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狂った世界を破壊する革命の狼煙  作者: kanaria
第2章 地下の国

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33.呼び出し

 毎日2回魔力を通す必要があるのか。贅沢な剣だ。


 自室に戻った俺はゼルファイアを確認しながら魔力を通していく。

 回数や量が多い分には問題がないらしいので、朝晩の2回魔力を多めに通すことにした。もちろん拭いたり油を塗ったりするのも忘れない。


 剣はいざという時に命を預けるものだ。

 万が一があってはいけない。


 魔力の通りの悪いゼルファイアにゆっくりと魔力を渡す。

 いつもより気を付けて行ったのに、赤色の宝石が目に使われた頭蓋骨の装飾はやはりどこかむすっとして見える。この表情がにこやかになったら通りが良くなるのだろうか。


 笑う骸骨も不気味だよな。

 製作者はなんでこんな髑髏を付けたんだ。


 一生分かり合えない趣味に眉がよる。

 それでも普通の剣よりゼルファイアの方が使いやすいと感じるようになっていた。


「まあ、こんなものか」


 普段の手入れに加えて魔力も通した。言われたことは全てやったはずだ。

 どこか機嫌の悪いゼルファイアを鞘にしまい、ベッドへ向かう。


 ちょうどその時、部屋がノックされた。


「はい」


 誰かが来るには遅い時間だ。

 もう夕食の時間すら過ぎている。


 マリーか?

 あいつは常識がないところがあるからな。


 例えマリーだとしても何か急ぎの用だろう。そう思って扉を開けたのに、そこには知らない軍人が居た。

 隙なく着こまれた軍服は遊撃軍だと珍しい。もしかしたら他の部隊かもしれない。


「貴殿がイオだな。ついてきてもらおう」


「はっ?」


 まるで罪人のような扱いに声が低くなる。

 理由も言わずに着いて来いとは失礼だ。一体何を考えているのか。


 そう思ったが、男はそれ以上何も言わずに背を向ける。来なければそれでいいと思っているのかもしれない。


 読めないな。

 なんの用だ。


 誰が呼び出したのかも気になる。必要なことすら言わないのは見くびられているのか、そういう命令なのか。

 仕方がないのでその後についていくことにした。


 しばらく歩くと、男は普通の扉の前で立ち止まる。

 夜が遅いのに、この部屋の人物も起きているらしい。ノックにすぐ反応があった。


「イオを連れてきました」


「どうぞ」


 本当に罪人のような扱いだ。手枷や魔力封じこそついていないものの、扱いが悪い。

 文句でも言ってやろうと思いながら部屋に入ると、リンダールがいた。


「お前、呼び出すんなら名前くらい言えよ」


 リンダールだと言ってくれたらここまで警戒はしなかった。

 不審な男に違いはないが、リンダールは地下の国に連れて来てくれた恩がある。あの時は分からなかったが、黒髪になってしまった俺が地上にいるのは不可能だっただろう。


「すみません。少々忙しくて」


 近寄ると花の香りがするのも前と同じ。フローリアとは違った涼やかでありながら華やかな香りが鼻につく。


 こいつは本当に男だろうか。

 まあ、胸もなかったし男なんだろうが。


 リンダールを無遠慮に観察していても、リンダールは気にした素振りを見せない。

 俺をここまで連れて来た軍人の男はいつの間にか姿を消していた。


「何で俺を呼んだ?」


 状況を聞くにしても変な時間だ。忙しいとしてもわざわざ呼ぶ必要はない。何か急ぎで確かめたいことが出来たのかもしれない。


「うーん、心配でとは思わないのですか? 私には君を此処に連れてきた責任があります」


「はっ! お前にそんな感情があるのなら初陣を済ませた直後にでも呼ぶんじゃないか? 大方、勇者のことで気になることでも出来たんだろ」


 胡散臭いセリフについ食って掛かってしまう。

 この喰えない雰囲気とどこを見ているのか分からない視線は苦手だ。整った中性的な顔も気に食わない。


「……確かにそうですね。ですが、心配をしていたのは本当ですよ。貴重な闇落ちをくだらない戦で失うのは損失です」


 ようやく交わった視線は仄暗い。夜は嫌なことを思い出しやすいというが、リンダールも何か思い出しているのだろうか。

 俺を飲み込もうとするような闇に一歩下がる。


「心配をかけたな」


「ええ、今分かっている闇落ちは貴方ひとり。覚醒者も2人しかいません」


「……覚醒者?」


 聞いたことのない単語に思わず聞き返すと、リンダールの口元が弧を描く。


「魔族が闇落ちすることです。元が黒髪なので分かりにくく、闇落ちではなく覚醒者と呼ばれます。ただ魔力量が爆発的に増え、闇魔法の適性が非常に強くなるのは同じです」


「そんなことが……」


 確かに闇に精神が飲まれることが闇落ちなら魔族も起こるだろう。人だけのものだと思う方がおかしい。

 俺は納得して頷いた。


「ですが、貴方を呼んだのはそんな説明をする為ではありません。この前の戦争に出てどう思いました? 問題なく戦うことは出来ますか?」


 興味があるのかないのか分からない目で見てくるリンダールに言葉がつまる。夜だからか、普段よりもリンダールの視線に怖さを感じた。


 だが、戦うことができるかというだけなら出来るが正解だ。

 でもリンダールが何を聞きたいのか分からない。下手に答えて上げ足を取られては堪らない。


 意図を探ろうとリンダールを見ても、仄暗さを含んだいつも通りの表情をしている。


「……出来る、と言ったら?」


「上々ですね。一度の戦いで折れるような闇落ちなら要りません。どの道役に立たない」


 吐き捨てるように告げられた内容は酷い。

 仄暗さと狂気の混じったリンダールは何を考えているのか分からない。


「俺はお前の道具じゃない」


 思いのままに動かせるなんて思い上がりだ。何を試しているのか知らないが、俺は俺のやり方で神官に……神に復讐をする。


 ぎりっとリンダールを見ると、リンダールが笑った。初めて見る嬉しそうな微笑みだ。


「近々、こちらから地上を攻めることになるでしょう。それまでに闇魔法を制御しなさい」


「はぁ!?」


 俺が闇魔法を使いこなせていないと知っているのは不思議じゃない。どうせ報告をさせているのだろう。


 しかし強制するような物言いが気に入らないな。

 こいつは一体何様のつもりなんだ。


 イライラしながらリンダールを睨むが、リンダールはもう俺のことなんて見ていない。ただ窓の外の瘴気を見つめ、俺に背を向ける。

 ムカつく程に分からない男だ。


 もう用はないと判断し、俺は黙ってリンダールの部屋から出て行った。


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