31.複数の悲鳴
「ちょっと!! 狂剣ゼルファイアになんてことをするの!!」
叫びながら近づいてきたマリーは背後に炎が見える。
元々大人しい性格じゃないが、アランも驚いたように動きを止めていた。
アランの双剣から力が抜けたので、俺もその場から抜け出してゼルファイアの欠けた破片を拾う。折れきっていないのが奇跡的なほど、大きな欠損があった。
「あー、もう……!! どうすんのよ!!」
怒っているのか泣きそうなのか分からないマリーの表情に俺とアランは見つめ合って頬を掻く。アランは傷のない右の頬を掻いていた。
「どうすんのって、どうしたら良いんだろ」
俺も愛用していた剣がこんな状態になってしまい、途方に暮れる。
最初はデザインが最悪な剣だと思っていたが、一緒に初陣を乗り越えた仲だ。なんとなく愛着が湧いていた。
「とりあえず、ミーナんとこ行くか」
自分の双剣をしまったアランが破片を軍服の上着に包む。
ガサツな男だと思っていたのに、戦いに関することは妥協しないようだ。だからこそ強いのだろう。
俺たちがもう戦わないと分かったのか、集まっていた遊撃軍の連中は解散していく。
それに混じって俺たちもミーナのところへ移動した。
「ところでミーナって誰だっけ?」
当たり前のように告げられたけれど、誰だか思い出せない。俺の知らない人物だろうか。
ボケっと質問すると、マリーの目つきが鋭くなった。
「ミーナはゼルファイアを勧めてくれた武器庫の管理人よ! バカなの!?」
「……そこまで言わなくても」
ゼルファイアが欠けたことで気が立っているのか、マリーがとげとげしい。
俺よりも魔剣に優しい辺り、マリーが魔剣オタクという説は間違ってなかったようだ。
何となく悲しい気持ちになっていると、武器庫に着く。
この感じではミーナにも罵られるのだろうか。
俺は逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
それでもゼルファイアをこのままにしておけない。仕方なく武器庫の扉を開くと、魔界が広がっていた。
うわ、この汚さで思い出した!
ミーナってあのちっこい魔族だ!
これだけ適当に扱われてるのに何故かピカピカな武器と散らかりまくった広い部屋。
間違いなく俺がゼルファイアと出会った場所だ。
俺のゼルファイアより輝いている武器に眉がよる。
武器の種類すら分けられていないのに何故ホコリひとつないんだ。ホコリどころか磨かれた刀身が光を跳ね返している。
違和感がある光景なのにアランもマリーも気にしていない。
2人にとっては見慣れた景色なのだろう。
「ミーナはやっぱり奥ね」
俺たちの足音に気づいて慌てて奥の部屋に引っ込んだらしい。ミーナはかなりの人見知りだったはずだ。
驚かせたからか、周りに武器を磨くための布が散乱している。
なんだかんだしっかり整備してるのか。
適当に置いて放置かと思ってた。
俺は投げ出された布を片付け、脇によける。
それでも足の踏み場がないほど武器が散乱していた。
抜き身の武器も多いから危ないよな。
ホコリや刃こぼれをどうにかするより、まず安全を確保しろよ。
この中を動き回る小さな姿を思い浮かべ、俺は口をへの字にする。
戦闘力のなさそうなミーナでは武器が倒れてきただけで死にそうだ。この近くで爆発でも起きたらどうするつもりなのだろうか。
俺は抜き身の剣を適当な鞘に収めながら歩き回る。
ゼルファイアを抱えたアランは武器の上を無意味に飛び跳ねていた。
「おい、アラン。ゼルファイアを落としたらどうすんだ」
「はぁ? 俺が落とす訳ねーだろ」
ひょいひょいと武器の足場を移動するアランの心配はしない。アランの場合、落ちても普通に着地しそうだ。
なんなら刃の上に落ちても怪我をしないんじゃないだろうか。
何をしでかすか分からないアランを警戒していると、扉の向こうから叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃー!! 人殺し!!」
物騒な言葉に俺とアランの視線が隣の部屋へ向く。
あの声はミーナのものだろう。
それから数秒後に扉が開いてマリーとミーナが出てきた。
「ううっ、ひどすぎる……」
両手で顔を隠したミーナが引きずられつつ文句を言う。
それでも抵抗しないのは力では敵わないと分かっているからか。
無情な光景に俺とアランは目を見合わせた。
「マリー、さすがに可哀そうじゃないか?」
えぐえぐと泣くミーナは武器の山にぶつかりつつ俺の前へ連れてこられる。
あっちこっちが抜き身の武器にぶつかっているせいで、服が切れていた。
「ミーナなら大丈夫よ。ほら、怪我ひとつしてないでしょ」
「……ほんとだ」
子どもっぽい見た目とは裏腹に皮が厚いのか?
それともスキルか。
俺は血のでないミーナを観察する。
服が良い感じに破れているのに色気の1つもない。やはりメリハリがないと見どころが……。
残念なものを見る目でミーナを見ていると、ミーナが俺の方を向いた。
「なんか視線がいやらしい」
ぶすっと膨れたミーナだったが、諦めたように立ち上がる。
引きずられていたのはせめてもの抵抗だったらしい。自分で立っても身長は低い。
「ゼルファイアが欠けたんだ。どうにかできないか?」
ミーナに付き合うといつまでもすっとぼけていそうなので、さっそく本題に入る。こういうのは勢いも大事だ。
俺の言葉に合わせて遠くで遊んでいたアランが近くでさっと上着を開く。
「ぎゃぁぁぁあああ!!」
ゼルファイアを見たミーナの悲鳴が俺たちの耳を直撃する。構えていたとはいえ、中々の破壊力だった。




