↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/4

第二話:”彼”の秘密

 某年 五月二十三日 金曜日。

段々とぽかぽか暖かくなってきた、午後十二時三十分頃の昼下がり。

本日も、晴天なり。


 “気になる彼”と出会ったあの日から、一か月と半分の月日が矢継ぎ早にも過ぎ去っていった。

特段なにか変わったこともなく、ただ毎日、授業を淡々と受けるだけの日々だったけれど。

まぁ、変わらない“いつも通り”が一番平和で、素敵だとも思うから、僕はあまり気にしてはいないが。

…いや、一つだけあったな。

いつも通りじゃあなかった事柄が。


 ふっと思い出すかのように突然、脳裏へと横切ってゆく“彼”との出来事。

一番最初に流れるは、つい今朝に交わした“彼”との会話。


『おはよう、春千夜くん。今日もいい天気だね』


『るせぇ…。無駄に暑いだけだろ』


『そう?確かに温かくはなったけど…』


『…あそ』


そうそう、今朝は確か、そんなお話をした。

どのシーンを切り取っても、僕から声を掛けていることがほとんどで、彼は基本、どこか眠たそうに机に突っ伏していて。

その体制のまま、低く小さく、明らかに“面倒くせぇ…”の気持ちが込められていそうな声色で、天邪鬼な言葉を返してくれるのみだけれど。


はたから見れば、“それは本当に会話が出来ているのか?”だなんて思われてしまうのかもしれない。

けれど僕は、少なくとも“これは会話だ”と、勝手ながらにもそう、思っている。

そりゃ、すぐに会話が途切れてしまうことが多々あるけれど。

けれど彼は、“言葉”を返してくれるから。


茉莉くんが教えてくれた、“孤高の一匹狼”だなんて噂、やっぱりただの噂にすぎなかったんだなぁ、なんて改めてそう思う。

だって彼は、春千夜くんは、僕の言葉に必ず一言は返してくれるのだから。


そんな彼は、今一体どこにいるのだろう。

ふぃ、と隣の席の方へと視線を向けてみるも、そこには誰もいない。


…あ、別に深い意味はないし、別に深刻な状況って訳でもないよ。

もし心配を掛けてしまったのならば、ごめん。

ただ彼は、毎度のごとく、昼休みになると人知れずに姿を消してしまうというだけだ。

気が付けばもう不在、ってことがほとんどだろう。


…ん、なんで急にそんな話を持ち出したのかって?

