96.ユレシアの解釈
晩餐会に出かける直前に発覚した公国の出席者の件を話し合うため、ユレシアとサツキ、エミールとアリエノール、カロリーヌとルル、テシアとキサラの8人は、エミールの私室に集合していた。
「細かい経緯は不明だが、妖精の話ぶりから大体のことは分かるな。ユレシア君、説明をお願いしてもいいか?」
エミールはアリエノールと並んでソファに座り、アリエノールの肩を抱いている。
「承知しました」
ユレシアは、チラリとアリエノールを見る。
アリエノールの表情は暗く沈んでいる。
その向かい側には、心配そうなサツキとカロリーヌとルルが座っている。
ユレシアとテシアとキサラは、座っても良いのかもしれないが、ソファ周りに立っていた。
ここは、アリエノールを傷付けないように話さなければならない。
「結論から申し上げますと、この内乱は、アリエノール様を王国に亡命させる事が目的だったと思われます」
ユレシアの言葉に、アリエノールがビクッと体を震わせる。
「これは、決してアリエノール様を見限ったという話ではありません。ベンジャミン・サヴェル公爵からの無償の愛だと私は思います……」
ユレシアは言いながら、エミールを見る。
エミールは特に顔色を変えず、ゆっくり頷いている。
「わ、わたくし、旦那様に何をしてしまったのでしょう……。コンラッドも、わたくしの事をもう……」
やはり結論から言ってはダメだった!
ユレシアは上手く話せなかったことを悔やんで下を向いた。
「お母様、ユレシア様、無償の愛、言いました。お母様とエミール様、一緒にするためです。王国、わたしいます。お父様、弟、わたしにお母様をくれました」
サツキがアリエノールを真っ直ぐ見て話す。
「ルナベル……」
アリエノールは涙ぐむと、小さく頷く。
そう、サツキの言うとおりに違いない。
サツキが戻ってきたから、サヴェル公爵は行動を起こしたのだ。
アリエノールと戻ってきた娘を1人にしないために……。
「ここからは想像ですが、18年以上冷戦をしていたのは本当だと思います。そしておそらく、サツキが戻って来たことを知ったハミルトン公爵からサヴェル公爵に和解の申し入れがあったのだと思います。そしてサヴェル公爵は、アリエノール様を王国に行かせるために一芝居うったのだと思います。今日の晩餐会は謝罪と説明の場だと思われます」
ユレシアの言葉に、アリエノールは「はい」と小声で答えた。
「おかしいと思ったんだよ、晩餐会だなんて……。ルーファス様も事前に説明してくれれば……」
エミールは嫌そうにぶつぶつと言う。
アリエノールに全てを隠す事は、見守っているように見えるが、そうではない。
旦那様が死んだと心から傷付いたのだ。
息子が無事かどうか分からなくて、いつも心配していたのだ。
サツキに教えた「寂しくて寝られない」「一緒にいさせてください」というセリフは、夜這いのセリフではなく、アリエノールの本心だったのだ。
ユレシアが唇を噛み締めていると、突然サツキが立ち上がった。
「わたし、お母様、守ります!」
「ルナベル……?」
アリエノールは顔を上げる。
「お父様、弟、やり方間違いです! ルーファス様、第2王子、ヴァル……なんとか、嫌いです! ハミルトン、知らん人です! 全員、なぐります!」
サツキはそう言うと、細くて白い腕を天井に突き上げた。
その場にいた全員、意味が理解できなくて固まる。
「い、いや、待て! ユレシア君!」
エミールは慌ててユレシアの名を呼ぶ。
ユレシアはハッとなり、ソファの後ろからサツキの両肩に手を置いた。
「サツキ、落ち着こうか。そんな細腕で殴ったらサツキの手の方が痛むよ。あと、第2王子はこの件には関係してないと思うよ」
「第2王子、嫌い、仕方ない」
サツキは「スン」とした表情で言う。
まあね、攫われたからね。
しかし、嫌いで仕方ないから殴るのか。
「と、とにかく、殴るのはやめよう。ね?」
サツキが殴っても痛くはないだろうが、女性が晩餐会で男を殴るのは良くない。
「じゃあ、妖精頼んで、上から落ちます!」
「あれは本気で痛いからやめようか!?」
ちなみにユレシアは、「上からサツキ」を2回くらっているのだ。
上からいきなり人が降って来たら、たとえそれが幼児でも、痛いに決まっている。
冗談でも何でもなく、首の骨が折れる可能性もある。
「テシア様、キサラ様、代わりになぐってください!」
サツキは大真面目に最強騎士の2人に頭を下げる。
「そ、それもダメ! 騎士は王国に仕えてるんだよ! それにこの2人が殴ったら普通に殺人だから!」
ユレシアは必死にサツキを止める。
テシアとキサラは顔を見合わせて「殺人……」と笑う。
「サツキ、淑女らしくありませんわ」
この様子を見かねたのか、カロリーヌが満を持して立ち上がる。
というか、もう少し早く立ち上がって欲しかった。
どうせ面白がっていたのだろう。
「そのドレスは何のためですか?」
カロリーヌはサツキに問いかける。
「しゅ、淑女……」
サツキは言い淀む。
「そうですわ。それと、エミール様とユレシア様への啓発ですわ」
『え?』
エミールとユレシアの声が重なる。
「パートナーにこのような高価な贈り物をされて黙っているな、という意味ですわ。特にアリエノール様のティアラには希少な宝石が使われています。エミール様でもこれを手に入れるのは難しいと思いますわ」
その場にいた全員が、アリエノールのティアラに注目する。
ティアラは小ぶりだが、確かに中央の石の大きさと輝きは、他とは違うように見える。
エミールはチッと舌打ちをする。
「つまり、この件は、エミール様とユレシア様がアリエノール様とサツキを守り、決着をつけろということです!」
カロリーヌは、声高々に宣言をする。
「も、もとより私はそのつもりです!」
「私もだ! 王家にも公爵家にも負けはしない!」
ユレシアとエミールも声高々に宣言をする。
「そんな意味があったのですね……」
ルルはしきりに感心している。
テシアとキサラも頷き合っている。
「ルナベル、お二方にお任せしましょう」
アリエノールは微笑む。
「は、はい! エミール様、ユレシア様、かっこいいです!」
サツキも笑顔になる。
「お嬢様、さすがです!」
ルルは、ソファに座り直すカロリーヌに声をかける。
「……これで、面白くなりますわね」
カロリーヌはルルにだけ聞こえるほどの小声で呟き、不敵に笑う。
「あ、この展開にしたかっただけなのですね……」
ルルはガックリと肩を落とした。




