20.魔族の国
それから午前に剣と魔法の稽古をして午後にマリーから魔族の国について聞くのがルーティンになった。本当は午後も剣や魔法を磨きたいが、あまりに魔族の国は地上と違い過ぎる。一般常識を知る為にも魔族の国の勉強は必須だった。
「はん! お前、勉強なんてして楽しいか? 俺と特訓しようぜ」
「アラン! 邪魔しないで! イオも目を輝かせない!!」
舎弟だなんだと言っていたアランは特に嫌なことをしてくる訳でもなく、たまに訓練と称して戦いを仕掛けてくるだけだ。その戦いが命がけになるから困るが、強くなっている自信も持てる。
今日ついに一太刀だけ反撃することができたのだ。簡単に避けられてしまったけれどその興奮が今も残っている。
「仕方ないだろ。勉強なんて苦手なんだし」
ちらりと時計を見ても1時間しか進んでいない。
食後は眠らないようにするだけで大変だ。勉強をするというより眠気と戦う時間になっている気がする。
禄に眠れていないせいでふとした拍子に意識が飛ぶ。勉強なんてその最たるものだ。
「意外とイオは脳筋よね。……はぁ、分かったわ。魔法の練習にしましょう」
「そうこなくっちゃ!!」
手を叩いて立ち上がると、マリーは肩をすくめる。やれやれと思っているのがありありと伝わってきた。
マリーは勉強も楽しそうだもんな。
教えるのも上手いし、なんで軍にいるんだろ?
脳筋の多い軍ではレアなインテリだ。
マリーに呆れられている俺ですらインテリの部類らしい。魔族はそれで大丈夫なのだろうか?
いつぞや魔法やスキルが強くないとマリーは自嘲していたが、作戦を立てる会議にも呼ばれるほどの頭脳の持ち主だ。遊撃部隊では異色でも居なくてはならない存在になっている。
しかもマリーの闇魔法は上手いんだよな。
アランの荒々しい使い方も面白いけど、勉強になるのはマリーだ。
俺はマリーの手首を掴んで建物の外へ出る。
簡単な魔法なら室内でも練習できるが、魔力量が多い弊害か俺は爆発することが多い。爆発も大規模になるので、室内で練習するのは危険だった。
バコォォォン!!
昨日習った復讐をしようとしたのに、勢いよく闇魔法が爆発する。
これでは闇魔法というより火魔法のようだ。
さらに、大きな音が鳴ったせいで数人が様子を見に来てしまった。それでも、どんどん人数が減っているのでみんな慣れてきたのだろう。
見に来た人もまたお前かという顔をして全員帰っていく。これからは練習前に一報入れるべきだろうか。
俺は飛び出してきた人たちに目礼をする。
「…………毎回思うけど、どうして闇魔法が爆発するのかしら」
「お前、俺に向かって爆発させたか?」
理解できないものを見るマリーの目と好戦的に光るアランの目が俺に向く。確かにアランの方へ爆発が行ってしまったけど悪気はない。ちょっと手元が狂っただけだ。
「悪い」
一応謝ると、アランは器用に眉を片方上げた。
「次にやってみろ、お前の頭が胴体から離れるぞ」
「ハハハ」
瞳孔の開いた顔に乾いた笑いしかでない。
それでも問答無用で切りかかられなかっただけ仲良くなっている。出会ってすぐなら無言で切られていただろう。
俺は引きつった笑みを浮かべた。
「やっぱり出力が大きいのかもしれないわ」
マリーが爆発した辺りの魔力残滓を探る。闇魔法を器用に使って使われた魔力量を調べているようだ。
「これでも最小にしたつもりなんだが……」
急に魔力量が増えたせいで制御が上手くできていない。これ以上魔力を絞るのは細い針にタコ糸を通す難易度だ。
分かりやすく言うと、天井から目薬を落として成功させるくらい難しい。
俺は一度手を握ってから再び開いた。
体の中を流れる魔力を意識してもやはり量が増えている気がする。それどころか体内を循環するスピードも速くなっている。これでは必要な量だけ出すのが難しいだろう。
「まずは体内の魔力の流れをゆっくりにすれば良いか?」
解決方法が分からないので、前と違うところをしらみつぶしに試していくしかない。
魔法の種類を変えても爆発が変わらないことは今までの訓練で分かっている。闇魔法の初級編は昨日までで全て試した。
「そうね。魔法の問題じゃなさそうだもの。元をどうにかするしかないわ。どうやったら爆発しなくなるのか分からないけど」
「そんなのうぉぉぉぉぉ!! とやってどばー!! と出せば良いだろ?」
飽きてきたのかアランが闇魔法で作った黒い火を振り回しながら火炎放射にする。
どうやっているのか聞きたくなるくらい応用編の魔法だ。
「…………」
間違いなく今の俺にやらせてはいけない魔法にマリーが閉口する。
あの魔法が爆発したらどうなるんだ?
爆発が移動していくのか?
それはそれで楽しそうだが、また人が見に来てしまう。しばらくは大人しくしておくべきだろう。
少し残念に感じたが、騒動を起こして訓練場の使用を禁止されては困る。そうなったら剣の練習すらできなくなってしまう。
俺は気を取り直して体を流れる魔力を意識した。
とりあえず、塞き止めてみるか?
意識しただけだとゆっくりにならないし。
俺は目を閉じて魔力の流れを止める堰のようなものを作るイメージを固める。魔法は意識が重要なので何か効果があるかもしれない。
「どうだ?」
体内の魔力に変化はないが、マリーから見たら何か変わっているだろうか。
自信なくマリーを見ると、マリーが首を横に振る。やはりこれではダメだったらしい。
「全然変わってないわ。そもそも他人の魔力循環を見るのなんて大変だから正しいかも分からない」
「それなら他人の魔力循環はどうしたら見れるんだ? できない訳じゃないだろ」
マリーはできなければ出来ないと言う。大変と言っている時点で方法があるはずだ。
「できなくはないし、やるなら両手をつなぐのが一般的だけど……。それでも余程相性が良くないとやらないわ。気持ち悪くなっちゃうから」
嫌そうに眉をしかめるマリーは気持ち悪くなったことがあるのだろう。しぶしぶという様子で俺に手を差し出してきた。
「良いのか?」
「仕方がないわ。バディなんだもの」
とても嫌そうな顔をしているマリーに頼むのはなんだか悪い気がする。まるでいじめているようだ。
それでもマリー以外に頼むこともできず、俺はマリーと手をつないだ。




