24.初めての……
悲鳴の上がった場所に辿り着いた時、既に兄と思われる青年は血を流していた。最後まで抵抗したのだろう。青年の持つ鍬にも血が付いていた。
「うっ……」
もう吐かないと思っていたのに吐き気が込み上げる。状況がシェリーを連れ去られた時と似ているからか。沸々と怒りも湧き上がってくる。
許せない。
何で人はこう……!!
重なり過ぎる光景に憎しみが抑えられない。
吐いてしまった口元を拭い、ゼルファイアを構える。正義なんてそこにはなかった。
ただ憎しみだけを抱いて狂剣を握ると、ゼルファイアについた髑髏が笑った気がした。
「歯ぁ食いしばれ!!」
青年の庇ったと思われる少女が刺されそうになる瞬間、俺は剣を構えた人を切り割く。
肉を切るその感触に吐き気も蘇る。
……おえっ。
骨に剣先が当たる感覚がリアルだ。
いくら相手が憎い人間でここが戦場だろうと慣れない感覚にえづき、地面に膝をつく。浴びた返り血の生暖かさが気持ち悪い。確かに人の命を奪った。その重さが俺を動けなくしていた。
赤鷲騎士の仲間がそんな俺に剣を向けるのに気付いたが、すぐにゼルファイアを握れそうにない。俺は地面を転がって何とか攻撃を避ける。
続けて攻撃されたらひとたまりもないだろう。
「イオ!!」
ピンチに気づいたマリーが俺に襲い掛かる1人を背後から切り割く。
致命傷にはならなかったが、男を怯ませることには成功したようだ。
「やっぱりあんたは隠れてた方がいいんじゃ……」
心配そうに眉を寄せるマリーには悪いが、少女の悲鳴が聞こえたせいか敵が集まってきていた。
「ちっ、これじゃ逃げられない」
「…………」
マリーが舌打ちをして牽制がてら闇魔法を放つ。
しかしそれだけで逃げ出すほど軟な敵じゃなかったようだ。獲物を見る目つきで俺たちを囲む。
2,4,6……10人はいるだろうか。
どこから湧いてきたのか気になる人数に俺はゼルファイアを握る。
一度手放してしまったものの、この隙に取り戻していた。
「イオは無理そうならその子を連れて逃げて! 私は後で追うから!」
典型的な自己犠牲の言葉を吐き、マリーが針を投げる。毒が仕込んであるのか、針に当たった人は動けなくなっていた。
それでも戦闘不能になったのは3人。一人でどうにかできる人数を超えている。
当然、誰かを守りながら戦えるほど俺は強くなかった。
魔族の少女を抱え、俺はまたたく。
何か方法がないか。頭をフル回転させても妙案は浮かばない。それどころか毒針を受けたうちの1人が何かを飲み、戦線復帰していた。
「くそっ!!」
明らかに状況が悪すぎる。なぜ敵ばかりが現れて味方が来ないのか。
魔族には耳がついていないのだろうか。
悪態をついても現状は変わらない。
俺は覚悟を決めてゼルファイアに魔力を通した。光る髑髏に少女が怯える気配を感じる。それでも俺にできるのはこれくらいだ。
水魔法の適性が中程度ならそっちの練習もしておくんだった!
絶対役立ったのに!
うまく扱えない闇魔法に気を取られて魔族の国に来てから火魔法や水魔法の練習をしていない。それが後悔になるなんて予想外だ。
まあでもこの状況になった時点で終わりか。
俺は少しでも多く道連れにするよう、覚悟を決めた。
「ははは!! 女に庇われて情けねぇなぁ!!」
嘲笑う敵の声を聞いてもその通りだとしか思わない。
むしろ侮ってくれるならそっちの方が良い。闇魔法でどうにか敵を押さえているマリーに加勢するべく俺も後ろから飛び出した。
飛び出しがてら2人ほど切りつける。
あまり深く切れなかったものの、敵の群れを抜けられたので上出来だ。ついでに火魔法で俺をバカにした男の顔を焼く。他に狙った敵には避けられてしまったが、馬鹿にした男は戦線復帰が絶望的だろう。悲鳴を上げて地面を転がっている。
「お前、一体何者だ?」
やはり闇魔法以外を使う魔族なんていないのか、赤鷲騎士の制服を着た敵の目つきが変わる。俺が人間でないか疑っているようだ。
それでも黒髪を見て頭を振っている。
その隙を逃さずにマリーもナイフや針、闇魔法を放った。かゆいところに手が届くフォロー力は目を瞠るところがある。
「俺が誰でもどうでも良いことだろ」
どの道俺は人の敵で、人は俺の敵だ。
アドレナリンが吹き出しているおかげか気持ち悪さなんて感じない。むしろ気分が高揚して仕方がない。
「イオ、油断しないで!!」
俺の異変に気付いたのかマリーが叫ぶ。
心配性のマリーに頷いたところで魔族の少女に向かう人影に気付いた。
もう一度少女のところへ走る途中、左右から来る剣技が前の戦闘で傷ついた傷を広げる。
痛みに顔をしかめても走らなければ少女が殺されてしまう。
マリーは完全に死角を突かれていた。
「逃げろぉぉぉ!!」
手を伸ばしてもぎりぎり間に合わなさそうな距離に絶望する。
シェリーの時と同じ思いをするのはもう御免だ。
中々近づかない距離に目の前が真っ黒に染まる。
怯えた少女の表情を最後に俺は意識を失っていた。




