46.重なる視線
一人で凄まじい被害を与えている勇者に対峙しているのはリンダールだ。いつもの涼し気な表情が崩れ、憎しみを露にしている。
「リンダール!!」
叫んで近づこうとすると、リンダールが叫び返して来た。
「隠れてろ!!」
敬語をかなぐり捨て、勇者と鍔迫り合いをするリンダールは俺たちを見ることもない。
意識を逸らした時点で危ないのだろう。よく見ると戦闘狂のアランも膝をついていた。頭から血を流しているので、意識があるかも怪しい。
「あなたたちはこっちへ。よくここまで来れたわね」
「……イオのおかげよ」
腕を押さえたフローリアが話しかけてくる。クルスを警戒しているようだが、積極的に戦いに参加しようとはしていない。
先行していた遊撃部隊は全員、最上階に集まっているらしい。元は壁があったであろう場所もぶち抜かれて大穴が空いている。おかげで最上階がワンフロアのようになっていた。
「いや、マリーがひとりならもっと楽に来れただろ」
ツンとした表情でフローリアに答えるマリーに俺もぼそっと呟く。
そんな俺にフローリアの視線が向いたが、それ以上追及されなかった。
情けないけれど、高い崖ひとつ降りられない。これが今の俺の実力だ。
「降りれたとしてもあいつらに見つからずに砦まで来れたか分からないわ。勇者も居たし、他にも……」
「え、勇者の他にも人間が居たの?」
「ええ。顎髭で背の高い……赤鷲騎士団団長が」
「「団長!」」
俺とフローリアの声が重なる。
強そうな男だとは思ったが団長だとは思わなかった。
でも、あいつが赤鷲騎士団団長なら騎士の中で最強ということになる。
この砦はそれ程重要なのだろうか。
「勇者だけじゃなくて赤鷲騎士団の団長までいるなんて……。厄介ね」
ちらりとリンダールの様子を伺うフローリアは苦々し気に唇を噛んだ。
目で追えないほど白熱している戦いはフローリアでも手が出せないのだろう。周りを囲んでいる遊撃部隊も武器に手をかけているだけだ。
「クル……勇者はそんなに強いのか?」
俺が地上に居た頃はそれほど強いと感じなかった。
力は強いが剣技はそこそこ。魔法やスキルは隠していたのか、良く分からなかった。
「強いわ。先代も強かったけれど、同じくらいかしら」
「先代と同じ!?」
マリーが勢いよく身を乗り出す。
その食いつき方に俺も驚いた。
「そう、先代勇者の全盛期にほど近いわ。当代はまだヒヨコなのに……」
「……そんな」
絶望したように呟くマリーに俺は首をかしげる。
俺が生まれた時には死んでから暫く経っていたので、先代勇者のことは良く知らない。噂になることもなかった。
そんなに強い勇者だったのか?
マリーやフローリアが顔をしかめる程に。
じっとクルスを見ても強いということしか分からない。俺ではリンダールと互角に戦うことなんてできないだろう。
ただ、リンダールは剣がそこまで得意ではないのか、闇魔法がメインで接近されたら剣を使っている。
剣が得意なクルスとは相性がそこまで良くないのかもしれない。
「先代勇者は前魔王様と相打ちしているの。前魔王様は歴代でも強いお力を持つ方だったのに」
呟くマリーは不安そうに瞳を揺らしている。
フローリアに至っては顔色がとても悪い。
「その勇者と同じくらい力がある? あの勇者が?」
もしそれが本当ならリンダールもとてつもなく強いことになる。
なんで宰相なんて地位に居るのだろうか。
首を傾げた時、クルスの視線が俺を向く。
リンダールの名を呼んだ時は興味がなかったはずなのに、なぜか視線が合ってしまった。
「イ、オ?」
戦いの最中だというのにクルスは動きを止める。
完全に意識がこちらに来ていた。
「クルス!!」
戦場でやってはいけない程隙を見せたクルスにリンダールの闇の刃が迫る。
それを避けたとしても第二陣の闇の槍が待ち構えていた。
叫んで走り出した俺にクルスが我に返る。
闇の刃は相殺したようだが、闇の槍に肩を貫かれていた。
そのままリンダールの剣がクルスを貫くと思った瞬間、クルスが瞬間移動をした。
もしかしたら高速で動いただけかもしれないが、俺には瞬間移動をしたようにしか見えなかった。
そのまま天井を突き破り、外へと出る。
空から再度クルスの視線が俺を見たが、出血の酷い肩を押さえ、逃げて行った。
その先には大勢の赤鷲騎士たちがいる。あそこには赤鷲騎士団の団長も居るのかもしれない。
俺はクルスが逃げてくれたことにほっとしつつも、今後を想像して肩を落とした。
追及、されるだろうな。
勇者と知り合いなんておかしいし。
そもそもクルスが魔族と戦っている場合、俺は魔族を応援できるだろうか。
クルスの死を喜べるだろうか。
俺はリンダールの刃がクルスを貫くところを想像し、拳を強く握った。




