39.闇魔法の代替品
翌朝、何故か日の出と共に起きてしまった俺は朝食を食べ、ミーナの元へ向かう。
ミーナは夜型らしいのでこの時間の方が起きている可能性がある。
「ミーナ、いるか?」
武器の保管庫の扉を開け、逃げようとしていたミーナを捕獲する。
足音を消していたのでノックするまで気づかなかったらしい。軍人としてあるまじき鈍感さだ。
まあ、ミーナは武器の整備が仕事っぽいし関係ないか。
俺は暴れるミーナから手を離さず、目の前にゼルファイアを出す。
前回ミーナに見てもらってから数日が経っていた。
「……なんか、前より元気がなさそう」
暴れるのをやめてじっとゼルファイアを見つめたミーナがつぶやく。武器修理のスペシャリストから見てもゼルファイアの様子はおかしいようだ。
「どうにかならないか? 魔力を通しても死んだ魚の目みたいになってるんだ」
骸骨のついている剣もどうかと思うが、疲れ果てている目も困る。昔の俺を思い出させるようでとても嫌だ。
このままだと直すために過酷なことをしてしまうかもしれない。手が滑って。
「…………魔力を通してみて」
「分かった」
鞘から出し、言われた通りに魔力を流す。今朝も食事の前に流したが、その時と同じで元気なく目が光っている。
ミーナの前だから元気になるということもないようだ。
「うーん、分かんない。でも拒絶はされてなさそう」
しっかりと俺の魔力が行き渡っているゼルファイアを見て、ミーナがうなる。
拒絶されると魔力が通らなくなるらしい。そこまでではないので、他に理由があるだろうとのことだが、詳細は不明だ。ゼルファイアにしか分からないのだろう。
ゼルファイアにしか分からないって言われてもなぁ。
剣と話せるわけじゃないし。
俺はゼルファイアを鞘にしまってため息をついた。
「剣もダメ、闇魔法もダメなんて軍人としてやっていけるのか……」
頭を抱えてしゃがみ込むと、ミーナが不思議そうに首を傾げた。
「闇魔法が使えないの?」
「ああ、戦えない軍人なんて笑ってくれ」
戦場に出ることもできない状況では復讐もくそもない。どうにかして戦う手段を確立しなければリンダールは認めてくれない。
貴重だからと仕舞い込まれてはたまったものじゃない。
「でも、狂剣ゼルファイアに魔力を通せてるよね? 刀身も紫に光ってたし」
「……それが?」
受け取った時からゼルファイアは刀身を紫に光らせていた。
別におかしなことではない。
「あれって闇魔法の効果だよ。問題なく使えてると思うけど……」
ミーナもゼルファイアに魔力を通そうとして弾かれる。それでも一瞬光った色は紫だ。
目の赤も闇魔法によるものらしい。
「えっ! じゃあ俺って闇魔法が使えてたのか!? ずっと爆発してたのに!」
最後には山まで吹き飛ばしたのに無意識下では使えていたというのか?
俺はゼルファイアを見つめ、魔力を通した。
「…………紫だ」
「狂剣ゼルファイアに魔力が通せる時点で闇魔法を使えてるはずだけどね。光も紫とは限らないみたいだし」
不調なせいで弱弱しいものの、ゼルファイアは刀身を紫に光らせている。
これが闇魔法なら俺も使えるということだろう。
そう思って闇魔法を放とうとし、自重した。
ここで爆発させたら大惨事だ。
今まで使えてなかったのに急に使えるようになる訳がない。
「どうしたの?」
ぎりぎりで踏みとどまった俺にミーナが首をかしげる。
身長が低いせいで首がほぼ垂直に上を向いていた。
「俺、闇魔法を使うと爆発するんだ。リンダールが言うには変換が上手くいってないんだとか」
「変換? 魔法を使うのに変換何て要るんだ。大変だね」
良く分かっていなさそうにミーナが呟くと、ハッとした顔になる。何か閃いたらしい。
「ちょっと待ってて! 良いものがあるかも!」
身軽に身を翻したミーナが管理人室へ入っていく。
体よく逃げた訳ではないと信じたい。信じてるからな。
少し切ない気持ちになりながら管理人室の扉を眺めていると、何かが崩れ落ちる音とミーナの悲鳴がした。
え、大丈夫だよな?
助けに行った方がいいか?
慌てて管理人室に近づくと、扉を叩くより前に内側から扉が開く。
あと少し近づいていたらぶつかっていただろう。かわりに部屋から飛び出して来たミーナとぶつかる。
「っ!」
「…………ぐぇ」
つぶれたカエルのような声を出したミーナを受け止め、何とか立たせる。
俺も身長が高い訳じゃないが、ミーナは成長を止めたかのように小さい。このサイズならなんとか受けきることができた。
「ありがとう。これを使ってみて」
「なんだこれ?」
ミーナから渡されたのはひとつの指輪だ。
この部屋にある時点でなんだか怪しい。
「この指輪は嵌めると闇の刃が使えるようになるの。普通に使うより魔力を持っていかれるけど、はまってる魔石に魔力を込めておくこともできるアイテムだよ。…………人気がないけど」
「人気ねーのかよ!」
思わず突っ込んでしまったが、それもそうだろう。
自分で闇魔法が使えるのならそちらの方が効率がいい。消費魔力が多いのは大きなデメリットだ。
それでも指に嵌めて魔力を通してみると、闇の刃が放たれる。
始めて使えた闇魔法に全身がぷるぷると震えた。
「よっしゃー!!」
どれだけ練習しても使えなかった闇魔法の解決策がこんなところにあるとは!
俺は感動のあまり飛び跳ねた。
「わっ、わっ。危ないって!」
慌てたミーナが俺から距離を取る。
そんなことにも気づかない程俺は喜びに満ち溢れていた。




