静かに拳を握っている。
予想は外れた。
俺が失敗する未来は来なかった。
将軍が高らかに宣言する。
「本戦、参謀の功績大なり!」
兵士たちが沸く。
名声が、上がる。
確実に。
だが同時に――
妬みも膨らむ。
夜、陣営。
リディアが焚き火越しに言う。
「今日でお前は完全に王都の英雄だ」
「数字が正しかっただけだ」
「……それが問題なんだ」
会議室で言われた言葉が蘇る。
数字で正しいことが、政治的に正しいとは限らない。
遠くで、誰かの視線を感じる。
敵は外にいる。
だが。
本当に警戒すべきは――
内側かもしれない。
炎が揺れる。
勝利の光の裏で、影が濃くなっていく。




