27.実は偉かった
それから魔法や剣の練習を増やした。
スキルは闇雲に練習をしても保有しているスキルが分からないままではどうしようもない。一般常識を学んでいた時間も剣や魔法の練習に当てているから、多少はマシになったはずだ。
俺は初陣の時の反省を生かし、黙々と剣の型を模倣する。
遊撃部隊はあまり重要視していないが、魔族の国にも剣の型というものがある。意外なことにマリーがそれを教えることができた。
「なあ、マリーは一体…………、いや何でもない」
何者か聞こうとして、俺も過去を教えていないことを思い出す。
誰にでも話したくないことに1つや2つ……10個や20個くらい持っているだろう。
首を振って再び狂剣ゼルファイアを構える。
そんな俺をマリーは呆れたように見ていた。
「別にいいわよ。みんな知ってるしね」
「有名なのか?」
茶髪の時点で変わっていると思ったが、マリーは有名人だったらしい。
驚く俺にマリーが肩をすくめた。
「魔族で黒髪以外は目立つもの。イオが火や水の魔法を使った時も驚かれたでしょ」
「そういえばそうだな」
俺にとって火や水の魔法が使えるのは当たり前だったから余り気にしていなかった。
だが、確かに戦場に出た時は驚かれたな。
魔族って黒髪ばっかだけど、闇の属性に適性がないのか?
そうだとするなら生活しにくそうだ。
水を汲みにいかなければならないし、火種も自分で生み出せない。家を建てるのも大変だろう。
俺は眉をひそめた。
もし神話の通り神が居るのなら、魔族ばかり試練を与え過ぎだ。
瘴気にまみれた地下に住めというのも酷い話だと思う。植物こそ育つものの、魔族が日の差し込む地上に憧れるのも仕方のない話だ。
「私は角を見ても分かる通り、純粋な魔族よ。でも、光魔法が使えるの」
「……はっ?」
光魔法と言われてシェリーが、妹が思い出される。
もし生きていたらマリーより少し年下だろうか。
「でもマリーは茶髪だろ? 土じゃないのか?」
毎日しっかりと整えられているツインテールは茶色だ。光属性を示す金髪じゃない。
俺はマリーの髪を凝視する。
「本当は金髪なのよ。今度機会があったら見せるわ。中々染料を落とすことがないからすぐには見せられないかもだけど」
「染料……」
染めているとは思えないほど自然な茶色に思わず手を伸ばしかけ、引っ込めた。
マリーの茶髪は違和感を感じないくらい完璧だ。俺も疑ったことはなかった。
もしマリーみたいに金髪を茶髪に染めることができればシェリーは死なないですんだのだろうか。
いや、神殿で魔法適性をはかっているんだ。
人柱になるのは避けられなかった。
つい引きずられそうになる思考にため息をつく。
今更後悔してもシェリーは返ってこない。こんなにシェリーのことを思い出すのは戦場で似た年頃の女の子を助けたせいか。
それでも助けなければ良かったとは思えず、無理やり言葉を飲み込んだ。
「ちなみに私の闇魔法の適性は小。光魔法が大よ。魔力量は中ね」
「……そんなことを俺に教えて良いのか?」
バディとは言え他人だ。魔法適性を知られて良いことなんてない。
俺にはマリーの真意が分からなかった。
「あんたのことを信用することにしたの! 最初は人間のくせにって思ったけど、頑張ってるし、…………なんかほっとけないのよ」
頬が真っ赤に染まったマリーは声がどんどん小さくなっていく。そのせいで最後に何と言ったのか聞き取れなかった。
それでも悪口ではないだろう。聞き返しても答えてくれなさそうだ。
「……ありがとう」
何と言ったのか分からないが、お礼を言えば間違いない。
多分褒めてくれたはずだ。
「あ、あ、あんたのことを認めたわけじゃないから!! もっと強くならないと許さないからね!!」
「あ、ああ」
びっくりするくらいツンデレな発言を言い残してマリーが走り去っていく。
元々俊敏だと思っていたが、想像以上に足が速い。
俺の方を指さしながら走って行ったのに、良く壁や柱にぶつからないものだ。
「うふふ、気に入られたわね。青春だわ~」
「誰だ!」
全く気配がしなかった場所から声が聞こえて振り返る。
すると、濃厚な花の香りがした。
「私はフローリア。遊撃部隊の中佐ね。跪いてくれてもいいわよ?」