その理由は、おのずと浮かび上がってくるだろう。


「…また、誘えなかったな」


そう、ごく普通に“一緒にお昼ご飯、食べない?”って声を掛けてみたかったのだ。

まぁ、今までの彼の反応や発言を思い返す限りでは、多分…、いや、絶対に断られてしまうだろうな、とは思うけれど。

それでも、誘ってみたい。

声を掛けてみたい。

なんだか無性に気になってしまう“君”と、ほんの少しだけでも“二人きりの会話”をしてみたい。

そう思うようになってしまったから。


今まで他人に対して興味こそ持てど、これまでは近付いてみたい、なんて思ったこともなかったから。

自分でも少し、驚いている。


 …いや、僕のことは別にいい。

これといってなにか面白みのある話が出来る訳でもないし。

そんなことよりも、今は彼_春千夜くんのことだ。


「…ちょっとだけ、探しに行ってみようかな」


 もとより僕は、そこまで食欲旺盛って訳でも、大食らいって訳でもないから、多少昼食が遅くなったところでどうってことはない。

見つからなかったら、適当に空き教室とか、中庭とかで食べたらいいし。


そんな、誰に対してかもわからない言葉を脳内でつらつらと並べながらも、静かに己の席を立つ。

お弁当の入った巾着袋を、手に取って。


さて、まずは目撃情報の確認から…、なんてね。


◇◇ ◇


「˝ぇっ…。は、春千夜ォ…?さ、さぁ…。俺は見てね~かも…?」


「ぁ、それってあの、孤高の…?…そもそも、学校に来てるの?彼って…」


「知らねーけど…。どうせまた、他校の奴と喧嘩でもしてんじゃねぇ?」


 …これは、うん、予想外だ。

思っていたよりも、目撃情報がなさすぎる。

挙句の果てには、“春千夜くん”と彼の名前を口に出すだけでも、怯えた顔をし走り去ってしまう子すらいた。


…おおよそ、“あの噂”が原因なんだろうな。

たかが噂、なのに。

…いや、されど噂、ってことか。


開始数分にして、同学年の生徒たちに聞き込む作戦は失敗してしまった。

と、なると…。


「しらみつぶしに、手あたり次第探してみるしかないかなぁ…」


校舎裏や屋上、図書館、中庭などなど、昼休み中に人が集まる場所なんて、教室以外にも沢山ある。

そこを順々に巡っていけば、いずれは必ず彼の姿を見つけることが出来るだろう。

そういった、ごく単純な作戦だ。


…とはいっても、制限時間は午後の授業開始までの約三十分の間だけ。

全ての箇所を回るには、廊下中を豹のごとく駆け回らない限りは、ほぼ不可能に近い。

したらば、なんとか数か所選別していくしかないか。


そういうことならさて、まずはどこから回ろうかな。

どこが一番、彼のいる可能性が高いかな。

ない頭で考える。


 …いや、違う。


「人がいない場所、か」


約一か月の間、“お隣さん”としての関係を経て、徐々に知っていくことが出来た、…ような気のする、彼の性格。

彼は、クラスメイト達を含む“赤の他人”から声を掛けられることを、妙に嫌がる。

返答こそするものの、彼の口から零れるのはたいてい、そっけなく冷たい言葉ばかり。

だからこそ、そう思った。

人気のあまりない場所こそ、彼のいる可能性が高いのではないか、と。


さながら気分は名探偵のそれだ。

まぁ実際のところは全然違うし、僕がそう名乗ってしまうには、本当の探偵さんに失礼だとは思うけれど。


…けど、もし本当にそうなら、少しだけ不思議に思ってしまうことがある。

彼は確かに、僕を含め他人と接することを嫌がる節がある。

しかし、会話を諦め立ち去ってしまうクラスメイトの背をただ見つめる彼の瞳が、微かに愁いを帯びているように見えたのだ。


目は口ほどに物を言う、ということわざがあるように、人間の瞳にはその人の感情そのものがありありと浮かびあがってしまう。

喜び、怒り、哀しみ、楽しみのすべてが。

少なくとも僕はそう、思っている。


…まぁ、僕は春千夜くんじゃあないから、深くまでは分からないのだが。


そんなことを脳裏に浮かべながら、僕は静かに階段を降り、生徒玄関へと向かう。

先ほど挙げた選択肢の中から一か所を選ぶとしたらきっと、校舎裏だろう。

あそこはかなり日当たりが悪く、少々肌寒い上に、いたるところがじめじめと湿っている。

最近は段々と暖かい気候になってきているとはいえ、今はまだ五月半ば。

セーターの手放せぬ季節だ。

