気配
<気配>
敵のアジトから抜け出し、研究員として操られていた人々は未那たちに頭を下げると、それぞれの場所へと去っていった。
「私たちも戻りましょう」
そう言うと、未那は車を取りに向かった。
未那が運転する車の後部シートでは、茉那が藤崎の腕にしがみ付いたまま眠っていた。かなりの力を使った為か、時折大きく車が揺れても全く目を覚まさなかった。藤崎は茉奈の髪を優しく撫でていた。助手席の美優は未那と話し込んでいた。
未那が車を地下駐車場に入れようとした時、藤崎が未那の肩を掴んだ。
「ん・・・どうしたの?」
未那は車を止めて、藤崎のほうを振り返る。
「・・・なにか、嫌な感じがする・・・ちょっと見てくる」
そう言うと、藤崎は車を降りて地下の駐車場へと入っていく。未那も何かを感じたのか眠っている茉奈を美優に頼んで車から降りる。右手には銃が握られていた。
(なんなんだ・・・この、嫌な感じは・・・どんどん強くなっていく感情・・・殺意!?)
ゆっくりと壁沿いに進む藤崎の足が止まった。
「!?・・・消えた・・・」
藤崎は驚いた表情で立ちすくんでいた。あれだけ強く感じていた殺意が、突然消えていた。
「駿!どうしたの?」
未那が立ちすくむ藤崎に駆け寄ってくる。・・・と、その時、外のほうから爆発音が聞こえた。駆け出す未那と藤崎。未那が運転してきた車が炎上しているのが二人の目に映った。
「!?・・・茉奈!・・・美優ママ!」
駆け出す未那を呼びとめる声が響く!
「未那!・・・茉奈ちゃんは無事だよ」
茉奈を抱いた美優がビルの陰から現れた。安心したのかその場に座り込む未那。
「茉奈ちゃんの力は凄いね、寝たままなのに私と自分を瞬間に移動させるなんて・・・」
美優は、そう言いながら茉奈を藤崎に預ける。
仲間に迎えられた4人は、集まった二十数人の仲間と共に一つの部屋にいた。
未那がこれまでの事を話していた。茉那は相変わらず藤崎の腕で眠ったままだ。
その時、藤崎の脳裏に何かが触れた。そう・・・触れたというくらいの何かを感じた。藤崎は、茉奈を抱いたまま立ち上がると、未那の話を聞いている仲間を見回しながら部屋の後ろまで歩く。しかし、何も感じるものはなかった。後ろにいた美優と視線が合う。
藤崎は美優の隣に行き、嫌な感じの気配を感じた事を伝えた。
美優の左頬がピクっと微かに動いた。しかし、右側にいた藤崎には見えなかった。
藤崎は、茉奈を抱いたまま部屋を出た。
部屋に戻った藤崎は、茉奈をベッドに横たえると横の椅子に座った。何となくスッキリしなかった。ここに来る前に感じたかなりの殺気が、まるで何もなかったかのように消えた事がかなり引っかかっていた・・・。確かに、研究者の黒川を倒しはしたが、敵の全部を倒したわけではない。敵の中心人物さえ分からないどころか、あと何人のストーン装着者がいるのかさえ判らなかった。
部屋のドアが開いて、未那が入ってきた。
「茉奈、まだ起きないの?」
未那の問いかけに黙ってうなずく藤崎。未那は、茉奈の隣のベッドに横になった。
「未那?さっき話していたときに何か感じなかった?」
未那は顔をこちらに向けて不思議そうな顔をしている。
「いや、それならいいんだ。疲れただろうからゆっくりお休み」
「駿も疲れてるでしょ?早く休もうよ」
笑顔で未那が手招きする。藤崎は椅子から立ち上がると未那の隣に横たわった。未那が藤崎の左手を掴んで横に伸ばすと、自分の頭を乗せた。
藤崎は一人射撃訓練場にいた。何かがずっと引っかかっていて眠れず部屋を出てきていた。それが、『嫌な感じ』までになっていない事が気になっていた。
藤崎は銃を的に向かって構えた・・・その時!
「!!」
藤崎は壁に張り付き辺りを見回した。
(あの時と同じ気配だ!)
