42.そもそもここはどこだ
俺とマリーはアランとフローリアを見送り、はっと我に返った。
いつまでもここに居る訳にはいかない。遊撃部隊と合流しないと帰れなくなってしまう。
「これ、どこに行ったらいいんだ?」
さっきまで人が現れていた場所からはもう人が現れていない。とりあえずフローリアたちが歩いて行った方へ向かうものの、人影が見えない。
完全に迷子になっていた。
「……私に聞かれても分からないわ。留守番のつもりだったんだもの」
「そうだよな……」
俺も来るつもりがなかったから何も準備をしていない。
なんとか狂剣ゼルファイアは持っているが、防具すらつけていない。ぶっちゃけかなりピンチだ。
「くっそ、アランめ!」
これで死んだら化けて出てやる。
間違っても戦場に向かうような装備じゃない。せめて準備をしてから連れ出して欲しかった。
それでも文句ばかり言っていてもどうしようもないので、俺たちは前進を続ける。
ただ、この方向であっているのかすら分からない。
木が生い茂り、足元も草が生えているせいで足跡も見つからない。そもそも森を歩くことすら初めてだった。
くそっ、土地勘もなければ作戦も分かんねーよ!
遊撃部隊が特攻をかけるってことは特に作戦も何もないのか?
前回は敵を殲滅しろという命令しかなかったはずだ。今回も同じなら目の前の敵を倒すのが目的になる。
でも今回は突撃だろ?
魔族から仕掛けるのに作戦が何もないなんてあり得るのか?
攻めるということは少なくとも目標があるはずだ。ただ突っ立っているだけで敵が現れることはない。
どこかを攻める必要がある。
できれば村を襲うなんていう山賊じみたことはしたくない。
いくら村を襲われた仕返しと言っても非戦闘員を襲うのは胸糞悪い。一方的な虐殺になってしまう。
「ほんと、どこを攻めようとしてるんだろうな」
木が生い茂る森の中を目的もなく歩く。
もう完全に遭難の域だ。
「はぁ……。戦場で死ぬことは覚悟してたけど、こんな死に方は嫌よ」
「……俺だって嫌だ」
迷子になった挙句餓死なんて酷い死に方過ぎる。こんなことなら死闘になってもアランに抵抗するんだった。
今更過ぎる後悔をしていると、マリーがポツリと呟く。
その声に力はなかった。
「さっきフローリアが遊撃部隊は500歳越えも何人もいるって言ってたでしょ。でも、何度も言っているように若い人の戦死も多いの」
「ああ、遊撃部隊は脳筋で戦闘狂だから特に死にやすいんだったか?」
マリーからの講義で習ったことを思い出しながら答える。
そんな俺を見てマリーが小さく頷いた。
「長生きする人も多いけど、50歳前後の死者も多い。遊撃部隊に入隊するのは早くても50歳前後だからすぐに死んでいることになるわ」
「……へぇ」
まあ、そんなところだろうと思いながら適当に相槌を打つ。
けれどよく考えればマリーは16歳。50歳からは程遠かった。
「100歳を超えれば一気に死亡率が下がるみたいだけどね。だから二桁の年齢は何をしても生き残れと言われるの。成果を求められるのも100を超えてからよ」
「ちなみに俺たちと同じくらいの歳のやつはいるのか?」
いくら50歳前後が多いと言っても例外はある。
俺たちのように若いうちから志願している魔族もいるだろう。
「遊撃部隊にはいないわ。他の部隊なら見習いとして20歳くらいから入ることがあるみたいね」
「見習い……。しかも20?」
「20でも若いわ。普通は見習いでも30は超えているもの」
「…………これが長命種か」
常識の違いに気が遠くなる。
人間が30歳で見習いなんてことになったら一番体の動く時期をすでに超えた状態で軍に入隊することになってしまう。いくらなんでも有り得ない状態だ。
「でも、それならどうしてマリーは遊撃部隊にいるんだ? 入隊がそれだけ遅いということは成人もそのくらいだろ」
まさか未成年を働かせるほど鬼じゃないはずだ。
そこまで切羽詰まっている状況には見えない。
「…………私は居場所がないから。いえ、魔王様に恩返しがしたいからよ!」
どこか遠くを見ながらぽつりと溢した言葉は多分本音だろう。
泣いているのかとも思ったが、マリーの瞳から涙は零れていなかった。
……居場所がない、か。
地上に居た頃の俺と似ている。
でも、同じ種族と認めてもらえないというのは俺より酷い。そんな中でも闇落ちもせずに過ごせているマリーは偉いと思う。人を憎み、復讐すると振り切ってしまった俺とは大違いだ。
「それならまずは此処から抜け出さないとな」
わざと明るい声を出すと、マリーも頷く。
どこはかとなく漂っていた暗い雰囲気も少し明るくなる。
かわりに、急に開けた視界の先には煙の上がる砦のようなものがあった。