そんな時に外に出るのであれば、皆はきっと、校舎裏よりも中庭や屋上の方を選ぶだろう。

だから逆に、校舎裏にはあまり生徒は集まってこない。

そういう考え。


 ほどなくして、生徒玄関へと到着する。

僕は上履きを脱ぎ、ローファーへと履き替えた。

そしてそのまま、校舎裏の方へと歩みを進めるのであった。


◇◇ ◇



「…わ、本当にいた」


 誰も手を付けていないせいで生い茂ったまま放置された草木を掻き分け、校舎裏の方向へと進んでいく。

そしてようやく、雑草の刈り取られ整地された、それなりに綺麗な場所へと出る。


注意深く足元ばかりを見ていた視線をふっと上げ、真っ直ぐ前を向き直した。

すると、すぐに彼の姿を見つけることが出来た。

木々の連なる、唯一日差しの掛かる箇所。

その一つの木の下に、制服の上から着用していたはずのパーカーを地に敷き、上にごろりと

寝転がる彼。

どうやら、眠っている様子だ。

大きな身体をくるんと丸くさせ、小さく縮こまってしまっている。

日差しの差す場所とはいえど、お昼寝をするには流石にまだ涼しすぎるのだろう。

制服_シャツ一枚でいるのなら、尚更に。

そう思い僕は、自身の制服のジャケットを脱ぎ、ぱさりと彼の身体へと掛けてあげる。


これで、幾分かマシになればいいのだけれど。


「…ぅ…ん…」


 そんな小さな、言葉とはとれぬ声が僕の耳元へと聞こえてきて、ふっと再び彼の方へと視線を戻した。

彼は暖を取るためにか、それともただ縋りたいだけなのか、僕のジャケットをぎゅ、と握りしめてはふわりと先程よりも少し表情を和らげてみせた。

まるで心地よさそうに母の膝の上で眠っている、赤子のようだ。

…いや、流石に高校生相手に赤子は、少々失礼か。


 まぁ、なんにせよ。


「…ふふ。なんだか…、可愛らしいね」


ふとそう、思ってしまった。


こうしてみると、ちゃんと彼も同じ高校生なんだな、なんて思う。

クラスメイトなんだから、当たり前ではあるのだけれど。

彼はどこか、他人と比べ幾分か大人っぽい雰囲気がある、と個人的には思っていた。

だからこう…、子供らしい一面というか、言葉を選ばずに言うのならば“彼の無防備な姿”を見れたことが、いっとう嬉しく感じられる。


気が付けば僕は、春千夜くんの頭へ真っ直ぐ手を伸ばしていた。

彼の長く伸ばされた黒色の綺麗な髪を梳くように、優しく撫でてあげる。


…懐かしいなぁ、僕も昔、“おにぃ”にこうやって、ぽかぽか温かいその手で、撫でて貰ってたなぁ。

なんて思い出話が、心の中へと浮かんできた。


 …その時、だった。


「…ん?」


 なにかふわふわと柔らかい感触が、温もりが、僕の手のひらへと伝わってきた。

…なんだろ、髪とは違うような感覚。


彼のその黒色の髪の質は、ふわふわというより、さらさらしているから。


…って、そんなこと、今は一旦いい。

じゃあ一体、僕はなにに触れたんだ…?


むにゃ…、と小さく声を漏らす彼の緩んだ表情から、未だ触れたままの頭上へと少し視線をずらしてみる。

すると、そこには。


「…ぇ。み、み…?」


大きな大きな、三角のお耳がぴょこん、と彼の髪へ紛れて生えていた。

さも元々、そこに存在していたかのように。

一ミリの違和感もなく、当たり前に。


…なん、だろう。

犬か猫かのような、動物みたいなふわふわした耳。

さっきまで、というか今まではなかったよね、こんなの…。

えっと…、一体、なにが起こって…?


そう一人プチパニックを起こしていると、その手に擦り寄るように、春千夜くんが僕にぴったりくっつこうとしてきた。


…なんだか、わんこみたいだ。


「…ぁ…?」


刹那、目の前の彼_春千夜くんが、ぱちりと目を覚ました。

まだぽやぽやとした眠そうな瞳で、ぼぅっと僕の方を見つめている。

のそりとゆっくり、身体を起こす。

そのためか、ぱさりと彼へ掛けていた僕の制服のジャケットが地面へと落ちてしまった。


「…ぇ」


突如として、僕の視線の先へと映り込んできたのは。


「…ッ!?!?」


彼の背でゆらゆらと揺れる、真っ黒でふかふかの、大きな尻尾。

彼の身体へ突如として生えてきた、謎の耳と尻尾。


はたしてその正体とは…!?


次回もよろしくお願いします!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。