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第16話 そういえばお腹空いたよな

 外へ出るとすっかり真っ暗だった。


 思ったよりも撮影に時間がかかってしまった。

 これでは、安売りセールもとっくの昔に終わってしまっただろう。


「大丈夫かな」


 四衣凪がぽつりとつぶやく。


「上手く撮れたかどうか?」


「違うって! そうじゃなくて、これで本当にあいつ……元カレは引き下がるかな」


 これまでの九条の悪行を目の当たりにしてきた四衣凪。あいつの往生際の悪さを人一倍知っている。のかもしれない。


「まあ、大丈夫だろう。やっていることの質の悪さに対して、妙に慎重だったからな。自分を追い込むような頭の悪い行動はしないよ、きっと」


「まあ……そうよね。腹立つけど、成績はいつも上位だし、あいつ」


 四衣凪が道に転がる小石を蹴った。


 ぐるる――。


 お腹が鳴った。四衣凪の。


「そういえばお腹空いたよな」


 顔を赤らめて、四衣凪が睨んでくる。


「お気遣いありがとう! 私もちょうどお腹が空いた!」


 なぜか、ぷんぷん怒る四衣凪。

 お腹空いたと言ったことが気にくわなかったのか?


 ――はっ! そうか。これは。


 男子が女子にご飯驕るとか、常識じゃね? 的なアピール!?


 そうだ。こんな夜までつき合わせといて、晩御飯の一つも用意できなければ、この世界のルール的にあまりにも無作法。


 きっと、明日、四衣凪は学校で――。


「柊くん、晩御飯も驕ってくれなかった。夜まで引き釣り回しておいて。くすん」

「やば。あいつ、この世界のルール的に非常識すぎっしょ。これからみんなで避けようぜ。あいつの近くにいると異世界の厄介事に巻き込まれるぞ!」

「そうだ!」「そうだ!」「そうだ!」「そうだ!」


 みたいな空気になってしまう。

 そんなことになれば只でさえ浮きがちな学園生活が、さらに浮彫のように浮いてしまって、平凡な日常からまた遠ざかってしまうこと必至。


「あー。えーと、四衣凪さん」

「何よ」

「ご飯でも一緒にどうでしょうか」

「え――」


 四衣凪が目を輝かせながら、立ち止まった。

 

 やっぱりそうだ。ここで、何もおごらずに帰してしまってはいけない。


「ふ、ふーん。そうなんだ。柊くんは私とご飯一緒に食べたいんだ」


 なぜか視線を晒しながら髪をいじりだす四衣凪。

 その隙に財布の中身を確認する。


 せ、千円札一枚! いかん! これじゃあ外食はほぼ不可能!


