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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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93.沙月とアリエノールへの贈り物

 ルーファスがランドン伯爵家別邸に訪れた翌日、アリエノールと沙月宛に贈り物が届いた。


 贈り物は晩餐会用のドレス一式で、送り主はルーファス・レイサムとなっている。


「なんなんだ、ルーファス様は!? このぐらい私でも用意できるわ!」

 エミールは怒声を上げて送り主のカードを床に叩きつける。


「わ、私だって、サツキの分くらいは……」

 ユレシアは語尾を小さくする。


「無理すんな、ユレシア」

 キサラがユレシアの肩に手を乗せる。


「これは、相当上等な生地ですよ!」

 ルルはカロリーヌに言う。


「しかも、お揃いですわね。ルーファス・レイサム殿下はアリエノール様とサツキのお揃いのドレス姿が見たかったのでしょう」

 カロリーヌは納得したように頷く。


「これは、着用して伺わないと失礼にあたりますね。わたくしがこちらですね」

 アリエノールは淡いパープルのドレスを広げる。


 沙月は、豪華なパープルのドレスの向こう側のアリエノールを見て、まずい! と思っていた。

 この、妖精のような、ユレシアの趣味をそのまま形にしたようなアリエノールとお揃いのドレスを着なくてはいけないのだ。


 完全に格の違いが出てしまう!


 最近分かったのだが、アリエノールやカロリーヌを綺麗だと思うのは、やはり所作が美しいからなのだ。

 

「サツキさんのは菜の花みたいな黄色ですよ!」

 ルルは沙月にドレスをあてる。


「可愛らしいですわ!」

 カロリーヌが両手を合わせて褒めてくれる。


「黄色……」


 同じデザインなのに、アリエノールのパープルより子どもっぽい!

 これを着て並んだら、ユレシアの目線は完全にアリエノールに向くだろう。


 恨む!

 あの、ルーファスとかいう男、恨んでやる!


「カ、カロリーヌ様も、ドレスの贈り物は嬉しいものなのですか?」

 テシアが楽しそうなカロリーヌに尋ねる。


「わたくしですか? そうですね、嫌ではありませんが、どちらかというと本や研究に関する物の方が嬉しいですわね」

 カロリーヌはテシアに微笑む。


「サツキさん、顔が怒ってますよ?」

 ルルが沙月の顔を覗き込む。


「……ルーファス様、きらい」

 沙月はボソッと呟く。


「うわっ!? 贈り物をいただいたのにコレですよ! 妖精は何を考えているのか分かりません!」

 ルルが叫ぶ。


「私も嫌いだ。サツキとは気が合うな!」

 エミールは頷いている。


「私もですが、でも、これを着ているサツキとアリエノール様は見てみたいですね。悔しいですが、きっと良く似合うと思います」

 ユレシアは苦笑しながら黄色のドレスを触る。


「それでしたら、今から着替えましょう! サイズが合っているかも見なくてはいけませんしね! ルル、わたくしの部屋へ運びましょう!」

 カロリーヌは楽しそうに言うと、ドレスの箱を抱えようとする。


「私が運びますよ」

 テシアはそう言うと、箱を持ち上げてスタスタと歩き出す。


 キサラも残った靴や小物の箱をルルから受け取るとテシアに続いた。


 当たり前のように着替える流れになってしまった、と沙月は呆然とする。


「ルナベル、行きましょうか」

 アリエノールは、優しく微笑む。

 

「……はい」

 沙月はアリエノールと並んで歩き出した。






 カロリーヌの部屋で着替えを済ませたアリエノールと沙月は、驚いていた。


 ルーファスとは少し会っただけなのに、ドレスのサイズも、靴のサイズも、ピッタリなのだ。


 驚きの観察眼である。

 というか、気持ち悪い。


「ピッタリですわね。ルーファス様は少々気持ち悪いですわ」


 アリエノールは沙月と同じ気持ちのようだ。

 沙月は大きく頷いた。


「はい。ルーファス様、気持ち悪い」


「お嬢様、妖精たちには高価な贈り物も意味がないようですね」

 ルルは小声でカロリーヌに言う。


「そうですね。でもエミール様とユレシア様には意味がありましたわ」

 カロリーヌはふふっと笑う。


「そうなのですか?」


「ええ。きっとご自分で買ってさしあげたかったのでしょう。こればかりは財力が必要ですので、ユレシア様にはまだ無理ですわね」


 カロリーヌの言葉に、ルルは「なるほど」と頷き、ハッとする。


「それでイルベルト男爵子息様もお嬢様への贈り物を気にしていたのですね!」


「……ルル、サツキの髪を整えてあげてくださいな」


「え? あ、はい」

 ルルは箱から同色の花がデザインされたカチューシャを取り出し、沙月の方へ行く。


 カロリーヌは、アリエノールの方の小物を確認する。

 銀色で中央に大きな宝石が輝く小ぶりのティアラが入っている。


「これはかなり……。ルーファス・レイサム殿下は、何を考えているのでしょう……」

 カロリーヌは不敵に笑う。


「お嬢様! サツキさん、とても可愛いですよ! あ、そちらはアリエノール様のですか?」


「そのようですわ。ルル、アリエノール様につけて差し上げて」

 カロリーヌはルルにティアラを渡す。


 アリエノールの頭上でキラキラと光を反射するティアラを見て、沙月は愕然とした。


 お花のカチューシャとの差がありすぎる!?

 完全に沙月はアリエノールの引き立て役である。

 

 ルーファス、許さん!

 晩餐会では無視してやる!


「アリエノール様、とてもお綺麗です! サツキさんもそう思いませんか……って、顔! また何か怒ってます!?」

 ルルは沙月の怒った顔を見て驚く。


「ルーファス様、だいきらい、話、しない」


「またすごい失言してますよ!? こんなにいただいた王家の方を無視する気ですか!?」


 ルルの叫びに、アリエノールとカロリーヌは顔を見合わせて笑った。



 

 結局、沙月とアリエノールの晩餐会のドレス姿は、男性たちには見せないことになった。

 

 カロリーヌ曰く、「当日のお楽しみ」とのことだが、沙月からすると「公開処刑の延期」である。


 この日から沙月は、晩餐会当日までに何とか貴族らしい所作を手に入れなければ! とカロリーヌとアリエノールとルルの指導を受けることになったのだった。

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