98. 進行役はユレシア
王城のバンケットホールに、晩餐会の面々が揃っていた。
先にホールにいた、ユレシアとサツキとエミールとアリエノールと護衛騎士のテシアとキサラ。
次にホールに入ってきた第2王子。
その後、王妃と第1王子とヴァルモン公爵が入ってきた。
そして最後は、レイサム王と王弟の息子のルーファス。
その後ろに、カール・ハミルトン公爵とベンジャミン・サヴェル公爵とコンラッド・サヴェル公爵子息の3人……。
「旦那様……、コンラッド……」
アリエノールは消えそうな声で呟く。
マイルズが、ベンジャミン・サヴェルのことを「見目の良い」と言っていた。
それは本当にその通りで、長身で淡い栗色の髪と瞳の整った顔立ちの男性だ。
コンラッド・サヴェルは父親似で、16歳で少々幼いが、美少年だ。
カール・ハミルトンは、背がユレシアと同じくらい、つまり男性の平均的な身長で、髪色などは公国の淡い栗色だが、目鼻立ちに特筆する点はない。
3人とも目を伏せている。
「晩餐会を始める前に、そちらの円卓で公国の御三方とアリエノール様とルナベル様の話し合いを行います。王国の者は決して口を挟まぬようお願いいたします」
ルーファスは声高に言う。
「恐れ入りますが、発言よろしいでしょうか?」
エミールは一歩前に出る。
「ああ、許可する」
ルーファスは表情を変えずに答える。
「私とユレシアは同円卓に着席してもよろしいでしょうか。アリエノール様とルナベル様は動揺が大きいと思われます故……」
エミールの言葉に、ルーファスとレイサム王は目配せをした後「許可する」と言った。
サツキはホッと息を吐き、ユレシアを見る。
アリエノールは、放心状態だ。
屋敷ではアリエノールの肩を抱いて落ち着かせていたエミールも、旦那と息子の前でそれをする訳にもいかず、腕を組んでいる。
ルーファスに促されるように全員席につき、王家の使用人たちにより紅茶が出される。
使用人たちが全員ホールを出て行ったことを確認したエミールは「恐れながら、申し上げます」と口を開いた。
「ルナベル様はこちらに戻って来られてまだ日が浅く、言葉が不自由でございます。このままお話を進めても、理解が追いつかない可能性がございます。お話を進めるのに1人進行役が必要と存じますが、この状況を客観的に見ることが出来き、尚且つルナベル様にも理解出来るように進行できるのはユレシアだけだと思われます」
な、なんだって!?
ユレシアは顔を崩さないように、内心驚きまくっていた。
公国の3人は顔を見合わせて、頷き合う。
「それでしたら、ぜひよろしくお願い致します」
ベンジャミン・サヴェルが代表して頭を下げる。
ここで、出来ません! なんて言える男がいたらお会いしたい。いや、そんな奴には会いたくはない。
エミールの言う通り、サツキに分かりやすいように進める必要がある。
間違いなく、この件の中心人物なのだ。
そして、サツキの婚約者はユレシアなのだ。
「若輩者ですが、進行役をつとめさせていただきます、ユレシア・イルベルトと申します。まずは皆様、自己紹介をお願いいたします」
ベンジャミンから順番に名前だけの自己紹介をし、最後にサツキが「ルナベル・サヴェルです」と頭を下げた。
「ルナベル様は18年間、ニホンという場所で過ごされました。そして3ヶ月前、王国のランドン伯爵領に戻って来られました。身元を証明出来ないため、この場では容赦されておりますが、身分は奴隷ということになります」
ユレシアの「奴隷」という言葉に、ベンジャミンの顔色が変わる。
「そして、アリエノール様はルナベル様の身元を証明すると、公国の内乱に巻き込まれてしまうと、先程まで本気で思っておりました。そして、ずっと、ずっと、ご主人とご子息の事を心配しておられました。事の経緯を、サヴェル公爵からご説明願います」
ユレシアはチラリとサツキを見た。
サツキは理解出来たというように、ユレシアに頷く。
指名されたベンジャミンは、ふーっと長い息を吐くと、前を向いた。
その目は、アリエノールを見つめている。
「アリエノール、すまない。今回の内乱は、私がカールに頼んだものだ。内乱の目的は、君を王国に亡命させて、戻ってきたルナベルとエミール様と一緒に暮らしてもらう事だった」
ベンジャミンの言葉に、アリエノールは涙ぐむ。
「旦那様は、わたくしが、必要ないと……」
「違う! 違うんだ! 私が、私が卑怯な手を使って、君と結婚をしたんだよ! 結婚をして一緒に暮らせば、幸せになれると思い込んでいたんだ! でも、そんな私の勝手な想いが、生まれたばかりのルナベルと君を引き離してしまった……」
ベンジャミンはサツキを見つめる。
「ルナベル、すまない……。18年以上も、1人で……」
「お父様……」
サツキはポツリと呟いて、うつむいているアリエノールを見る。
「お父様、わたし、大丈夫です。お母様に説明、お願いします」
サツキはアリエノールを守ると言っていた。
それを実行しようとしている。
サツキは本当に強くなった。
初対面の父親に向ける瞳は、以前の様な何もかも諦めた瞳ではなく、全てを受け入れる瞳だ。
ユレシアは円卓の下で、サツキの手を握っていた。
こんな時なのに、ただ、サツキが愛おしかった。




