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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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92.ルーファス・レイサムの来訪

 小さな芽で実験をした翌日、ランドン伯爵家別邸に、王家のルーファス・レイサムがやってきた。

 エミールに大事な話があるため、とのことだが、妖精と言われるサツキの下見も兼ねているようだ。


 ルーファス付きの騎士は、先日王の部屋で対峙した「キサラには敵いません」と発言した騎士である。


 ルーファスとエミールが応接室に入った後、その騎士はテシアとキサラを見て溜息をついた。


「キサラだけじゃなくテシアもそちら側か……」

「はい。今はランドン伯爵に雇われております」

 テシアは姿勢を正して答えている。


 王家付きの騎士ということは、きっと身分が高いのだろう。

 しかし、実力は兄たちの方が上のようだ。


 廊下の奥から、アリエノールとカロリーヌとルルに連れられたサツキがやってくる。


 サツキは淡いグリーンのドレスを身に纏っている。

 淡い栗色の髪をアップにし、少しお化粧をしたその姿は、紛れもなく森の妖精だ。


 先程の騎士は、サツキの姿を見てあんぐりと口を開けている。


「サツキ、とても綺麗だよ……」

 ユレシアはサツキの手を取る。


 サツキはパァッと顔を輝かせる。


「嬉しい! ユレシア様、見せたかった!」

 サツキはユレシアにガバッと抱きつく。


 この辺が貴族女性らしくない。

 らしくないが、あまりの可愛いさに、ユレシアの目尻は下がりまくりである。


 この妖精が、ユレシアの婚約者なのだ。

 実際には正式な婚約はしていないが、結婚の約束はしているし、同じようなものだろう。


 名前も知らない身分の高い騎士が悔しそうにしている。

 隣にいるテシアとキサラは呆れた表情をしている。


「ユレシア様、ルナベルをよろしくお願いします」

 アリエノールが軽く会釈をする。


「はい。サツキ、行こうか」

「はい!」


 そう、ルーファス・レイサムとご対面だ。







 サツキを見たルーファス・レイサムは、目を見開いていた。


「これは、なるほど、アリエノール様によく似ておられます。第2王子が『妖精』と言ったのも頷けますね……」


「そうでしょう! ルナベル様は妖精のように可愛らしいのですよ!」

 何故かエミールが得意げに話す。


 ユレシアの手に乗せているサツキの手が少し震えている。 

 緊張しているのだろう。


「ルナベル様、挨拶を……」


 ユレシアの言葉に、サツキはハッとした表情をして、両手でスカートをつまみカーテシーをする。

 先程、カロリーヌとルルに叩き込まれた挨拶である。


「ルナベル・サヴェルと申します。お会いできて光栄でございます」


「ルーファス・レイサムと申します。こちらこそお会い出来て光栄です。どうぞ私のことはルーファスとお呼びください」

 ルーファスは立ち上がり、綺麗な所作でサツキに礼をする。


「ルーファス様、いきなり名前を呼べとはどういう了見ですか?」

 エミールが呆れたように突っ込む。


 ユレシアもそう思うが、エミールもいきなり名前を呼ばせていたので同罪である。


「私は魅力的な女性には、名前で呼んでいただくことにしております。ああ、『殿下』も必要ありませんからね」

 ルーファスはサツキに微笑む。


「はい。ルーファス様」

 サツキも微笑む。


 ルーファス・レイサムには第2夫人までいるはずだが、子どもはどちらの夫人にもいない。

 どちらの夫人も身分が高く、完全な政略結婚なのだろう。


 そんな妻が2人いる上に、魅力的な女性全てに名前呼びを許す。

 ユレシアより女たらしである。


「あー、もう退出していいぞ」

 エミールはユレシアに言う。


 これ以上サツキをここにいさせたくないようだ。


「いえ、同席していただきましょう。ユレシア殿もルナベル様も」

 ルーファスは表情を変えずにエミールに言う。


「……それですと、恐れながら、1つお約束いただきたいことがあるのですが」

 エミールはルーファスに真剣な眼差しを向ける。


「約束?」


「はい。ルナベル様は、こちらの言葉がまだ不自由でございます。発言に不手際がありましても、容赦していただきたいのです」

 

