30.アラン相手にセコイもくそもない
あれから事あるごとにカレンが気にかかる。
それ程愛情深い性格ではなかったはずなのに気になるのはシェリーが連れていかれた時と似ているからか。縋りつくような目がどうしても思い出されてしまう。
俺はため息をついた。
気にしたところでどうすることも出来ないんだから、気にしても仕方がないのに。
今の俺に子育ては無理だ。
俺は次の休みにもあの孤児院を訪れることに決め、黙々と闇魔法の練習をする。
今日はマリーも見えるところでナイフ投げの腕を磨いていた。
「お前さ、火や水の魔法は爆発しねーのにどうして闇だけ爆発するんだ?」
近くでしゃがみこんでいるアランがあくびをしながら聞いてくる。
手足のように闇魔法が使えるアランからすると不思議なようだ。
「俺が聞きたい。なんで闇魔法は爆発するんだよ」
俺以外に魔法で爆発を起こすやつなんていない。
おかげで周りで練習している人たちも俺から絶妙に距離を取っている。マリーも結構離れたところで訓練をしているレベルだ。
もう爆発が恒例になり過ぎて、爆発音がしても誰も見に来なくなってしまった。これが良いのか悪いのか分からない。
そもそも体内を巡る魔力のスピードが変なんだよな。
でも、それが原因なら他の魔法も爆発するはずだ。
なのに爆発するのは闇魔法だけ。他の魔法が爆発することはない。
むしろ他の魔法は前よりも簡単に使えるようになった。これは魔力量が上がったことでゴリ押しができるようになったからだ。適性は低くても魔力量があれば無理やり高火力の魔法を放つことができる。かわりにコントロールに難があるから戦場では使いにくいだろう。
敵に囲まれた状態なら無双できるが、味方が居るのならフレンドリーファイアの危険がある。
使いにく過ぎて嫌だ。
苦も無く連発できるようになった火の玉を連発しながらアランの方へ向ける。
完全に油断していたはずなのにアランは闇魔法で軽く払い退けていた。
「お前、やったな」
すっと立ち上がったアランは不敵に笑っている。
俺が練習中も暇つぶしなのかナイフを投げて来ていたが、本気になったらしい。
眠そうだった目が楽しげに輝き、双剣をすらりと抜く。
ゆっくりと抜いているのは俺に見せつける為だろう。アランが全力を出したらその瞬間に俺の首が落ちている。
「お前、今日は魔法を使え。剣だけじゃ物足りねぇ」
「分かった」
俺とアランの差はとても開いており、いくら鍛錬を積んでも抜かせる気がしない。
そもそも人間より何倍も長生きをするなんて卑怯だ。おかげでアランが今何歳なのかすら知らない。そんなに年上ならよぼよぼのお爺ちゃんになってたら良いのに。
俺もゼルファイアに魔力を通し、アランに向かって走る。
警戒したところでアランの動きを追えないのだから出方を見るだけ無駄だ。相手に有利になってしまう。
終始俺のペースで翻弄できればアランにだって勝てる……はず!
予測不能な動きを意識して、いつもは上から下へ振る剣を下から上に振ってみる。
良い案だと思ったのに普段と違う構え方をしていたからか、普通に受け止められてしまった。
それも片手で受け止めている辺り、筋肉量がおかしい。多分、身体強化をしているのだろう。というか、身体強化くらいしていて欲しい。
そのまま横に飛んでアランが反対の手で持っている剣を避ける。
双剣はこういう時に卑怯だ。普通の人が両手で扱う勢いを片手で抑え込めれば、無双できてしまう。
俺は目つぶしのつもりで火の玉をアランの目に向けた。
卑劣なことをしている自覚はあるが、これくらいしなければアランに対抗することなんてできない。
「おまっ! それは酷くないか!?」
さすがのアランも叫びながら闇魔法で防いでいたが、とても楽しそうだ。本気で苦情を言っている感じがしない。
ネズミの反抗を楽しむ猫に見える。
ネズミも猫に噛みつけるってことを証明しなければ!
アランの意識が目にいっている間に今度は背後から足を狙う。
魔力を通したゼルファイアは刃の切れ味抜群だ。たくさん魔力を送り込み、ゼルファイアの目が赤く光る。この状態なら掠るだけでも切り割けるだろう。アランが生身の魔族なら。
「ははは! やっぱいい動きをするな!」
イケると思ったのに、後ろに目が付いているのかと聞きたくなる動きでアランが飛び上がる。
それだけならと剣を構えても、俺の頭を使って跳び箱でもするかのように背後に回ってしまった。そのまま切りつけてきたのを転がることでなんとか避け、ゼルファイアに流す魔力を増やす。
既に大量の魔力を流しているが、ゼルファイアに多く魔力を流すと何だか俺の動きが滑らかになるのだ。
背後に向かって水の礫をばら撒きつつ、サイドステップで横に逃げる。この動きもゼルファイアに魔力を通していないときよりキレがある。
目つぶしがわりに砂をアランの目に向かって投げても、闇魔法で防がれてしまった。
「アランまで魔法を使うなんて卑怯だぞ!!」
ただでさえ勝てないのに魔法まで使われたら望みはない。でも、よく考えたら火魔法で目を狙った時も魔法でガードしていたか?
なりふり構わなくなってきたアランに俺もニヤリと笑う。
思ったより動けているようだ。
そのままアランの頭めがけて剣を振り下ろす。ついでにアランの足元から大きな水の槍を出してみた。
「最低だな!!」
捨て台詞のようなものを放っている割に余裕そうなアランに水魔法で更に追い打ちをかける。
攻撃力が劣ると侮られがちな水魔法だが、刃のようにして回転をかけると非常に切れ味が良い。しかもノコギリのような形にしてみたので、アランも切り割けるかもしれない。
複数の回転刃に加え、火魔法でアランの目を狙う。
目さえ潰せれば俺にも勝機がある。
模擬戦でやるようなことではないけれど、魔族にとっては刺激的な催しのようだ。
周りにギャラリーも集まってきた。
「おおー、意外とやるな」
「アラン相手にあそこまで戦えれば十分だ」
「私より強いかも」
ゼルファイアに魔力を流しているせいか、観衆の声まで拾ってしまう。
そのせいで気が逸れた瞬間、アランが全ての魔法を闇魔法で防いで俺に突っ込んできた。
「嘘だろ!?」
あり得ない動きに一瞬固まる。それが致命的だった。
アランの双剣はゼルファイアで何とか受け止めたものの、ゼルファイアが思い切り刃こぼれする。
それを見たマリーの悲鳴がその場に木霊した。




