第12話 王国財政解析 — 暗算で王国の資金運用を最適化
王宮の財務室。
石壁に囲まれた広い部屋の中央に、巨大な机。
その上に積まれているのは、王国の命綱ともいえる帳簿の山だった。
税収。
軍費。
交易収入。
地方補助金。
備蓄金。
「これが現在の王国財政だ」
宰相が低く告げる。
「三年戦争が続き、余裕はない」
主人公は椅子に座り、帳簿を一冊開いた。
瞬間、世界が変わる。
数字が立体化する。
金の流れが川のように可視化され、
赤字部分は濁流となり、
黒字部分は細い支流となる。
総予算。
年間歳入。
歳出比率。
「軍費が総支出の四十二%」
「当然だ」
軍部の男が腕を組む。
「戦時だぞ」
主人公は淡々と続ける。
「ですが補給費の重複が発生しています。地方軍と中央軍で同じ物資を二重発注」
室内がざわつく。
「無駄は年間金貨換算で約八千枚」
「八千……?」
宰相が目を細める。
主人公は止まらない。
「さらに貴族補助金の配分が非効率。人口比率に対し最大三倍の偏り」
貴族の一人が顔をしかめる。
「それは伝統だ」
「合理的ではありません」
即答。
空気が冷える。
主人公の頭の中では、改善案がすでに完成している。
軍需発注の統合。
地方税率の微調整。
交易港への投資増額。
補助金の再配分。
「再構築すれば、三年以内に戦時赤字を黒字転換可能」
「……本当か」
「はい」
数字は嘘をつかない。
主人公は机に簡易図を描く。
円グラフ。
支出削減率。
投資回収予測。
「軍費比率を三十六%へ縮小。ただし戦力低下はなし。無駄を削るだけです」
軍部の男が睨む。
「戦力が落ちればお前が責任を取るのか」
主人公は視線を逸らさない。
「落ちません。補給効率が上がるため、実戦稼働率はむしろ上昇します」
沈黙。
女騎士が後方で腕を組み、静かに見守っている。
主人公はさらに踏み込む。
「問題は内部です」
宰相の眉がわずかに動く。
「軍需発注の一部に価格操作の痕跡。横流しの可能性」
部屋の温度が下がったように感じた。
「証拠は」
「あります」
帳簿の差異を指摘する。
数字のわずかな歪み。
だが彼にとっては明白。
「このまま放置すれば、五年以内に財政破綻確率五十八%」
「……」
誰も言葉を発しない。
主人公は最後に結論を出す。
「改革案を即時実行すれば、破綻確率は十二%まで低減」
宰相はゆっくり立ち上がる。
「採用しよう」
軍部の男が声を荒げる。
「待て!」
だが宰相は冷静だ。
「反論は数字で示せ」
沈黙。
反論は出ない。
主人公はただ事実を並べただけだ。
会議が終わる。
廊下に出ると、女騎士が並んで歩く。
「……大丈夫か」
「何がですか」
「敵を増やしたぞ」
主人公は即答する。
「増加率二十三%」
「自覚しているのか」
「合理的な結果です」
彼女はため息をつく。
「だがな、数字だけでは人は動かん」
主人公は少し考える。
今日の会議。
怒り。
嫉妬。
焦り。
数値化は難しい。
「感情変数は予測困難です」
「だから厄介なんだ」
王宮の窓から見える王都。
市場は賑わい、兵士は巡回している。
財政は改善される。
だが同時に。
既得権益を失う者がいる。
主人公の頭の中に、新たな数値が浮かぶ。
“排除リスク 上昇”
それでも彼は止まらない。
合理的である限り、進む。
だが王国は今、
静かに軋み始めていた。