「ああ、そんなことですか。承知しましたよ」

 ルーファスはあっさりと承諾する。


 言ったな? とエミールとユレシアは目配せをする。


 かくして、エミールの隣にユレシア、その隣にサツキ、向かい側にルーファスが座り、今後の流れを聞くことになった。







「ということで、王国と公国で晩餐会を開くことになりました」


 王妃と第2王子が妖精に会いたいとゴネている、という説明を長々とした後、ルーファスはこともなげに「晩餐会」と言い放った。


「は、はぁ? 話が大きくなっているではないですか!?」

 エミールは貴族らしからぬ声を出す。


「ルナベル様、第2王子を覚えていますか? ぜひあなたにお会いしたいそうです」

 ルーファスはエミールを無視して、サツキに微笑む。


 サツキは少し考えて、思い出した顔をする。


「第2王子、太い、食べすぎ、覚えてます!」


 ルーファスはサツキの発言に、呆気にとられている。

 今日も失言が絶好調である。


「あー、ルナベル様は第2王子に会いたいですかね?」

 エミールはサツキの失言は咎めずにニヤリと笑いながら尋ねる。


「全然。もう、会う、ない」

 サツキは「スン」とした表情で言う。


「ち、ちょっと、エミール殿! 発言の不手際の域を超えていますが!?」

 ルーファスはエミールに文句を言う。


「そうでしょうか? 仕方ありません。ルナベル様はこちらに来て3ヶ月も経っておりません」

 エミールは当然かのように言う。


 たった2〜3回しか会話していないのに、不手際の域を越えるなんてさすがサツキである。


「淑女の教育ができないと言うのであれば、こちらで引き受けますよ」

『なっ!?』


 声を上げたエミールとユレシアには構わず、ルーファスはサツキに向き直る。


「ルナベル様、言葉をきちんと教えて差し上げます。私と一緒に参りましょう」

「いやです。ユレシア様、一緒います」


 考える間もなく、サツキはルーファスに答える。

 ルーファスはユレシアを睨む。

 

 いや、睨まれても困る。


「わたし、ユレシア様、ずっと一緒にいます。しんじつのあいしあってます!」


 サツキは堂々と言うが、「真実の愛」と「愛し合ってます」が一緒になってしまっている。


 でも可愛いので、ユレシアの口角は自然に上がってしまうのだった。


 ルーファスはハァーと息を吐いた。


「一体、ユレシア殿はルナベル様に何をしたのですか? 変な刷り込みをしたのではないですか?」


「それは私も常々思っていたな。催眠術でもかけたのではないかと……」

 エミールまでユレシアに疑いの目を向ける。


「いえ、何もしていません。絵本などを使って言葉を教えたくらいです」


 そこはユレシアも疑問に思うところなのだ。

 他には、買い物に連れて行き、服や小物を買ったりはしたが、それも刷り込みと言われるほどの事ではない。

 

「ユレシア様、優しいです」

 サツキは、目を伏せて何かを思い出すように微笑む。


「……承知しました。それで晩餐会ですが、7日後に執り行いたいと思います」

 あまり納得していない様子のルーファスは、晩餐会の話に戻す。


「ですから、何故晩餐会なのですか?」

 エミールはルーファスに詰め寄る。


「正直に申しまして、王国もこれ以上知らぬふりが出来なくなりました。ヴァルモン公爵が約定を破った事で公国を混乱に陥れた事は明らかなのです。ならば公式の場で……という王のお考えです」


 ルーファスはエミールを見た後、サツキを見る。


「ルナベル様はこの件の最重要人物です。こちらの出席者は、王と王妃、第1王子と第2王子と私、ヴァルモン公爵です。公国はハミルトン公爵、そちらは、エミール殿、アリエノール様、ルナベル様ですが……」


 サツキはユレシアの手を握る。


「ユレシア様、一緒!」

「……はあ、そうでしょうね。ではユレシア殿と護衛の騎士は2人ほどでお願いします」

 ルーファスは、溜息と共に言う。


「ルーファス様、ありがとございます!」

 サツキはルーファスに極上の笑顔を向ける。


 どうやら、テシアとキサラも一緒に行けることがさらに嬉しいようである。


「……これは、確かに、『妖精』ですね」

「ルーファス様にも分かりますか……」


 ルーファスとエミールは溜息をついた後、サツキと手を繋いでいるユレシアを睨む。


 だから睨まれても困る……、とユレシアは目を背けるのであった。

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