32.手入れの必要性
引きずられてきた時とは違った理由で涙目になったミーナがゼルファイアに手を伸ばす。
プルプルと震えた手がアランの上着を掴み、しくしくと泣き始める。
「ゼルファイア……狂剣ゼルファイアがぁ……」
酷くショックを受けているのか、ハンカチで拭いきれないほど泣いていた。
その隣ではマリーも頷いている。
「いや、レプリカだろ」
この剣を選んだ時にゼルファイアのレプリカだと聞いた。それなのにミーナもマリーも狂剣ゼルファイアそのものだと信じている。
俺の突っ込みは聞かなかったことにされ、ミーナのぐしゃぐしゃな顔が俺を向く。
「い"っだいどん"なづがい方をしだの」
「え?」
「い"っだい、どん"な、づがいがだをじだの〜!!」
なんて言ったのか聞こえなくて聞き返しただけなのにミーナの泣き声が大きくなる。鼻声でなんと言っているのかわからない。
「えっと……」
頬をかいて聞き返すとマリーの視線もキツくなる。
腰に手を当てたマリーが俺を睨んだ。
「変な使い方をしてないかって聞いてるの!」
「アランと打ち合っててこうなり……ました」
鋭い視線と前が見えないくらい泣いている視線に声が小さくなる。
変なことはしてないはずだが、褒められた使い方でもない。剣が欠けたり折れたりするのは使い手の力不足が原因だ。
「……ぞう。ぞれな”ら、じがたない」
ずびずびと鼻をすすり、ミーナが泣き止もうと努力する。
これ以上責めるつもりはないようだ。
「許してくれるのか?」
マリーと違って優しい対応に首をかしげる。
ゼルファイアのレプリカを勧めてくれたくらいだから、もっと詰られるかと思った。
意外と優しいんだな。
まぁ、マリーがキツ過ぎるだけか。
ちらっとマリーを見ると睨み返される。
こちらはまだまだご機嫌斜めのようだ。
「ぐすっ……。我が……我が手の上の剣を在るべき姿に戻せ≪武器修理≫」
気を抜くと鼻水が垂れそうになっているミーナの鼻をマリーがハンカチで押さえ、スキルを唱える。ミーナのスキルは詠唱を必要とするタイプのようだ。
すごいな。
こんなスキル初めて見た。
アランの上着に乗せられたゼルファイアとゼルファイアの破片が光り、どんどん形を変えていく。最初はただくっつくのかと思ったが、欠けたこと自体がなかったことになっているように見える。
驚いて凝視していると、1分もしないでゼルファイアが元の姿を取り戻した。
なんだか不満そうな表情になっているゼルファイアの装飾以外は元通りだ。
「ミーナってすごかったんだな。……ありがとう」
もう戻らないと思っていたゼルファイアが使える状態に戻っている。
継ぎ目もないので、これならまだ戦えそうだ。
装飾の頭蓋骨が不機嫌なのは問題ないよな?
ただの飾りだもんな。
修理してもらった時にどこか歪んだのかもしれない。
装飾品に感情なんてないはずだから大丈夫……なはずだ。
「ずびっ、許す。わたじはずごい」
子どもなのに働いているのはこの腕前が買われてのことか。
ってあれ?
スキルが発現するのは15歳以上じゃなかったか?
じっとミーナを見ても7,8歳くらいにしか見えない。スキルを持っているにしては若すぎる見た目だ。
魔族と地上の種族ではスキルが発現する年齢が違うのかもしれない。
「なあ、ミーナって何歳?」
ゼルファイアを受け取りつつ尋ねると、マリーの目が鋭くなる。
もう人を何人か殺していそうな視線だ。口で何かを伝えようともしてきている。
あ・と・で・お・ぼ・え・て・ろ?
後で覚えてろ……。
殺害予告か何かだろうか。視線も鋭いので嫌な予感しかしない。
「わだじは、81」
「は? 8か7?」
「はぢじゅういぢー!!」
まだ鼻声が治らないのか、ミーナの言葉が聞き取りずらい。まさか81歳だと言っている訳ではないだろう。
「ミーナは81だぞ」
「マジで?」
驚きすぎてアランをガン見する。
アランがミーナの年齢を覚えていることも驚きだが、ミーナの実年齢が衝撃的すぎる。どう見ても見た目詐欺だ。
これが俗にいう美魔女ってやつか?
それにしても凄いな。
美魔女というのがもう少し年上の女性を指すと知らない俺は素直に関心する。魔族は15くらいまで人間と同じ成長スピードだと聞いていたが、嘘だったのかもしれない。
ちらっとマリーを確認すると、相変わらず俺を殺しそうな目で見ていた。
「そ、そういえば女性に年齢を聞くのは失礼だったな。……悪い」
初めて会った時、マリーが年齢を暴露しようとして止められていたはずだ。あの時はばらす側だったマリーが睨んでくるのが解せない。
「……ぎみなら、べづにいい。ぞれより、ぢゃんどゼルファイアの手入れをじで~!!」
「ゼルファイアの手入れ?」
良く分からないが、ゼルファイアを磨いたり油を塗ったりはしていた。特に手入れを怠ったつもりはない。
良く分からずに首をかしげると、ミーナが俺を指さした。
「ゼルファイ”アは魔剣なの”! まりょぐをずうの!」
「魔力をずう……吸うのか」
最早解読だなと思いながらミーナの説明を聞く。聞き取りにくいくせに大切なことを言われている気がする。
「でいぎできに、魔力をどおぢであげて。ゼルファイアががわいぞう」
「えーっと、分かった。定期的に魔力を通す必要があるんだな。毎日一回で良いか?」
それくらいなら魔力を流していた気がするが足りなかったのだろう。
一回に入れる量を増やさなければいけないのかもしれない。もしかしたら1日一回じゃないくて2回とか?
俺は試しにゼルファイアに魔力を通す。
普段通りやっているつもりなのに、いつもと違ってすんなりと魔力が通らない。何だか弾かれている感じがあった。
「な”んが、へん」
じっとゼルファイアを見るミーナが頭蓋骨の装飾を触る。
骸骨は嫌そうな表情のまま、目を赤く光らせていた。
「ん”ー……。わがんない」
俺からゼルファイアを奪って魔力を通したりしていたが、原因が分からなかったらしい。ミーナが俺にゼルファイアを返してくる。
何か変だが使う分には使えるということで、俺たちは武器の収納庫を後にした。




