21.緊急警報
あれからマリーに見てもらいながら魔法の練習をするのも日課に加わった。
それでも俺の闇魔法の爆発は止まらず、味方を巻き込みかねない状況に変化がない。ただ、一般常識や剣に関しては少しずつ身についていた。
「一番強いはずの魔法が使えないのは勿体ないわ。はやくどうにかしないと」
「そうは言ってもなぁ……」
俺よりもマリーの方が俺の心配をしているようだ。
もう魔族の国に来て1か月以上経つ。それなのに戦場に出られていないことがマリーには引っかかっているらしい。
「焦っても仕方がないことは分かってるのよ。でも…………」
「魔族がおされてきてるからか?」
俺が来てから少しずつ人が魔族の国に踏み入ることが増えた。
なんでも勇者が先陣を切って魔族の国に乗り込んでいるのだとか。
俺はクルスから貰った懐中時計を見る。普段は見えないように服の内側に入れて更に厚手の布で巻いていた。
まさかあいつが脅威になるとはな。
魔族側からすると勇者は恐怖だ。ひとりで戦場の流れを変えてしまう。
「……勇者なんて久しぶりなの。しかも聖教国がこれほど攻めてくるなんて」
「まあ、攻めても魔族の国の土地を取れるわけじゃないもんな。利益がない」
強いて言うのなら魔族の数を減らせるのがメリットだろうか。
でもそこまでしなければならないほど魔族が地上に攻め込んでいる訳でもない。
確か、今の魔王は積極的に地上を攻めてないんだよな。
先代の魔王は凄かったらしいけど。
マリーから教わった情報を思い出しながら整理する。それほど戦争に前向きじゃない魔王で残念だ。
逆に地上は勇者の居る今、できるだけ魔族にダメージを与えたいのかもしれない。
俺は目の前のカレーライスをすくった。
地上では見ない料理だが、魔族の国では有名な料理らしい。スパイスが魔族の国特有だと聞く。
「あー、昔は土地がとれなかったわ。でも今回は違う。奪った土地に人を移民させてるみたいよ」
「えっ、瘴気は?」
魔族の国には瘴気が満ちている。人が瘴気を吸い込むと幻覚や幻聴、様々な体調不良を覚える。適応できるのは魔族と闇落ちした者だけだ。闇魔法の適性者でも大半が長くは生きれないのだとか。
「光魔法を上手く使って瘴気を抑えてるらしいの。前回奪い取られた土地でそれが起きたから、次に攻められたら警報が鳴るわね」
嫌そうにそう言うと、マリーはスプーンを置いた。
カレーライスはもう食べ終わったようだ。
「それだけ危険視してるってことか……」
「そうね。警報が鳴ったら遊撃部隊は出撃よ。気を付けてね」
「あー、そういえばそんな話を聞いたっけ」
俺もスプーンを置いて水を飲む。
夜遅いというのに食堂に人が多いのは警戒している人が多いからだったらしい。みんなその時に備えて訓練をしているのだろう。
どことなく物々しい雰囲気に納得していると、空気をつんざくような音が鳴り響く。こんな不安を煽るような音は初めて聞いた。
「警報よ!」
「はっ!? これが?」
説明を受けた直後に警報がなるとは思わなかった。噂をすれば何とやらというやつか。
俺は気を引き締めて魔剣を触った。
「こっちよ! 急いで!」
「マリーは装備を持たなくて良いのか?」
いつも通りの軽装をしているマリーに叫ぶと、マリーが頷く。
この軽装がマリーの戦闘服らしい。一応黒い軍服を着ているので問題ないのだろう。
『勇者がエリア108に出現しました。遊撃部隊は至急向かってください。尚、第二部隊の尉官以上は第1会議室へご参集ください。繰り返します。勇者がエリア108に……』
耳に突き刺さるような警報音に混ざって指令が飛ぶ。
エリア108というのがどこか分からないが、遊撃部隊はとりあえず転移陣へ向かえということだ。
俺は先を走るマリーに続いて軍部の建物を駆け抜ける。魔族の国に来てから外へ出るのは初めてだ。魔族の国の軍の建物はそこだけで生活が完結するように出来ていた。
初日以外は遊撃部隊のエリアからすら出てなかったからなぁ。
外ってどうなってるんだろ。
初めての戦いと同時に初めての外というのにも緊張する。地上でも聖都から出たことがなかったのだ。普通の生活というものがどんなものか分からない。
足手まといにならずに戦えたら上出来か?
可能なら憎い騎士どもを倒したいが……。
俺は不安を胸に細く息を吐いた。
「ここから飛ぶわよ。魔法陣に乗れる人数はそのまま送れるから一緒に乗って」
「分かった」
すでに多くの人が魔法陣に乗っている。かなり密集しているので俺たちは次の回で送ってもらうことにした。
「……大丈夫?」
顔色が悪くなっているらしい俺にマリーが眉を寄せる。
マリーは慣れているからか緊張した素振りすらない。この状況で男の俺が弱事を言うわけにはいかない。
ぐっと唇を噛みしめ、俺は言葉を飲み込む。こんなダサい姿を見られたくない。
そんな俺にマリーはため息をついた。
「無理しないでね。死んだらそれまでだから」
「…………ああ」
何度も戦場を経験しているが故の重い言葉に頷くのが精一杯だ。
不安しかないものの、俺たちは勇者が攻めてきたというエリアに転移した。




