45.圧倒的力
高い崖だったが、何とか降りられる場所を探して下に降りる。
砦は崖からそれ程離れていない場所に建っていた。
「崖さえ降りられれば侵入し放題だな」
「ええ、崖から敵が降りてくることも少人数で攻めてくることも見越していないのよ」
「なるほど」
マリーの答えに納得がいく。
遊撃部隊が少人数ずつ現れていたのは敵に気づかれることなく攻める為だったのだろう。先陣を切った遊撃部隊の人は勇気がある。俺なら嫌かも…………いや、命をかける価値があるならやるか。
闇落ちしてから感覚も変わってしまった。人間に復讐する為なら多少の危険を冒しても良い。
例外はクルスくらいだ。
「もう砦を落としたってことで良いのか?」
クルスが向かっていたのは心配だが、もう砦は陥落している。
いくら勇者でも1人で覆すのは厳しいはずだ。
実際、砦の中は赤鷲騎士の制服を着た人がごろごろと転がっていた。
「今のところは制圧したといえるかしら。でも顎鬚の男、あいつが怖いわ。…………勇者も砦に入って行ったし」
ちらりと俺を見たマリーはそれ以上言うことなく砦の中を進んでいく。
マリーはこういう気配りがすごいと思う。
「顎鬚の男。あいつ強そうだったよな。最後見つかったかと……」
「……見つかってたわよ」
「えっ?」
当たり前のように言われて固まる。
マリーの言っていることが確かなら、わざと見逃されたということだろう。なぜそんなことをしたのか分からない。
「子ども好きっぽいし、勇者に対する酷い扱いを見た後だから戦う気にならなかったんじゃない? 私もイオも勇者と同い年くらいだし」
「だから遠ざかる方に歩いて行ったのか……」
もしあの場で戦いになっていたら死んでいた。
知らないうちにギリギリの綱渡りをしていたらしい。見逃されて良かった。
ほっとしつつも、なんだかムカつく。
ああいう場でも切り抜けられるくらい、もっと強くなりたい。騎士団相手に俺から仕掛けられるくらい強く。
ムスッとむくれていると、マリーが辺りを見まわす。
味方の姿がないと気にしているらしい。
「うーん」
どういう計画になっているのか知らないが、この後軍部も来るのだろうか。
何も知らないで連れてこられたから何も分からない。他の遊撃部隊がどこに居るのかも分からなかった。
とりあえず遊撃部隊に合流することを目標としながらも警戒は怠らない。
実際、ここに来るまでに何度か残党に襲われていた。
「きさまぁ!!」
倒れていれば見逃すのに何故か襲い掛かってくる赤鷲騎士が何人もいる。
彼らは命をかけてまで魔族を襲わなければいけないのだろうか。
俺の知る限り、正規兵なら敗走したとしても命を取られることはない。奴隷落ちするなんて話も聞いたことがなかった。
魔族に対して憎悪があるのかもしれないが、あまりに悲しい。
でも、これが魔族と人を隔てる心の距離だ。
足を引きずりながら襲い掛かってきた人間を一太刀で切り捨てる。
砦に居た赤鷲騎士団の生き残りは、元気がなさそうなゼルファイアでも問題なく倒せるくらい、どこかしらに傷を負った人ばかりだった。
「…………」
連携することなく単騎で襲い掛かってくる赤鷲騎士に何と言ったら良いのか分からない。
倒れた赤鷲騎士に視線を向け、動かないことを確認する。
気分が乗らない俺と違い、ゼルファイアは瞳に力が戻ってきたようだ。
敵の血を吸ったからか、闇の力も強く感じる。狂剣とは想像以上にヤバい剣だったらしい。魔力もどんどん吸い込むようになっている。
元気になっていくゼルファイアにドン引きしていると、マリーがため息をついた。
「思ったより生き残りが多いわね」
「そうだな。見逃したのか、目的が別なのか……」
砦の破壊が目的なら騎士を倒し切る必要はない。俺が山を消したように大規模魔法を使えば良いのだ。
対策が練られているから成功することはほぼないが、嫌がらせにはなる。わざわざ攻め込んだということはそれ以上の報復がしたかったのだろう。
俺は横から襲い掛かってきた赤鷲騎士の喉元に剣を突き刺し、とどめを刺す。
一度目の戦場とは違って吐き気もなかった。
あの凄惨な戦場を見たおかげか、両親やシェリーの夢も見ない。たまに思い出されることはあるが、不眠に悩むほどではなくなった。
それが良いことなのか悪いことなのか。全く分からないが、多少頭が回るようにはなった気がする。
「本当に生き残りが多いな。遊撃部隊はいないのに」
「一体どこにいるのかしらね」
そこそこ歩いたはずなのに誰にも遭遇しない。出会うのは赤鷲騎士ばかりだ。
戦闘の痕跡はそこかしこに見られるから、通ってはいるのだろう。
だが、遊撃部隊だけで2,300人いるはずなのにこんなに会わないことがあるか?
大きい砦とは言え、どこかに固まっていない限り会わないはずがない。
どこかにヒントがないかと見渡した時、爆発音と地響きがした。
「なっ、なんだ?」
揺れは一瞬だったものの、天井から粉が降ってくる。
誰かが上で暴れているようだ。いつ崩れてもおかしくないくらいの轟音が響いていた。
「まさか、勇者が?」
厳しい表情で上を見たマリーが走り出す。
俺は知らない砦だが、マリーは内部構造を知っているのかもしれない。迷いのない足取りで階段を見つけ出し、のぼっていく。
その先で見たのは負傷した遊撃部隊たちと勇者……クルスだった。




