喪失
<喪失>
「さて…困ったな。他に出口はあるのかな?」
藤崎は未那に向き合う。
「出口は2か所しかないの。でも…大丈夫よ…ね、茉奈」
未那の言葉に大きく茉奈は頷いた。その意味を茉奈に尋ねようとした…その時!
何かが飛んできた。咄嗟に未那と茉奈を横に押し倒す。飛んできたそれは後ろの壁に刺さると、爆発した。藤崎は爆風に吹き飛ばされる。未那は茉奈に覆いかぶさっていた。
吹き飛ばされた藤崎が立ち上がると、目の前に美優がいた。
「!?…美優さん!…ど、どうして…」
藤崎の言葉にその場に崩れるように座り込む美優。
「ごめんなさい…あなたたちを倒さないと…孝寿が…孝寿の命が…ううっ……でも、出来なかった…」
嗚咽を漏らす美優に近づきそっと肩に手を置く藤崎。未那が立ち上がり茉奈の服の埃を払っている。そして茉奈と一緒に未那が近づいてきて、美優の隣でしゃがみこんだ。
「美優ママ…私達に話して…」
「…まって!…早くここから出ないと…私が仕掛けた爆弾が…爆発します!」
美優の言葉に驚いた未那は、茉奈に向かって合図を送った。茉奈が両腕を開き、目を閉じた。茉奈の左手から眩い光が放たれ、その光は茉奈を包みこむ。そして、シャボン玉のような球体が膨らみ始めた。未那と藤崎は美優を支えて茉奈の作りだした球体の中に飛び込んだ。4人を包み込むと膨張は止まり輝きだす。
その時、一発の銃声が響き美優が小さく呻いた。
「美優ママ?・・・」
未那が美優を覗き込むと、手を当てていた腹部に赤い染みが広がる。そして美優は、藤崎と未那の腕を振り払い茉奈の作りだした球体から飛び出す。美優の前に一人の男が現れる。男は無表情でその殺気に満ちた視線と銃口を球体に向けた。
「やめて!孝寿!!」
美優は男に向かって走り出す。振り上げた右手には一本のダーツが握られていた。美優の体を男の放った銃弾が襲う。倒れ込むように男に抱きつく美優。
「孝寿…ごめんね…」
美優の右手に握られていたダーツが男の首筋に突き刺さる。絡み合い倒れ込む二人。
「美優ママ!!」
未那が球体を飛び出そうとするが、球体は完成したらしく未那の体は、弾き返された。
「…美優…美優…」
倒れた男が囁く。
「孝寿!…良かった…気がついたのね…でも…ごめんなさい…」
倒れたままきつく抱き合う二人。そして、未那に顔を向けると美優が言った。
「未那!…あなたの仲間たちに気をつけて…彼らも……」
美優の言葉は、爆発音にかき消される。抱き合う二人が炎に包まれていく。
「美優ママ!!」
未那の叫び声が球体内に空しく響く。
そして、茉奈の作った球体は炎に包まれる寸前にかき消すように消えた。
茉那の力で地上に脱出した藤崎たち。茉那は力を使い果たした為か眠りについていた。藤崎は茉奈を抱きかかえる。茉那の作った球体はそのまま消えないまま残っていた。
「未那…大丈夫か?」
座り込んで泣いていた未那に優しく声をかける。未那は立ち上がると藤崎の背中に抱きついた。
「未那?…茉那の作ったこの球体どうして消えないんだ?」
藤崎の問いかけにハッとして、銃を構え辺りを見回す未那。
「どうしたんだ?…急に」
「茉奈が危険を感じると、どんな状態でも自己防衛のために球体が作られるの。多分、近くに敵がいるのかもしれないわ」
未那は鋭い目つきで敵の気配を探っている。
「そう言えば、美優さんが言った…『仲間に気をつけて…』って言っていたけど、どういう事なんだろう?」
その時、藤崎の耳に声が飛び込んできた。
「おい!いたぞ…こっちだ!」
ビルの中から飛び出してきた敵の兵士が、無線機を使って仲間を呼んでいた。
未那が茉奈を抱いた藤崎の手を掴み走りだす。正面から数人の者たちが銃を構えて走ってくる。後ろからは先ほどの兵士が呼び集めた者たちと追ってくる。藤崎が正面に構えた銃を未那の手がおさえた。
正面の者たちが発砲する。しかし、それは藤崎たちではなく後方の兵士たちを狙っていた。振り返ると、追ってきた兵士たちが倒れていた。
「未那さん!藤崎さん!…ご無事でしたか…よかった」
声をかけながら近づいてきたのは、リーダー格の秋山という男だった。
「秋山さん!あなた方もご無事だったのですね…よかった」
