22.蹂躙された村
ぎゅうぎゅうになるまで魔法陣に乗り、エリア108についた。初めて乗ったものの、特に気分の悪さや体に異常はない。
地上では聞いたことのない移動手段だけれど、長距離を移動するのにとても便利そうだ。
「イオ、行くわよ!」
着いた瞬間、他の人たちは散開し、この場に残っているのは俺とマリーしかいない。
辺りを見まわしているのも俺くらいだ。
「分かった」
少し離れた場所に着いたのか、戦闘の様子はない。ただ、走っていくと煙が見えるようになってきた。
これが戦場……。
近づくにつれ煙や何かの燃える焦げ臭さ、血の臭いが充満する。魔法もどんどん使われているのか、あちらこちらで爆発音のようなものも響いていた。
「……おぇ」
運悪く見てしまった若い魔族の死体にえずく。うつろな瞳は両親が亡くなった時と同じだった。
「イオ!!」
丁度俺の近くに飛んできた風魔法をマリーが闇魔法の手で逸らす。腕を引っ張られ、後ろに庇われてようやく敵がいることを知った。
そうか、死体があるんだから敵もいるよな……。
見覚えのある赤い制服は赤鷲騎士団のものだ。今回の襲撃にも加わっているのだろう。
1人ではなく4人ほどいる。
「……まずいわね」
俺たちは2人しかおらず、しかも俺が戦える状態ではない。状況は最悪だった。
それでもマリーは目の前の騎士を睨む。
多勢に無勢。絶望的な状況なのにマリーは諦めていない。
これが遊撃部隊である所以なのだろう。
俺もすらりと狂剣ゼルファイアを抜く。
気持ち悪いだの何だの言ってられる状況じゃない。吐くのは帰ってからでも出来る。今吐いていたら必然的に棺桶に入ることになる。
「大丈夫なの?」
マリーのその問いは戦力になるのかを聞いている。
足手まといになるのなら逃げた方が良い場面だ。無能な味方ほど足を引っ張るものもない。
「ああ、目が覚めた」
人が憎い、殺したいと言っていて戦場で吐くのは甘えだ。
丁度目の前に憎い敵がいるのだから倒さない手はない。赤鷲騎士団に恨みはないが、全ての人は俺の敵だ。例え目の前の敵に人間だけでなく獣人が混ざってようと関係ない。
俺が赤鷲騎士たちを睨むとマリーの口元が弧を描いた。
「そうこなくっちゃ」
マリーも両手にナイフを持ち、戦闘態勢に入る。
相手の方が多勢だが、こちらの出方を伺っているようだ。
睨みあい、一触即発の雰囲気が続く。
その中で先に動いたのは赤鷲騎士だった。連携の取れた動きで俺たちを囲み、背後と前方両方から攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ!」
睨みあっていたのはじりじりと移動する為だったらしい。
俺とマリーは背を向け合って敵の剣をはじく。運の良いことに強力なスキル持ちはいないようだ。
魔法も剣と一緒に使えるレベルではなく、一般兵にしても弱い。
その弱さが俺たちを救っていた。
「……引いた方が良いんじゃないか?」
1人が2人ずつ相手をする今の状況は良くない。中でも1人混じっている獣人の動きが非常にトリッキーだ。
遠くに居たと思ったら横に居る。剣の使い方だけが慣れていないようで、持て余している感じがある。それがなかったら既に勝敗は決していただろう。
今も上からのしかかってこようとする獣人を横にずれることで避ける。
かなり高いところから飛んできたので、がら空きの首をゼルファイアで狙ったが、バク転をして逃げて行った。
「引きたくても見逃してくれないわ。それに、私たちは遊撃部隊よ」
くすりと笑ったマリーはアランと同じ戦闘狂の目をしている。
遊撃部隊というのはやはり戦闘狂でないとなれないらしい。
「そうかよ!」
飛んできた風魔法をなんとかかわし、お礼に相手に向かってナイフを投げる。
油断していたのか飛んで行ったナイフは相手の腹に刺さったようだ。うめき声と共に後退する。
マリーが相手をしている連中もいつの間にか傷だらけになっていた。
「薄汚い魔族どもが!!」
班長と思わしき騎士が憎しみを目に乗せて水魔法を連発してくる。やはり騎士になるだけあって魔力量が多い。俺が持っているのが狂剣でなければ弾ききれなかっただろう。
なんとか自分に向かってきた攻撃はゼルファイアで落とす。ただその合間を縫って攻撃を仕掛けてくる他の騎士たちが邪魔だ。
俺の方がマリーより弱いと思ったのか、マリーの相手は獣人1人になっていた。
「……ちっ」
動きの読めない獣人に苦戦しているのか、マリーに余裕はない。
俺の方は俺が何とかするしかなさそうだ。
「まだ、戦場に出れるレベルじゃないと思うんだけどな!」
せめて魔法かスキル、どちらかだけでも使えなければ戦場で生き残れない。俺はスキルが何か分からなければ魔法も爆発する。ゼルファイアだけに頼り切れるほどの剣技もない。
間違いなく力不足だ。
俺は歯を食いしばった。
目の前から飛んできた水の槍を飛び退くことで避ける。例え場違いだろうと敵は待ってくれない。避けた先には2人の騎士が左右から攻撃を放ってきた。
それを辛くも避け、動きの鈍いナイフの刺さった騎士の足を切りつける。
「ぐぁ!!」
俺も肩を少し切られてしまったが、相手の方が重症だ。
この騎士はもう逃げるか死ぬかしかない。とどめを刺すべく剣を振り上げたところで獣人が割り込み、騎士をかっさらった。
隙の出来た俺にもう一人の騎士が突っ込んでくる。
そのスピードはもう避けることができなさそうだ。
あんまり強くない癖に連携がすごいな。
鎧も着てないから本当に雑魚兵なんだろうが……。
俺はゼルファイアをかまえ、何とか剣先を逸らした。おまけに火魔法を相手の腹にお見舞いする。耐魔法装備を着ていたら無効になる程度の火力だったが、騎士は耐魔法装備を着ていなかったようだ。
目を瞠って腹を押さえる。魔族が火魔法を使うのは珍しいのかもしれない。
「お、お前……!!」
信じられないものを見る目で俺を見る顔はまだ俺より幼い少年のようだ。
もしかして寄せ集めなのか?
正規兵にも見えないが。
俺は襲ってきた奴らの正体が分かり、苦いものを飲み下す。彼らはきっと魔族の国に攻め入る為に徴収された平民なのだろう。
平民にしては強いが、騎士と名乗れる程ではない。この戦いで成果を上げれば騎士になれると言って集めたのかもしれない。
クソみたいなことをしやがる。
赤鷲騎士団の制服を着ているのは敵味方の判別を付けやすくする為か……。
だが、例え平民だとしても倒さなければならない。ここは戦場で相手は地上から来た敵なのだから。
それにどんな身分でもシェリーの犠牲の上で平穏に暮らしていた奴らだ。けして許すことはない。
俺はゼルファイアの柄を握り直し、今度はこちらから突っ込む。
傷も負っている少年ではかわせないだろう。
そう勝利を確信したが、またも獣人が邪魔をする。よく見るとマリーが水魔法を放っていた騎士を倒していた。
獣人は両腕に傷を負った2人を抱え、逃げていく。
班長らしき男は置いていったようだ。
俺とマリーは獣人の背中を目で追い、それ以上の追撃を諦めた。