「……で、どこ行くの?」


「ど、どこ? ……とは」


「別にどこでもいいよ。ファミレスでも、マックでも」


 いや無理無理。あ、そうだ。一人分ぐらいならいけるかも。


「じゃ、じゃあファミレスにでも……俺は見てるから四衣凪が好きなもの食べるといいよ。……千円以内で」


「はぁ? 何それ――っていうか千円しかないの? なんでご飯に誘った!?」


「い、いや、礼儀かな……と思って」


「はぁ」と四衣凪が肩を落とす。


 そして、一拍してもごもごと喋りだす。


「……どうせ柊くんの家にいかないといけないんだから。それでも、いいよ。何かあるでしょ、さすがに」


「そ、そうだな――袋めんぐらいなら、あった気が」


「いやいや、いつもどんな食生活しているの!?」


「え……半額弁当オンリー。みたいな」


 四衣凪が、さらに深いため息とともに肩を落とす。


「自炊しないんだ……調理器具とかはあるの? お米とか、炊飯器とか」


「それぐらいなら……引っ越してから一回も使ってないけど。米に関してはまだ袋も飽けていないけど」


 どうにも、現代社会の調理器具はこじんまりしてしょうに合わないんだよな。

 もっと、豪快に大剣とかを火であぶって、野獣の肉のざく切りを熱して食べるとかの料理ならできるんだけど。


 ……二十年の異世界生活で、米の炊き方を忘れてしまったことは、黙っておこう。なんとなく、めちゃくちゃ責められそうな予感がする。


「わかった……だったら、帰りがけにスーパーよって、何か買っていこう。それなら千円札一枚でもなんとかなるでしょう」


「え? 料理できるの?」


「意外でしょ? よく言われるけど、こう見えて料理は得意なんだよね」


「そっかー。それは助かるな。正直、こっちの世界に帰ってきてから野菜が食べづらくて困ってたんだよな。妙に高いし」


「何おっさんみたいなこと言ってんのよ。油ものと炭水化物ばっかり口にしていたら、すぐに太るよ」

 

 唐突にスマホが鳴った。

 四衣凪を見ると、どうぞ、と手で合図を送ってくれたので、俺は遠慮なしに電話を取る。


「誰だ貴様。俺の番号を知っているのはこの世界で二人だけ――」


『そのうちの一人ですけど』


 げ。副委員長だった。

 しまったなあ。ちゃんと確認していれば取らなかったのに。


「何の御用でしょうか。ちゃんと四衣凪さんの依頼は無事解決しましたが」


『それは良かったわ。私から逃げといて失敗したなんて言ったら、明日から校門の敷居通れないようにするところだった』


 どうやったら、そんなことできるんだよ。――いや、できそうだな、副委員長なら。


『まあ、それは置いといて。今どこ? すぐ学校に来て欲しいのだけど』


「え? 今すぐ学校に来て欲しいって聞こえた気がしたけど、気のせいだよな。この辺は電波の通りが悪いのかな」


『……ちゃんと聞こえているじゃない。とにかく今すぐ来て』


「いやいやいやいやちょっと待て! 俺は今から――」


 四衣凪を見る。きょとんと首をかしげてこちらを見ている。


 副委員長に今から四衣凪と家でご飯食べる……という言い訳は言わない方が良い気がした。


「――何でもない。けど、本当に今から? マジで? もう真っ暗だよ外」


『安心して。ちゃんと学校の許可取ったから。校則違反にはならないわ』


「いやいやいやいやいや、だから、そうじゃなくて。さすがの俺も今日は業務時間終了で」


『早くこないと、校内に現れた魔獣が何しでかすかわからないわよ。被害が大きくなる前に早めに対処しなくちゃ、でしょ? Sランクハンターの柊くん』


「って言われても……あ、切りやがった、あいつ!」


「どうしたの? 何だか不穏な会話していたけど」


「悪い四衣凪。俺は今すぐ学校に行かないといけなくなった」


「はぁ!? 今から?」


「そういうわけだ。すまない」


 俺は手でひっぱっていた自転車にまたがる。


「ちょ、ご飯どうするのよ!?」


 四衣凪に近づき、千円札を手渡す。


「これを好きに使ってくれ! 部屋の鍵は開いているはずだから好きに使っていいから。自炊したいなら、それも自由にしてくれ」


「そ、そんなこと言われても!」


「じゃあ、すまない。俺は今すぐ全力疾走で学校へ戻る」


 めいっぱいペダルを踏みこむ。


「こんなところに女子一人置いてきぼりかーっ!!」


 背後から四衣凪の声が聞こえた。なので、俺は前を向いたまま大声で答える。


「オムニレクス置いてくから! 家までちゃんと送ってくれるから!」


 長時間の召喚は体にこたえるが、あの異界の王なら何があっても四衣凪を守ってくれるだろう。


 全速力で駆け抜ける。

 さっさと、要件を済ませて。家へ帰ろう。

 さすがの俺も今日は疲れた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回、エピローグをもちまして完結です。


もし、少しでも面白かった、今後の九条くんが心配……など思っていただけたら、ブックマークや、下の【⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎】からポイントで評価をいただけると、執筆の大きな励みになります。


明日の最終話もよろしくお願いします!

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