第20話:戦略会議 — 数字が敵を作る
第20話:戦略会議 — 数字が敵を作る
王都・戦略会議室。
重厚な円卓を囲むのは、王国の中枢だ。
将軍、騎士団長、財務官、そして数名の有力貴族。
俺は参謀として、壁際ではなく――正式に席を与えられていた。
それが、すでに気に入らない者もいる。
「では、先日の山間部の小競り合いについて報告を」
老将軍が口を開く。
戦果は上々。被害は最小限。補給も安定。
だが俺は、そこで口を挟んだ。
「補給は安定していません」
室内が静まる。
「何だと?」
俺は資料を机に置いた。
「現在の兵站計画では、三週間後に弓矢の供給が破綻します。訓練消費を考慮していない」
財務官が眉をひそめる。
「馬鹿な。報告では余裕があると」
「帳簿上は」
俺は淡々と続ける。
「ですが実消費率は帳簿より14.3%高い。理由は現場での予備射撃増加。これを放置すれば、次の戦闘で弓兵の稼働率は最大27%低下します」
沈黙。
将軍が腕を組む。
「根拠は?」
「昨日までの消費実測値。全倉庫の再計算済み」
数字を並べる。
誰も反論できない。
だが――
「……若造が」
低い声が響いた。
発言したのは、赤い外套を羽織った中年貴族。
辺境領を持つ、軍事派の男だ。
「帳簿を疑うとは、我ら財務系統への侮辱と受け取るが?」
「侮辱ではありません。修正提案です」
「机上の空論だ」
「現場数値です」
空気が冷える。
リディアが隣でわずかに身構えたのが分かった。
貴族は鼻で笑う。
「戦は気合で勝つ。数字で勝てるなら苦労はせぬ」
「気合は消耗率を下げません」
一瞬。
空気が凍りついた。
数人の貴族が不快そうに顔をしかめる。
将軍は面白そうに目を細めた。
「では、どうする」
俺は資料をめくる。
「弓兵訓練を15%削減。代わりに近接部隊の訓練時間を増加。補給経路を倉庫BからCへ変更。輸送日数を2日短縮可能」
「……根拠は?」
「地形傾斜と馬車損耗率から逆算」
再び沈黙。
そして。
将軍が小さく笑った。
「面白い。採用だ」
その瞬間――
赤外套の貴族の表情が、明確に変わった。
敵意。
露骨な。
「参謀殿は随分と自信家だ」
「自信ではなく計算です」
「……覚えておこう」
会議は続いたが、空気は明らかに変わっていた。
味方が増えた。
だが――敵も生まれた。
会議後、廊下。
リディアが低い声で言う。
「やりすぎだ」
「最適解を提示しただけだ」
「それが問題なんだ」
俺は足を止める。
「……何が問題だ?」
リディアは真剣な目で言った。
「数字で正しいことが、政治的に正しいとは限らない」
その言葉は、少しだけ胸に残った。
「参謀。気をつけろ。あの男は執念深い」
「了解した」
だが内心、理解していた。
今日、俺は王国を強くした。
同時に――
王国内に敵を作った。
風が城壁を抜ける。
戦は外だけで起きるものではない。
内部にも、火種は生まれる。
追放への布石が、静かに置かれた瞬間だった。




