第18話:仲間掛け合い — 女騎士との日常的な会話回
第18話:仲間掛け合い — 女騎士との日常的な会話回
王都・城内の中庭。
昼下がり、太陽はまだ高く、石畳に柔らかい影を落としていた。
「参謀、あの資料、まだ確認してないのか?」
リディアが鋭く声をかける。鎧姿ではなく、普段着に近い軽装だ。
剣を外しているため、いつもより少し親しげに見える。
「確認済み。数字も再計算した」
「……本当にお前は数字だけで生きてるな」
俺は肩をすくめる。
「そうだな。感情は補助変数だから、計算しない」
リディアは眉をひそめたが、目元は笑っていた。
「補助変数……何だ、それ」
「君の声の抑揚も、昨日の樽事件の衝撃も、数値化はできる。だが感情の変動までは解析できない」
「ややこしい男……」
近くの兵士たちはそっと距離を置く。
昨日の樽事件の噂がまだ残っているためだ。
「ところで、今日はどこへ行くんだ?」
「小競り合いで負傷した物資を整理する。倉庫と訓練棟を回るだけ」
リディアは両手を腰に当て、考え込む。
「……参謀、数字だけで毎日忙しそうだな」
「効率化には手順が重要だ」
「そうじゃなくて、もっと——気分転換を、だ」
「……気分転換?」
「計算ばかりで疲れるだろう」
確かに、計算は疲れる。数字を追うだけで頭が熱くなることもある。
「じゃあ、どうする?」
リディアは笑みを浮かべ、指差す。
「城内の茶室で一服。君も来い」
「……茶室?」
「簡単だ。数字を忘れて、お茶を飲むだけ」
俺は無言で頷く。
茶葉の香りと蒸気。湯気の中、数字の流れが一瞬止まる。
「ほう……意外と悪くない」
「だから言っただろ、気分転換は重要だと」
二人で茶を啜る。
湯気の向こうでリディアが笑った。
「参謀、もう少し人間らしい顔を見せろ」
「数字で十分人間らしい」
「……それを人間らしいとは言わない」
窓の外、兵士たちが訓練をしている。
数を追えば、動きも手順も瞬時に把握できるが、今日はあえて無視する。
「……あのさ、昨日の樽事件は偶然だったんだろ?」
「もちろん、計算通りだ」
「……なんか納得できないが、まあいい」
リディアは小さく肩をすくめ、茶をもう一口。
俺は数字を控えつつも、僅かに心地よい静けさを感じた。
「参謀、たまにはこういう時間も悪くないな」
「効率的には二十分が最適だが、感情変数は未知」
リディアが笑い、茶碗を置く。
「……数字だけで世界を動かす男だが、少しは人間らしい部分もあるってことか」
「解析不能だが、今日の時点ではその通りだ」
風が中庭を撫で、茶室の香りと共に、数字では測れない穏やかな時間が流れる。