部屋の中には誰もいなかった。藤崎は入り口のドアの窓から部屋の外を覗き込む。微かに靴音が聞こえる・・・そしてそれが近づいてくる。藤崎の見ていた廊下側の窓を影が横切る。
(!!・・・美優さん?)
美優はこちらには気が付いていないようだった。藤崎はそっとドアを開け、気付かれないように美優の後を追った。離れているためよくわからないが、何かを持っているようだ。
突然立ち止り、辺りを見回す美優。藤崎は気配を消して壁に張り付いた。美優は目の前の部屋のドアに耳を当てて暫くしてからドアを開けた。そして、手に持っていたものを転がすように中に入れた。そのままドアを閉めて立ち去る美優。
藤崎は、美優の追跡を諦めた。美優が開けたドアは、未那と茉奈が寝ている部屋だった。藤崎はドアを開けて床に目をやった茉奈が寝ているベッドの下が赤く点滅している。ベッドの下を覗いた…銀色の筒の中心でデジタルの数字が点滅している。
(まさか…爆弾!?…美優さんが…)
藤崎は、銀色の筒をそっと掴むとゆっくりと立ち上がりドアを開けた。その音で、茉奈が目を覚ました。
「おとうさん?…何してるの?」
起きてきた茉奈が藤崎に近づき手元を見て驚く。
「そ、それって…ば…」
藤崎は、口元で人差し指を立てた。
「お父さんは、これを処理してくるから、茉那は母さんを起こして、ここから出るんだ。敵がいるかもしれないから十分気をつけるんだぞ」
藤崎の言葉に頷き未那のもとに向かう茉奈。
藤崎は、爆弾に衝撃を与えないように走った。デジタルの数字は130から下がり続けている。研究室に着いた藤崎は、デジタルの数字が一桁になっていた銀の筒を爆破物実験用のシェルターに入れて扉を閉めた。シェルターの扉に遮られ小さな爆発音が聞こえた。
「…間にあったか……よかった…」
藤崎が研究室の扉を出たその時、藤崎の耳を複数の爆発音が襲ってきた。
(一つじゃなかったのか…)
藤崎は、未那と茉奈が心配で、出口に向かった。途中いくつかの部屋を覗いたが誰も見つからなかった。爆風で巻き上げられた埃の中に人影を見つけた。
未那と茉奈だった。藤崎は駆け寄った。
「未那!茉奈!大丈夫か」
未那は右肩から出血していた。茉奈は未那の右肩に両手をかざして目を閉じていた。未那の肩の出血が止まり、鋭利な刃物で切られたような傷がみるみる塞がっていく。
茉奈の力に改めて驚く藤崎だった。
「完全じゃないけど、これで大丈夫」
茉奈は藤崎にむかって微笑む。藤崎は未那の体を抱き起こした。
「未那、大丈夫なのか?」
「爆発で何かの破片が飛んできたの。でも、茉那がいたから大丈夫よ。でも…この爆発って…いったい誰が?」
尋ねる未那に藤崎は答えた。
「美優さんの洗脳は、まだ解けてないのかもしれない…」
「えっ!…美優ママが…そんな…」
驚く未那。
「そのことは後にしよう。ここから早く出るんだ」
「お父さん…この先のエレベータのほうは、天井が崩れ落ちて行けないの」
茉奈たちは、そこから引き返してきたのだった。
「そう言えば、仲間の姿が見当たらないのだが、誰かに合わなかったか?」
未那と茉奈は、首を横に振った。
「ここから出ようにも、エレベーターが使えないとなると…非常階段のほうに行ってみよう」
藤崎の言葉に走り出す3人。
廊下の奥の非常階段への扉に数人が駆け込み、ドアが閉まる。藤崎は仲間の姿を見て、安心した。藤崎は非常階段への扉を開ける。足元に銀色の筒が…!?
藤崎は、ドアを閉めると、未那と茉奈を抱きかかえ、左手を目の前で構える。赤い光が広がる。そして爆発でドアが吹き飛び、コンクリートの塊が降り注ぐ。未那と茉奈は藤崎の赤い光に護られ無事だったが、目の前の非常口は瓦礫の山となっていた。
「完全に、閉じ込められたか…しかし、仲間はみな無事に脱出できたようだな」
人気のいない辺りを見回し、藤崎はそう言った。
…藤崎は、まだ気づいていなかった…仲間たちが誰もいない…意味を…。