未那が話し終わった途端に、茉那の作った球体が消え去った。
藤崎たちは、秋山に別の隠れ家に案内された。海の近くの別荘で使われていたような建物だった。藤崎は眠ったままの茉奈を抱いて未那と一緒に、案内された部屋に入った。
「今、食事を用意していますので、もうしばらくこちらでお待ちください」
藤崎たちを案内してくれた女性がそう言って、部屋を出て行った。
藤崎は部屋の窓を開けた。海の匂いと共に、空と海の青が目に飛び込んできた。
「きれい…いい匂い」
未那が藤崎の隣に寄り添ってくる。そして、…見つめ合い…藤崎の唇が未那に触れる。
未那、茉那と共に食事を終えた藤崎は茉那と浜辺に座っていた。陽はすっかり落ちて闇を纏った空には、ため息が出るほどの煌めく星が散りばめられている。月明かりの下で蠢くようなうねりが静かな波音を立てていた。
「ねぇ、おとうさん…ごめんね」
藤崎の腕に茉那が縋りつく。
「ん?…急にどうしたんだ、茉奈」
「だって、わたしが無理矢理お父さんをこっちの世界に呼んじゃって…やっぱり、帰りたい?」
茉那が心配そうな顔で藤崎を覗き込む。
「そんな事ないよ、茉那をおいて行けるわけないじゃないか」
藤崎は茉那の肩に手をまわして抱きしめた。茉那は涙がつたう頬を藤崎の胸に押し当てた。
「さぁ、お母さんの所に戻ろう」
藤崎は立ち上がり茉那の服に付いた砂を払い落す。…と、その時…複数の銃声が辺りに響く。建物に向かい駆け出す藤崎と茉奈。藤崎たちの部屋の開いた窓から未那の姿が見えた。銃を構えて撃ち合っている。
「未那!なにがあったんだ!」
藤崎の声に反応して未那が振り返り叫ぶ!
「気をつけて!敵よ!」
藤崎は銃を引き抜くと、茉奈を後ろに回した。辺りを確認して建物へと進んでいく。突然銃声がやみ、未那のいる部屋に男が入ってくる。
「未那さん!大丈夫ですか!」
入ってきたのは、秋山だった。
「いま仲間たちが応戦しています。藤崎さんはどちらですか?」
秋山の答えに藤崎のほうに体を向けた。一発の銃声が響き、未那の胸元に赤い染みが見る間に広がる。
「…しゅ…駿…」
未那が倒れて窓から姿が消えた。
「未那!!」
藤崎の銃は秋山の頭を吹き飛ばす。窓に向かって駆け出す藤崎。建物の陰から現れた兵士たちが、その藤崎を狙う。
「お父さん!危ない!!」
茉那は両手を藤崎に向ける。藤崎の周りを透明の球体が包む。藤崎を狙った銃弾はその球体に弾かれる。藤崎の反撃で右から来た兵士たちは次々と倒れていく。
「もう一人いるぞ!」
左から来た兵士たちに反撃するのと、兵士たちが放った銃弾が、茉奈に襲いかかるのが同時だった。
「きゃぁ…」
茉那が短い悲鳴と共に、倒れる。新たな兵士たちが藤崎に襲いかかる。
「茉奈!!」
藤崎は落ちていた流木を拾う。左手が赤く輝き流木に纏わり付くと、刀に変わっていく。襲い来る兵士たちに刀を振り下ろす。赤い光が刀から放たれ兵士たちをなぎ倒していく。怒り狂ったように刀を振る藤崎。
やがて…再び静寂が訪れ、聞こえてくるのは波の音だけになった。
藤崎は、砂浜に向かって走り出し、茉奈を抱き起こした。
「大丈夫か、茉奈!」
「私は…大丈夫…それよりお母さんを…」
茉奈を抱いて部屋へと向かう。部屋の中には絶命している秋山と胸を赤く染め、うめき声を上げる未那がいた。
「未那!」
藤崎の呼びかけに目を開ける未那。
「お母さん!」
茉那は両手を未那の胸に当て目を閉じた。
「…駿…茉奈…二人とも…無事…だった?…」
「ああ無事だ、今、茉那が治療するからな、喋るんじゃない!」
そう言って藤崎は茉奈に目を向ける。
「!?…茉奈!撃たれているのか!!」
茉那の脇腹から流れる赤い液体が床に流れていた。
その時、ドアの外で音がした。敵の兵士が起き上った。藤崎は銃を素早く抜き取り兵士を打ち倒す。兵士が倒れる寸前に何かを投げた。それは、部屋の床で跳ねた。その音に茉那が振り向く。咄嗟に未那に向けていた両手を藤崎に向ける。
藤崎の体を光が包み込む。と同時に部屋中が爆煙に包まれていく。未那と茉奈の笑顔と一緒に…。
「おとうさん…また会えるよね…」
「駿…駿…愛してるわ…」
藤崎の薄れ行く意識に茉那と未那の声が響く!
「茉奈!!…未那!!……」




