25.生意気な奴(マリー視点)
私の髪は生まれた時から金色だった。
魔族にも関わらず、光属性に適性のある金色の髪。それは生まれた瞬間に殺されてもおかしくないほどの業。
私を拾った孤児院の院長も悩んだらしい。悩みに悩んだ結果、魔王様に献上されてギリギリ命をつなぎ続けている。
前魔王様だったら問答無用で殺されていただろう。
お優しい魔王様は名前のなかった私にマリアという地上の聖女の名を付けてくれた。
この名前は敬愛する魔王様が与えてくれたものの中で唯一気に入らないものだ。
ある程度分別が付くようになってから魔王様に由来を聞いたことがある。なぜこの名前にしたのかと。
当時の私は髪色に加えて名前まで敵を示すものだったから苛烈な虐めにあっていた。当然名前を恨んだこともある。
泣きながら名前を変えて欲しいと訴えた私に魔王様は大人になったら地上に行けと言った。
地上なら私と同じ色を持つ者は生きやすいからと。そのためにこの名を付けたと聞いた。
確かに金色の髪なのだから人に混じって暮らした方が良いのかもしれない。魔族は地上に生まれた黒髪の人を受け入れている。
それなら逆があってもおかしくない。金色の髪の示す光属性の適性は人が求めてやまない属性だ。
瘴気の影響か闇属性の適性持ちしか生まれない地下と違い、地上は様々な魔法属性の適正持ちがいるらしい。そのせいで光属性の適性者は少ない。
だから地上に行った方が重宝されるのではないか。魔族の国では生きにくい私に魔王様はそうおっしゃった。
魔族なら邪魔な角や尻尾は収納することもできる。戦いの邪魔だと切り落とす人もいる。それなら角と尻尾を切り落として人として暮らした方が楽だ。
地上で貴族以外の光属性持ちの扱いを知るまでは地上に行くことを希望に生きていた。
そう、地上の光属性持ちが奴隷のように扱われているのを見るまでは。
初めて光属性の適性者の扱いを知った時は衝撃だった。
同じ地上で暮らす人に管理され、首輪でつながれて生気もなく歩く姿。あれを見てしまったらもう、地上で暮らしたいなんて思わない。
あんな扱いをされるくらいなら嫌みを言われながら魔族として暮らしていた方がましだ。
金色の髪なのになぜか闇魔法も使えるのだから。
それでもふとした瞬間、黒髪に憧れてしまう。
未練たらしいと自分でも思うけれど、どうしても辞められなかった。
「イオみたいな黒髪になれたらなぁ……」
ツインテールにしている右側の髪を触り、ついぼやく。
見た目だけでも黒髪にしたくて染料を使っても、なれるのはこげ茶がせいぜいだ。こげ茶色の髪を持つ魔族なんていないから悪目立ちしてしまう。
それでも金髪よりはマシよね。
金髪だったら石を投げられるわ。
こげ茶色の髪でも差別を受ける。私が普通の軍に居られないのもそのせいだ。
それでも人になろうと思わないのは地上の光属性持ちの扱いに心が折れてしまったからだ。
今の魔王様に恩を返したいという思いもある。
命を救っていただいたお礼がしたいから。これ以上酷い生活をしたくないから。ただそれだけだった。
前世の私は大量虐殺でも犯した重罪人だったのかしら?
もっと普通の髪色に生まれたかったわ。
髪から手を離してため息をつく。
「でも、闇落ちは羨ましいのに羨ましくないのよね」
イオの綺麗な黒髪を見るとどうしても嫉妬をしてしまう。
人間なのに私が求めてやまない色を持っているのだから仕方がない。私もあんな色に生まれたかった。
魔族でも中々見ない程、綺麗な黒髪を思い出して拳を握る。
でも、髪が黒くなるほど負の感情に囚われるのは悲しい。
かなり差別されてきた私ですら闇落ちしていないのだ。闇落ち者はそれ以上のことをされたということだろう。そんな状態で髪の色なんて気にしていられない。きっと他のことに感情の大部分を取られてしまう。
そう……、イオもどこかおかしいもの。
リンダールがイオを連れてきた時はムカついた。
戦えないのに遊撃軍に入る何てあり得ない。私だってかなり努力して此処にいるのに、闇落ちだからという理由で遊撃軍に入れるのは納得がいかない。
闇魔法の適性が特級なのを見た時は血涙が出るかと思ったくらいだ。
ついつっけんどんな態度を取ってしまったけれど、イオは気にしていない。
バディだから勉強を教えたし、スキルや魔法の勉強も手伝った。でも、全てを通して笑っていてもどこか仄暗い光がイオの目にはあった。
心が強いのではなく興味がないのだろう。
たぶん私のことを今も信用していない。
温度のない冷たい目を見る度にそう思う。
私はバディなのにイオがどういう目に合って闇落ちしたのか知らない。でも初めて人を切って吐きながら、それでも憎しみを瞳に乗せて敵を睨むのは見てられなかった。
何が合ったらあそこまで同じ人間を憎むというの?
むしろ獣人を見た時の方が優しかったわ。
あの様子をみる限り、イオは人間と何かあったのだろう。
騎士団の制服を睨んでいたから、騎士に恨みがあるのかもしれない。
工作兵だったこともあり、つい詮索してしまう。
親族を殺された魔族が憎しみを武器に戦うことはある。それでも、吐きながら剣を離さない人を見たのは初めてだ。
大体が初陣で心を折られる。
いくら憎んでいても、いざ自分が敵を殺せるかは別なのだ。
一部の適性のある人だけが剣を振るい続け、復讐を果たし続ける。それでも何回も戦場に出るうちに復讐ではなく八つ当たりや快感がメインになる。
目的が復讐の人ほど笑いながら敵を切っていくのを何度も見た。
もしかしたら、あれも心が壊れた果ての姿なのかもしれない。
種族全体を憎める人は中々いないもの。
相手の顔に恐怖が浮かべば躊躇いが出るのが普通。命乞いなんてされた日には再起不能になる人が多い。
特にイオが相手にしていた騎士は幼い少年だった。成人しているかも分からない。普通なら躊躇する。
けれど、イオはえづきながらもとどめを刺そうとした。それだけでイオは戦場に立つ才能があると言える。
殺されたくないから。力を誇示したいから。お金が欲しいから。様々な理由で戦場に立つ人がいる。
イオはいつまで憎しみを原動力にし続けられるかしら。
私は一枚の肖像画の前で足を止める。
助言を求めるように見上げた先には魔王様の肖像画があった。
イオについて知りたくても探られるのが嫌いそうよね。
私に過去を言う気もなさそう。
イオはいつか憎しみのあまり暴走してしまうのではないか。そんな不安が常にある。
本人が気づいているか分からないが、危うい均衡で今の状態が保たれている。
もし均衡が崩れた時、私は止めきれるだろうか。
あれだけの闇魔法の適性者を押さえきる自信なんてない。
私はもう一度ため息をついてから魔王様の肖像画を眺めた。




