8話 試験
ドラグスタ島はエルゲ湾のふところ、王都を敵から守るようにそびえ立っている島だ。潮が引いていると陸と繋がるので、その時は一般人でも立ち入ることができ、湾内にある島にしてはかなり大きいので、重要な軍事拠点になっている。
今日はそのドラグスタ島にアイリ含め推薦クラスの生徒、計286名が集められていた。青く晴れ澄んだ空の下、彼らの表情は硬く、とても観光名所の真ん中にいるとは思えない。
「おほんっ。」
人の身長程の台に、その半分にも満たない老人が立っている。ファナティア王国軍准将、アレックス・ファンガーソンだ。将官階級が学生の前に立つことは滅多にないが、事が事なのでわざわざ王都中心部から足を運んで来ているようだ。
「皆知っているだろうが、ここにいる286人に王女の騎士候補となる権利が与えられた。君たちの様な雑魚どもにっとてこれ程光栄な事はない。」
声量の割に聞き取りやすい高い声が静まり返った人の群れを覆う。高尚な貴族やその分家の出が過半数数を占めているこの集団にここまで強く言えるのは彼が王族出身だからだろう。
「もちろん、選ばれるのはこの中からただ一人。試験で最高成績を出した者だけが、ここにおらっしゃるアリア・ファナティア様に騎士として仕えることとなる。心してかかれぇいっ!!!」
似合わないドレスを身にまとったリアが俺たちを見ている。ブロンドの髪は晴天の太陽で照り輝き、笑顔は引きつっていた。
ーーー
「で、なんで森林戦・・・」
集められた300名弱はさらに四つのグループに分けられた。その中でもここ”アルセナル島グループ”は4人1組で、直径約二キロの島全体を覆った森の中での勝ち残り戦が行われている。
「しっ、静かに。」
同じ木の陰、俺のすぐ前に身を潜めてるカナリアが人差し指を立てている。遅れてコンマ2秒、足音が聞こえ腰に帯刀した木刀に手を掛ける。3人、いや4人だろうか、獣道を走って近寄ってきていた。
「アイリ、俺の合図で飛び出て注意を誘ってくれ。そしたら、俺、カナリア、レイビットがブライブを放つから」
向かいの木に隠れているカスパーはそう言い、向かってくる敵を見ながら指を3本立てた。もうこの一連の動きは慣れたものだ。試験開始から約二時間、定期的に送られてくる他のチームの場所と、行動範囲の縮小から敵が通りそうな道を割り出しそこに網を貼る。
「・・2、1。」
「てぇえい!!!」
そこで、こうやってブライブをろくに使えない俺が盾役として前に出る。
「っ!!!」
敵はすぐに立ち止まり周りを見て警戒するがもう遅い。
「あ゛あぁあっっ!!!!」
守りのブライブを展開する前に前方からはカスパーとカナリア、背後からはレイビットがブライブを放ち付与シールドにダメージを与える。「付与シールド」とは、島に降りた時に一人一枚配られたブライブの力を保存したシールドで、これがダメージを受けて消滅するとその時点で失格扱いになる。
「ちっくしょぉぉおお !!!」
「今回の生き残りは一人か、楽でいいね。」
毎回生き残りが数人出るが大抵シールドの消耗が激しい。俺はできるだけダメージを食らいたくないから、後ろに大きく跳んだ。
「あとは任せたよー」
「おうっ!」
薄暗い森が赤色の光に照らされる。昼を疾うに過ぎあと少しで日が沈む。残りのグループはあとどれくらいだろうか。一仕事終えた俺は石の上に座りこみ天を仰いだ。濃緑のキャンパスに白や水色がゆらゆらと描かれている。その二色の隙間から差す光が肌に触れ、なんとも言えない快感が走る。
「君、今回は何もやってないでしょ。何やってやったぜ感だしてんの。」
最後の一人を倒し終えたレイビットが、その黒い服についた土と木の葉を払いながら歩いてきた。
「あ、そいうことすぐ言っちゃうのね・・・」
「まぁ、でも運がよかったぜ。弓射型が3人もいるチームで、しかも内一人は超一流だから確実に一人は仕留められるし。」
カスパーの言う「超一流」とはレイビットのことだ。特待クラスである1・2組、その中でも彼は上位の成績の者だけが入ることが許される1組に在籍している、ブライブの出力、身体能力、機転の速さ、何を取っても6組の俺たち以上だ。
「あぁ、でも油断はできない。」
レイビットは白い髪をさっと横に直し一度目をつぶり、うん、うんと頷く。
「今まで倒した6チーム、計23人だ。二組の人はちらほら居たけど僕らの組は一人も見なかった。これが何を意味しているかわかるかい?」
俺達を除いて残り11チームと一人。島に降りた生徒72人のうち割合で考えると一組二組は16人程度だろう。多く見積もって16人だとして、・・・あっ。
「そうだ、あと11チーム、その中に一人、運が悪いと二人は二組か一組。この先はかなりタフな戦いになるだろうね。」
全員が理解し、この先の戦い方の見直しをしようと言う時だった。がさっ、と冷たい石に座っていたカスパーのうしろの木が揺れた。瞬間、カスパーは俺たちの方に跳び、木刀に手を掛ける。彼のブライブももう残りわずかなのだろう。充満する緊張感の中木の陰から右手がでて、それがブンブンと振られれる。
「あ、伝令。」
カナリアが腰を引きながら手に握られている手紙を受け取る。手紙が手から離れた瞬間だった。
「きゃっ!!」
彼は木から飛び出し、とてつもない速さで走り去っていった。嵐が過ぎさった20平方メートルはその静けさだけが残っていた。カナリアはもう一つ残った手紙を開く。途端に眉間にシワがより、彼女は目を細める。
「おいおいマジかよ・・・」
ほぼ同時に覗き込んでいたカスパーも驚きを隠しきれていない。何があったのだろうか、カナリアから手渡され俺とレイビットもようやくその内容を目にする。途端、衝撃が走った。
「これはーーー」