いたずらっぽく微笑む女性は見事なプロポーションをしている。
つい大きな胸に視線が向きそうになるのを気合で顔に向けた。顔も目鼻立ちがはっきりとしており、とても美しい。きつめのメイクが良く似合っている。
「あら、可愛いわね。別に見るくらい構わないわ。触るのは有料だけどね」
パチンとウィンクをされ、俺は一歩後ろに下がった。
色気こそ凄いものの、気を抜くと飲み込まれそうな迫力がある。舐めた瞬間、首を落とされそうだ。
警戒しながら目を細めると、フローリアが笑みを深めた。
「悪くないわね。久しぶりの闇落ちの上、戦場を生き残ったと聞いて会いに来たけど、期待できるわ」
「……何の用ですか?」
ただ顔を見に来ただけではないだろう。
目的があるはずだ。中佐なんて雲の上どころの話じゃない。
「今日は本当に顔見せよ。私、アランのバディになったの。アランが貴方を舎弟というから見に来ただけ」
「……アランの?」
そういえばアランは戦闘狂すぎてバディが居ないと聞いた。
それでも中佐という位にある人がバディになるものだろうか。
自然と首をかしげると、フローリアがくすりと笑った。
全部顔に出ていたらしい。
「貴方、面白いわね。アランが気に入るのも分かる気がするわ。私がアランのバディになったのは本当。そもそもバディという制度自体、遊撃部隊にしか存在しないわ」
「そう、俺が強すぎてリアをあてがわれただけだな」
鼻を鳴らしながら歩いてきたアランはどこか不満げだ。
愛称で呼んでいるくせに仲が悪いのかもしれない。
アランは脳筋だからな。
蛇みたいなフローリア中佐とは相性が悪そうだ。
既に尻に敷かれていそうなアランに俺も笑う。
同じ異性のバディでもマリーで良かったと俺は思った。
「そもそもアランも中尉よ。あまり意識している人は多くないけど、結構上の位を持っているわ」
「アランが中尉!?」
人が剣を振っていたら襲い掛かってくるような奴が中尉!
軍の闇を見た気がする。
「お前って、結構失礼だよな。俺は戦果も上げてるし強い。もっと上でもおかしくないだろ」
「扱い辛過ぎて中尉で止まっているだけだものね。イオを舎弟にしてから落ち着いたみたいだし、もうすぐ大尉になるでしょ。普通に考えたら佐官でもおかしくないわ」
「アランって、すごかったんだな」
地上に居るのは騎士だったから余り軍の階級に詳しくない。
それでも一度マリーに説明を受けていた。おかげで佐官がかなり上の階級なのは知っている。
確か一等兵二等兵から伍曹、軍曹、尉官、佐官、将官だったか。
下の方はもう少し階級が多かったはずだ。
「俺は強いから当たり前だろ。お前も軍曹スタートくらいにはなるんじゃないか?」
「えっ……」
そんな話は聞いたことがない。
闇魔法すらまともに使いこなせていないのだ。分不相応にも程がある。
「あら、その話はまだ揉めているはずよ。もしかしたら尉官スタートかもしれないわ」
「え”!!」
なんか階級が上がった!
軍曹でも重いのになぜ尉官なんて……。
「遊撃軍は階級が高くなりがちなの。個々の戦闘力が高いし、魔族は強さを誇りとするわ」
「だからと言って俺は……」
初陣でも大した結果を残していない。
マリーがいなければ帰還することすら難しかったはずだ。
「……遊撃兵として初陣を迎え、生きて帰るのは5割。それも元々軍人で遊撃兵に変わって生き残るのが5割。初陣で9人も倒したイオは十分強いわ」
「普通の軍隊は俺たちみたいに2人で出陣しない。この体制自体あり得ねーんだよ」
「軍では扱い辛いけれど、強いから手放したくない人が最後に送り込まれるのが遊撃部隊だもの。規律、規範に則って行動なんてできないでしょう。暴れて戦場を引っ掻き回すのが私たちの仕事」
「嫌になったか?」
アランとフローリアの視線が一気に俺を向く。
ここで嫌だと言ったら一般兵として普通の軍に送り込まれるのだろうか。
「嫌じゃないけど……」
むしろ好ましいと思う。
ただ、なぜリンダールが俺を遊撃部隊に入れたのかは気になる。それ程普通に馴染めないと判断されたのだろうか。
軍に入ってから一度も姿を見ないリンダールに俺は眉を寄せ、その場は解散した。




