44.最低な再会
クルス!!
マリーが止めてくれなければ叫んでいただろう。
それくらい衝撃的で信じられない光景だった。
なんでクルスがこんなところに!
あいつは勇者のはずだろう!?
最後に会った時よりやつれている風貌はどういう扱いを受けているのかを如実に表している。
雑に引きずり出された様子と良い、勇者なのに大切に扱われていない。抵抗しないのも無駄だと悟っているからかもしれない。
あの時、大丈夫だと言うクルスを信じなければ良かった!
そうすればクルスがこんな目に合うことはなかったのに。
そんな後悔が湧き上がるくらい、だらりと立つクルスの姿は衝撃的だった。
諦めたように力のない瞳を青鷹騎士に向けるクルスは、見ているようで何も見ていない。
この数か月で何があったんだ。
クルスを……助けなければ。
思わず手を伸ばした俺をマリーが引き留める。
赤鷲騎士団の獣人の耳がピクピク動いて、とても危険な状況なのは分かっている。それでも俺の視界にはクルスしか映っていなかった。
「勇者、貴方ならあの砦を取り返すのも簡単でしょう? この崖を飛び降りて砦を奪還してきなさい!」
「…………」
言うが早いか青鷹騎士がクルスを崖に向かって蹴り飛ばす。
クルスはまだ是とも否とも言っていない。
口を開くより早く青鷹騎士が動いていた。
クルスは無気力なようだし、そのまま落下していくだけかと思ったが、光魔法を器用に使って崖の下に着地する。
その姿に不安定なところはなかった。高いところから突き落とされるのにも慣れているのかもしれない。
……良かった。
光魔法って翼を生やせるんだな。
クルスは金髪碧眼のまるで天使のような見た目だ。
顔つきがすさんでいなければ美貌のクルスに良く似合っていただろう。やつれていても神秘的な光景に目を奪われた。
「青鷹、俺はガキを虐待する奴が嫌いなんだよ。勇者だってまだ成人してないだろ」
崖の下から砦へ向かう勇者を眺めながら赤鷲騎士が呟く。赤鷲騎士は青鷹騎士と違って、ある程度以上の倫理観を持っていたらしい。
「そうは言いましても罪人ですよ? 人柱を砕き、天にヒビをいれたね」
「本気で言ってんのか?」
ぎろりと音がしそうなほど青鷹騎士を睨んだ赤鷲騎士がそのまま俺たちの方を見る。
ば、バレた?
一瞬目が合ったような気がして体が硬直する。
しかし、赤鷲騎士はそのまま視線を勇者に向けた。
「本気も何も、裁判で本人がそう言っていたでしょう。今更覆りませんよ」
「…………」
赤鷲騎士は顎鬚を撫で、何かを考えているらしい。
何か言いたそうな雰囲気を放っていたが、それ以上何も言わず俺たちから遠ざかる方へ歩き出す。
周囲に居た赤鷲騎士たちも先を進む大男を追いかけて去って行った。
「ちょっと! どこに行くんですか!」
ひとり置いていかれそうになった青鷹騎士は慌てて後を追う。
やはり仲が良い訳ではないようだ。
そちらのやり取りに気を取られているうちに、砦へ向かったクルスの姿が見えなくなっている。
クルスは無事に砦に辿り着いたのだろうか。
ひとりで戦場へ向かうクルスを思うと胸が痛んだ。
「イオ! 見つかったらどうするの!!」
勇者を見てから様子のおかしい俺にマリーが詰め寄る。
きちんと騎士たちの集団が離れてからの行動だ。怒っていても我を忘れていない。
うーん、そうだよな。
あの場で見つかって危なかったのはマリーも同じだ。マリーには本当に悪いことをしたと思う。
そう思っているのに、まだクルスのいる砦の方を見てしまう。
「…………悪い」
あそこで見つかればマリーも道連れに命を失っただろう。
反応してはいけないと分かっているのに……。それでもじっとしていられないくらいクルスに驚いてしまった。
「まさか、夢で見たのと同じ状況になっているとは思わなかったんだ」
ぽつりと呟いた俺にマリーが首をかしげる。
何も知らないマリーからしたら理解できない言葉だ。俺が急におかしくなったように見えただろう。
「……勇者と知り合い?」
クルスが去っていた砦を見つめ、マリーが問いかける。
マリーは頭が良い。俺が隠せないくらい反応してしまったのもあるけれど、聞かれたくないことを鋭く突いてくる。
どう答えるのが正解か、俺には分からなかった。
ただ静かにマリーを見る。
「…………悪い」
色々考えた結果、口から出たのはさっきと同じで謝罪だ。
クルスのことは助けたいが、今の俺は魔族になっている。勇者たるクルスは最大の敵だ。
どうやって助けたらいいのか分からない。
そもそも助けて良いのかも……分からない。
俺は黒くなった自分の髪をひと房掴み、黙り込む。
そんな俺にマリーはため息をついた。
多分、マリーは俺とクルスに何らかの関係があると確信している。それでもこれ以上追及するのはやめたらしい。
ため息をついて、肩をすくめた。
「……私たちも砦に向かう道を探しましょう。ここに居ても仕方がないわ」
マリーの言うことも一理ある。
俺たちは隠れていた木から降り、崖に近づいた。
あれだけ震えていた体ももう異常がない。
あの時の感じからすると危険察知系のスキルを手に入れていたのだろう。
俺は赤鷲騎士団が去って行った方を一度確認し、砦を睨みつけた。




