95.生きているの?
とうとう公開処刑(晩餐会)の日がやってきた。
この日までに、沙月は淑女教育を頑張ってきた。
しかし、やはり、付け焼き刃である。
生まれた時から貴族をやっているアリエノールには敵わない。
そして、お揃いのドレスなのに、この差!
沙月はルルに髪を整えてもらいながら、アリエノールを見た。
カロリーヌとランドン伯爵家使用人の女性たちによりドレスアップしたアリエノールは、輝かんばかりの姿だった。
淡いパープルのドレスに同色のヒール。
頭上には光り輝くティアラ。
ネックレスやイヤリングもティアラとお揃いで、もう、キラキラと輝いている。
日本にはこんな綺麗すぎるアラフォーはいない。
というかアラフォーには見えない。
「ああ、アリエノール様、本当の妖精のようですね……」
ルルが感嘆の溜息をもらす。
全く同感なので、沙月はコクリと頷く。
もうこれは、仕方がない。
昨日ユレシアとは仲良くしたし、今日、ユレシアがアリエノールばかりを見ていても、潔く諦めよう。
大体アリエノールは、エミールが好きなのだ。
それは、沙月から見ても容易に分かるので、ユレシアがアリエノールと……ということはないのだ。
沙月は自分を納得させるようにウンウンと頷き、目を開けると、目の前にバラの妖精がいて「わっ!?」と声を上げた。
沙月の頭を触っていたルルにも妖精が見えたようで、「妖精!」と言っている。
「なになに? 今日はどこかに行くの?」
バラの妖精はキョロキョロと周りを見回す。
この場には、ランドン伯爵家の使用人たちもいる。
何もない空中に話しかけていたら不審に思われてしまう。
沙月は少し考えて、日本語で話そう、と思っていた。
日本語ならば、話の内容はバレないし、沙月だけが「頭のおかしい子」となるだけである。
自分で言うのも何だが、この屋敷で沙月はすでに変わり者認定されているので、これ以上評判が落ちても平気である。
「今日はね、王家と公国との晩餐会なの。ニイナのお父さんのハミルトン公爵も来るんだよ」
沙月がペラペラと話し始めると、ルルが「妖精語!?」と驚いている。
「あー! ニイナもついて行きたいってゴネてたやつだ!」
妖精は思い出したように言う。
アリエノールとカロリーヌは目配せをして頷く。
使用人たちは、沙月の事を残念そうな目で見ている。
「ニイナもくるの?」
「来ないんじゃない? どんなにお願いしても連れて行ってくれないって怒ってたよー」
「そうなんだ。別に連れてきてあげればいいのにね」
10歳の女の子がいれば、場が和むというものだ。
いや、和む必要はないのか?
「お父様とベンジャミンおじさまとコンラッドお兄様だけ行くのはずるいって、昨日はその話ばっかりでさー」
「そうなんだね……って、えええっ!?」
沙月は目の前にいる妖精をガシッと掴んだ。
「ど、ど、どういうこと!? お父様と弟は生きてるの!? 今日、来るの!?」
沙月の剣幕に、アリエノールとカロリーヌとルルは急いで沙月に触る。
使用人たちは、沙月の事を可哀想な子を見る目で見てヒソヒソと話し合う。
「何があったのですか? こちらの言葉で同じ事を言ってください!」
アリエノールはバラ妖精に問いかける。
「えー、だから、ニイナが、お父様とベンジャミンおじさまとコンラッドお兄様だけが王国に行くのはずるいってゴネてるって話を……」
『なっ……!?』
アリエノールは放心状態になり、沙月に触ったまま、その場にへたり込んだ。
「えー!? 僕もう行くね!」
妖精はただならぬ様子が嫌になったのか、ふっと消える。
「お、お母様!」
沙月はアリエノールを抱きしめた。
アリエノールの肩が震えている。
「わたくし、エミール様とユレシア様に知らせに行きますわ。ルル、ここをお願いします」
カロリーヌは顔を強張らせて支度部屋を出て行く。
「はい、お嬢様!」
ルルは他の使用人たちに、アリエノールは少し立ちくらみがしただけだと説明を始める。
アリエノールの旦那様のベンジャミン・サヴェルと息子のコンラッド・サヴェルが生きていて、カール・ハミルトンと共に今日の晩餐会に来る?
これは、「生きていて良かったね」で済まされる話なのか?
ニイナは2人のことを「おじさま」と「お兄様」と呼んでいる?
つまりそれは、この2人と家族のように過ごしているということ?
そして3人が「仲良く」晩餐会に来るの?
それなら、アリエノールが悩んで苦しんだ2ヶ月以上の時間は何!?
その前の、冷戦は何だったの!?
「お母様、だいじょぶです! きっと、エミール様とユレシア様、助けます!」
沙月は震えるアリエノールを、抱きしめて叫んでいたのだった。




