35.変な空間
軽快な音を聞いただけなのに、空間の歪みと気持ち悪さを感じる。近くにはマリーやアラン、フローリアが居た。
「……完全に巻き込まれたわ」
謝って済ませようと考えていたのか、フローリアがため息をつく。
逆にとどめを刺したアランは楽しそうだ。
「ここ、リンダールが作った空間か? 時空が歪んでやがる」
飛んだり靄を切りつけたりしてみても空間から出ることができない。
どんな魔法が使われているのか全く分からなかった。俺たちの姿も大きくなったり小さくなったりしているので、かなり不思議な魔法だろう。
「俺が闇魔法を使いこなせるようになれば出れるのか? 狭くはなさそうだけど」
「あんたの闇魔法が爆発したら私たちも巻き込まれるわけね」
マリーが嫌そうに距離を取る。
この空間がどれだけ広いのか分からないが、爆発に巻き込まれる危険性はある。
俺一人を送り込んでくれれば良いのに、どうして4人一緒なんだ。
マリーに至っては完全にとばっちりだろ。
ちらっとマリーを見ると、近くの虹色に光る靄を触ろうとしていた。
「俺が暴れても壊れないのか? すげぇ面白い」
闇魔法で空間を攻撃しているアランは1人やりたい放題だ。
一応俺が闇魔法を練習するための空間だから、多少の爆発には耐えるのだろう。
俺も床を触って感触を確かめる。
様々な色の靄に包まれているように見えるが、床はしっかりと地面の感触がある。ジャンプしてもたわんだりしない。
「これ、爆発を引き起こしても本当に大丈夫なんだよな……」
空間ごと破壊して現実世界を壊すのは嫌だ。そもそもそんな爆発が起きたら全員死んでしまう。
しかもこの靄はなんなんだ?
変な色をしているが……。
色々と気になることが多い。
でも、一番気になるのは靄や色ではない。もっと気になることがあった。
「なぁ、どうして俺たちの身体が大きくなったり小さくなったりしてるんだ? 大丈夫なのか?」
この空間を認識した時にはすでに大きくなったり小さくなったりしていた。
それも常に大きいとか常に小さい訳ではない。変動しているのだ。
「本当に不気味だわ。リンダールらしい空間なのかもしれないけれど……」
「リンダールらしい?」
フローリアの言葉に聞き返したけれど、よく考えればおかしくない。掴めないリンダールらしいと言えるだろう。
「確かにリンダールらしいかもな。そういえば、リンダールって偉いのか?」
役職を知ったからと態度を変えるつもりはない。ただ、人前ではある程度考慮した方が良いのかもしれない。
なにしろ俺の態度を見たフローリアが目を瞠っていたのだから。
問いかけると、フローリアとマリーが顔を見合わせる。
特に変なことを聞いたつもりはないが、予想外だったのだろう。2人には困惑が浮かんでいた。
「あんた、リンダールに連れてこられたのに知らないの? リンダールはこの国の宰相よ。脳筋の多い魔族の貴重な知恵役」
「あんなに性格が歪んでるのに?」
「……性格が歪んでる? 確かに素直なタイプではないと思うけど」
答えてくれたマリーが不思議そうに首をかしげる。
「私はリンダールに陰口を叩かれたことはないわ。それにリンダールが故意に私を傷つけようとしてきたこともない。いつも穏やかな人よ」
「……穏やか?」
今度は俺が腑に落ちない。
リンダールは出会った時からどこかおかしかった。
俺の知るリンダールとマリーの想像しているリンダールが違うわけじゃないよな?
この空間に飛ばしたリンダールのことだよな。
俺の思っているリンダール像とマリーの言うリンダールが離れ過ぎていて良く分からない。
でも性格がねじ曲がっている訳ではないというのは同意できるか?
俺のことを罵倒したり、闇落ちだからと疎んだりはしてこなかった。
どこか歪んでいそうではあるが、故意に他人を傷つけるところも見ていない。父さんと母さんの埋葬も手伝ってくれたし、悪いやつではないのだろう。
穏やかというのは良く分からないが。
なんとか納得しようとしていると、アランが間に割って入ってくる。
「リンダールのやつが歪んでるかどうかはどうでも良い。それよりイオが闇魔法を使えるようにならないとここから出られないんだろ? そっちの方が重要だ」
じーっと俺を見るアランの目はガラス玉のようだ。先ほどまでこの空間を楽しんでいたように見えたが、飽きたのかもしれない。
「練習するか……」
また爆発するのかと思うと気が重い。
どうせなら俺一人をこの空間に閉じ込めればいいのに、なぜアランやマリー、フローリアまでまきこんだのだろうか。
ほんと良く分かんないやつ。
それに、どうして俺はあいつを前にすると強く出てしまうんだろ。
あれじゃ完全に八つ当たりだ。
俺は手を握ったり開いたりした後、深呼吸をして闇の玉を出そうと魔力を通した。




