40.まさかの戦場へ
逃げるミーナの手を取り、ぴょんぴょん跳ねていると、アランが部屋に入ってきた。後ろにはマリーもいる。
「……へぇ」
面白いものを見つけたと言わんばかりに、にやぁっとアランの表情が崩れる。
何も言われていないのに言いたいことが丸分かりだ。獲物を見つけた捕食者の顔をしている。
「違うからな!」
とりあえず叫ぶと、アランの後ろにいるマリーが首を横に振る。やれやれとでも言いたそうだ。
「まあ、お前らがそういう関係でもとりあえず置いておいてやる。ずいぶんと面白そうだけどな」
「だから違うって!」
俺が猛抗議してもアランはにやにやしている。
間違いなく俺の言うことなんて聞いていないだろう。
「そうかそうか~」
1人だけ楽しそうなアランが俺の腕を掴む。痣が出来そうな力で握られた俺は反射的にミーナの手を離した。
次の瞬間、ミーナは管理人の部屋へ走っていく。
途中で一度ころんでいたが、すごい速さで起き上がっている。
だ、大丈夫か?
顔面から床に突っ込んでいたよな……。
スライディングをするかのように転んだミーナは声をかける前に部屋へ逃げて行く。やはりアランが怖いのだろうか。
自分も逃げられそうになったことは棚に上げ、全てアランのせいにする。大きいし野蛮なアランは普通に怖いはずだ。
すぐ暴力で解決しようとするしな。
掴まれた腕を救出しようとしながらアランを睨むが、手は全然外れない。
仕方なく俺は舌打ちをした。
「なんなんだよ。アランは地上に行くんだろ」
どうやって行くのかは知らないが、また転移陣を使うはずだ。これだけ魔法が発達しているのだから地上に出るのも簡単なのかもしれない。
俺が魔族の国に連れてこられた時はリンダールが送迎してくれたが、宰相ともあろう人物が戦争の運搬役になる訳がない。
なったらなったで面白いけど、嫌がりそうな気がする。リンダールも気に食わないことはやらない性格と見た。
しかし、戦場のことは留守番組の俺やマリーには関係のない。
まさか見送りをしろとかじゃないよな。
荷物持ちとかだったら最悪だぞ。
アランは双剣以外何も持っていない。マリーも腰にポーチがあるだけで身軽そうだ。
胡乱気な目でアランを見ると、アランが俺を見つめ返してくる。
「イオだって地上に行きたいだろ。お前ほど殺伐とした目で人間を見るやつはいない」
さっきまでふざけていたとは思えない程、真面目な目でアランが笑う。もうふざけるのはやめたらしい。
舌なめずりをするアランは戦うことしか考えていないのだろう。
「俺の出陣はリンダールから禁止されたはずだ」
上官からの指示ではないものの、リンダールにはその権限がある。破ることは出来ないし、破ったら罰則を受けそうな気がする。
「なんだよ。まじめちゃんだな。そういうのは破るためにあるんだろ」
「はっ?」
軍人として信じられない発言に思わず目を剥く。
固まった俺の腕をアランは引っ張った。
「戦いたいなら自分の意志で行くんだよ。それが俺ら遊撃部隊さ」
なぜか決め顔をしたアランを3度見し、マリーの様子も伺う。
嘘か本当か。魔族の国の文化がまだ掴めていない俺では判断がつかない。
だが、マリーはため息をつきながら頭を押さえている。
多分これはダメということだろう。本気で頭痛を感じていそうだ。
「いや、嘘だよな」
アランではなくマリーを見ながら聞くと、マリーが頷く。
微妙な表情を浮かべているが、頷きは深い。
「上官に逆らうなんてどうなるか分からないわ。こんなことなら着いてこなければ良かった」
「……どういうこと?」
俺が見た時、マリーは自分の意志で歩いていた。脅されていた訳ではないだろう。
いや、脅されていた可能性もあるか?
アランだもんな。
アランは何をしでかすか分からない。
そもそも出陣直前だというのになぜバディと一緒にいないのだろうか。フローリアが可哀そうになる。
「あんたに会いに行くから着いて来いって言われたのよ。何か特別な話があるんだと勘違いしたわ」
ため息をつくマリーもアランに腕を掴まれている。
2人そろって捕獲されていた。
「俺たちの腕を掴んでいても良いことなんてないぞ」
アランが何をしたいのか分からないが、無理やり戦場に連れて行けばアランも罰を受ける。
俺たちも怒られるだろうが、アランが無傷な訳はない。一人無罪だったら訴えてやる。
俺たちの腕を掴んだまま走り出したアランを睨む。
しかしアランは楽しそうだ。これから戦場へ向かうのが待ちきれないのかもしれない。
変なテンションで巻き込むなよ。
どうすんだ、これ。
俺とマリーは引きずられながらアイコンタクトを取る。
マリーはゼルファイアのように死んだ魚の目をしていた。




