15.茶髪のバディ
その後、リンダールに手伝ってもらい両親を墓に埋めた。
地域によって色々な埋葬方法があるらしいが、聖都周辺は土葬が一般的だ。穴を掘って埋めるだけなら俺にもできる。
父は聖都が好きだったので、見晴らしの良い丘の上に埋葬した。先祖の墓も墓地にあるらしいが、そこに近づくのは危険過ぎる。
申し訳ないが、ここで許して欲しい。
俺は墓の前で手を合わせ、穏やかな旅路を願う。
言いたいことも、伝えたいことも沢山あった。
だが、髪が黒くなってしまったので長居もできないだろう。
誰かに見つかれば命の保証がないし、俺一人では地下と地上の行き来もできないのだ。
「満足しましたか?」
予想に反してリンダールは文句のひとつも言わない。ただ俺がもう良いと言うのを待っている。
「ああ。ありがとう」
初めて礼を言うと、リンダールが頷いた。
差し出された手も拒むことなく掴む。
黒髪になってしまった俺はもう、地上にはいられない。
俺自身でもリンダールの黒髪を見た時、受け入れ難く思ったのだ。神を信じている連中はもっと受け入れられないだろう。
「それでは貴方のバディを紹介します」
「バディ?」
「相棒ですよ。望むなら一般市民として暮らして頂いても構いませんが、貴方は貴方をこんな目に合わせた人たちに復讐をしたくないですか?」
「したいに決まってる!!」
良く分からないまま、父さんと母さんを殺されたのだ。
どうしてそうなったのかすら分からない。
こんな目に合わせた奴らを同じ目に合わせて、苦しめてやらないと気が済まない。
「であれば、軍に入るのが良いでしょう。軍と言っても貴方は規律を乱しそうです。なので、個々の力の強い遊撃隊が良いでしょう。そこでスキルや魔力を見てもらってください。望みがなさそうであれば、一般人に落とします」
「スキルを見てもらえるのか! でも魔力は知ってる。……大した力は持ってない」
淡々と俺の所属を決めていくリンダールに異論はない。
強くなって扇動したやつを殺す。
憎しみだけなら負けない自信がある。しかし、魔力が優れていないことは既に知っていた。
「大したことがないと言うのは人間だった時の話でしょう? 貴方は負の感情の箍が外れ闇に飲まれています。闇の力が発現しているはずですよ。強大なね」
「そう、なのか?」
自分が変わったとい認識はない。
ただ髪が黒くなっただけだと思っていた。でも、もし大きな力を手に入れているのなら、それは大きな強みになる。
「本当に力を手に入れているかは分かりませんので、測定してもらってください。そこら辺の説明をする者に引き継ぎます」
リンダールはそれだけを告げて歩き出す。
また瞬間移動のようなものをするのかと思ったが違うらしい。
コツコツと音を立てて静かな回廊を進んでいく。
しばらくして辿り着いたのは重厚な扉の前だった。
コンコンコン
ノックをしても返事は返ってこない。
リンダールもそれを理解しているのか、気に留める様子もなく扉を開いた。
次の瞬間、白刃がリンダールの首を落とそうとする。
「アラン。危ないので人を襲ってはいけません。怪我をしたらどうするのですか」
「なーんだ、リンダールか。ツマンネーノ」
指で剣の腹を押さえ、リンダールが攻撃を防ぐ。指が震えているのでかなりの力が入っているのだろう。
まさかリンダールが肉弾戦にも優れているとは思わなかった。
先に力を抜いたのはアランと呼ばれた頬に傷のある男で、剣を仕舞うと部屋の中に戻っていく。
リンダールも特に咎める様子はない。
「あれ? もうひとりいるじゃない。誰?」
俺の存在に気づいたもう一人が俺に近づいてくる。
茶色い髪をツインテールにした女の子は俺と同じくらいの年に見えた。
「今日から遊撃隊に入ってもらう予定のイオです。貴方のバディですよ」
「えっ!?」
予想外だったのか女の子はその場でぴたりと足を止める。
黒髪ではない人を地下に来て初めて見たかもしれない。急に止まったせいかツインテールも揺れている。
「わ、私のバディ? でも……」
急に視線をさまよわせた女の子に俺も戸惑う。相棒というくらいだし、同性になるものだと思っていた。
まさか異性と組ませるとは。
「嫌ですか? イオなら貴方の髪色も気にしませんよ。何しろ地上生まれなのですから」
「「地上!?」」
これにはアランと呼ばれた男も驚いたのか、もたれていた壁から体を離す。胸の前で組んでいた腕もほどいている。
地上から来る人は中々いないのだろう。2人の驚きがそれを表していた。
「だから角がないのね。何ていう種族?」
顔を引きつらせて俺を見るアランと違い、女の子は確かめるように俺を見る。
その視線は俺の頭上に向かっていた。
「俺は人間だ。ここだと角があるのが普通なのか?」
俺の斜め前に立つリンダールも角はない。しかし目の前の2人とその前に会った少女は頭から2本の角が生えていた。
「ここだと角があるのが普通ね。尻尾がある人もいるわ。軍人だと切り落としている人も居るけど」
「……なぜ?」
どんな尻尾なのか分からないが、切り落として痛くない訳がない。わざわざ切る理由が分からなかった。
「邪魔だからよ。使える尻尾なら残すわ。でも、ただ在るだけの細い尻尾ならいらない。捕まれる危険性もあるし、感情を読み取られる原因にもなるのよ」
「そもそも、尻尾程度を気にする奴は遊撃隊にいらねぇ。ここは戦闘狂の集まりだ」
「戦闘狂……」
言い得て妙だ。
確かに個性的で扱いずらそうな人がいる気がする。
なぜ、俺が連れてこられたのかとリンダールを見ると、リンダールが微笑んだ。
「お仲間でしょう?」
「……ちっ!」
別に戦闘狂になるつもりはないが、第三者から見れば同じなのかもしれない。
俺は視線を目の前の女の子に戻した。
「俺はイオ・バイロ……いや、ただのイオだ。バディが何かすら良く分かってない」
「そう、私はマリア。バディになるみたいだから教えておくけど普段はそう呼んだら許さないわ。マリーと呼んで」
「分かった」
マリーでもマリアでも構わない。この子も邪魔になるなら消すだけだ。
とりあえず俺にどんなスキルが使えるのか調べなければ。
魔法も強いものが使えるのなら使いこなせるように練習する必要がある。
復讐なんて言っても今のままだと直ぐに倒されてしまう。
バカにしていた青鷹騎士団の聖騎士にすら勝てるか分からない。
マリーも魔族と言う割に地上から来た俺を受け入れているようだ。隣で睨みつけているアランとは違う。
「逆にマリーは俺でいいのか? 地上生まれだぞ」
「構わないわ。かわりに私の邪魔はしないで」
本当に興味がないのかマリーはそれだけを告げて座っていた椅子へ戻っていく。
ここが遊撃部隊の休憩スペースのようだ。
リンダールは俺とマリーが問題なく顔合わせを済ませたことで、部屋から出て行った。
アランも俺が気に入らなかったのか、続けて部屋を出る。そうなると残っているのは俺とマリーの2人だけだった。




