7話 世界
「いいねぇ、今年の奴らは。」
教官は砂煙をオーラのように纏って、ニヤリと笑みを溢し歩いていた。投げたアイリ自身はもちろんのことだが、ちらちらと横目で見物していた生徒達も驚きを隠せず、その手を止めざるを得なかった。
「昨日、一般生で化け物みたいに強い女子を見て以来、俺の教師人生2日連続2回目の衝撃を感じているぞ。」
アリアのことだろう。アイリはすぐにそう確信して構えをとり直す。その思いとは裏腹に空を覆っていた灰色は漆黒に変わっていた。
ーーー
あれから2週間が経ち、アイリもクラスにも慣れつつあった。もともとその性格から嫌われることもあまり無かった彼だが、流石にここまで多くの人数に認知され関係を持つことができたのはあの一戦があったからだろう。
「ここかな・・・。」
蔵書数五万冊を超える大図書室、その一角にひっそりと位置している部屋の前にアイリは立っていた。
「失礼します。6組アイリ・ムルートです。」
扉を手の平でぐぐっと押す。なかなかに歴史の重い部屋なのか下には擦れた跡がどす黒く残っている。
「君がムルート君か、待たせて悪かったな。」
狭い部屋のすぐそこで、司書なのであろう彼女は銀髪を机にべったりと付け後ろを向いたまま答えた。アイリからはよく見えないが何か作業をしたまま答えた。
「それで、あの件のことですが・・・」
アイリがこの司書室に呼び出されたのは、やはり転入直前の事件についてだった。彼はあの事件の当事者で被害者であったのにも関わらず、この2週間何も知らされていない。はっきり言って異常だと彼は思っている。
「まぁそう焦るなよ。少し待ってくれ。」
「は、はぁ・・・」
たとえ待たされた上に更に待たされても、アイリは美人には何も言えない。
ーーー
「さて、」
ひと段落ついたのだろう、彼女は猫背をぐぐっと伸ばしてようやくアイリの方に振り返った。
「すまない、紹介が遅れた。ジネヴラ・ラスナだ。適当に『ジーナ』とでも呼んでくれ。肩書きは一応司書になっている。これから長い付き合いになるだろう、よろしく。」
こちらこそ、とジーナの伸ばした手につられて反射的にその手を握る。
「どこから話そうか。」
彼女は後ろになった机に肘を軽く乗せて頭を捻る。そしてすぐに、君はまず何を聞きたい?とそう言った。
「それは、やっぱり殺されかけた理由です。身に覚えもありませんし、正直不安しかないです。」
「じゃあそこから説明するか。回りくどいのは好きじゃ無い。まず、結果から言おう。」
ごくりとアイリの喉が唸る音が鳴る。本に囲まれて響くことは無かった。
「君はただ巻き込まれただけだ。『王位継承戦』に。」
「・・・・ん?」
理解が追いつかない。なぜ、どうして、頭の中は疑問符でいっぱいだ。
「国王が死に、王位継承戦が間近に迫っているのは知っているだろう。今そのせいで宮殿内が少々ピリついているのも。」
「ええ、まあ」
「王位継承者は今何人いるか知ってるか。」
「20人と少し、だった気がします。名前までは知らないですけど・・・」
「そうだ。正確に言えば23人。そして先月、もう一人候補者がいることがわかった。それが・・・」
彼女は焦らすように唾を飲み込んだ。
「俺・・・ですか。」
「いや、君の妹だ。」
「あっ。そう・・・」
少し期待していたのだろう。アイリはしょんぼり顔になって下を向く。
「君と彼女がこの学校に急に転校させられたのも君達の”保護”という面が強い。・・・と、まぁここまでは事件当日から分かっていることだ。」
「(なんで教えてくれなかったんだろう・・・)」
さて、ここからが本題と足を組み替え、ひざに肘を乗せ再び頬杖をつき直す。透き通った肌に形良く乗っけられたその表情はうっすらと笑っていた。
「・・・ところで、君は”シシャ”というものを知っているか。」
「なんですか、それ。誰かからの使いですか。」
「感がいいな君は。誰かからの使い、それが『使者』だ。見た目は真っ白な人で、顔、体格は見た者のそのままを鏡のように写す。」
それを聞いた瞬間、アイリは教室で左手からブライブを出した時の記憶が思い浮かんだ。顔ははっきり見えなかったが、体格は完全にアイリそのものだったし、色も半透明の白だったはすだ。
「君も見たはずだ彼を。それも、二回。」
「二回・・・?俺が見たのは2週間前に一回だけですけど。・・・てか、なんで知ってるんですか。」
「いや、君が初めてブライブを使った時にも見たはずだ。誰かの声がしたのを覚えているだろう。」
「あぁ、あれも・・・。本当になんで知ってるんですか。恐怖しか感じないですよ。」
「学園長とゴメスから聞いた。二人ともちょうどその場にいたらしいからな。」
無機質な本達に囲まれて、アイリはジーナに多くのことを聞いた。使者、リアのこと、ブライブの種類、この国の内情、世界に起こっている異変。
そして、この世界はあと一年も待たずに崩壊してしまうことを。




