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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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89.ユレシア、夜這いを受ける

 ランドン伯爵家別邸のユレシア用の客室で、医学チームへの契約書の下書きを終えたユレシアは、ハァーと息を吐いた。


 昼間の王城でのアレコレもあり、現在の時間はかなり遅い。

 全員寝入っているだろう。


 ヴァルモン公爵とハミルトン公爵の面会の件もある程度シナリオを作らなければならない。

 サツキの受け答えや護衛の位置など、考えることは山ほどあるが……


「……寝るか。睡眠も大事だ」


 ユレシアが呟いた時だった。

 ノックもなく、ドアがガチャリと開いた。


 間違いなく驚いたのはユレシアの方なのだが、入ってきた人物、サツキはかなり驚いた表情で「起きてる!」と叫んだ。


「サツキ!? ま、まさか……?」

「夜這い、きました!」

「だよね……」

 ユレシアは肩を落とす。


 サツキは丈の長い黒いコートを着ている。

 夜の闇に紛れるように……なのかもしれないが、夜這いというよりは泥棒である。


「あのさ、昨日も言ったけど、真夜中に1人で行動するのは……」

「だいじょぶ! テシア様、送ってくれた」

「なんで協力してるのさ……」

 ユレシアは頭を押さえる。


 サツキはトコトコと歩いてベッドに腰掛け、ユレシアに隣に来るようにポンポンとベッドを叩いている。


 まあ、いいか。

 どうせすぐに眠くなって帰るのだろう。

 もしくは、サツキに触れた途端、妖精が見えて、そんな雰囲気ではなくなるのだ。


 ユレシアは指示されたとおり、サツキの横に座った。

 それを見たサツキは、んんっと咳払いをする。


「ユレシア様、わたし、寂しい」

「ん? そう?」


 咳払いの後に言ったぞ? 

 そして唐突すぎる。

 カロリーヌあたりの仕込みゼリフに違いない。


 サツキを見ると、しきりに首をひねっている。

 どうやら次のセリフを忘れてしまったらしい。


「わ、わたし、ユレシア様、楽しませる!」

「うん?」


 「寂しい」どこにいった?

 ユレシアはサツキの頭に手を乗せて、周りを見回した。

 妖精はいないようだ。


 このよく分からない状態も可愛いが、長く時間をかけるとサツキが眠くなってしまう。

 サツキには悪いが、主導権はこちらが握った方がいいだろう。


「サツキ、来てくれて嬉しいよ……」

 ユレシアは頭に乗せていた手をサツキの頬に移動させ、顔を近づける。


「あっ!!」

 突然サツキが大声を出す。


 ユレシアはサツキの頬に当てていた手をガクッと落とす。


「セリフ、思い出した?」

「はい! まず、服、ぬぐ!」

 サツキはモタモタとコートのボタンを外し始める。


 仕方がないので、ユレシアも手伝う。

 丈の長いコートはボタンが多い。

 明らかに選択ミスである。

 カロリーヌに言えばいいのだろうか?


「お? これは……」

 ボタンを外し終え、コートから覗くサツキの服は、白い透け感のあるミニ丈の夜着である。


「えーと……」

 サツキは再び首をひねっている。


 いや、もうセリフは要らないだろう。

 この夜着を着ているだけで十分である。


「サツキ、似合ってるよ……」

 ユレシアはコートを脱がせて、サツキを抱きしめる。

 

 透け感のある夜着は、まるで妖精の羽のようだ。

 サツキの陶器のような肌にもよく合っている。

 この夜着はカロリーヌから買い上げよう。


 サツキにキスをしようと顔を見ると、サツキの表情は暗く落ち込んでいる。


 ちょっと意味が分からないが!?

 妖精は一体何が不満なのだろうか!?


「あー、何でも言って?」

 ユレシアはサツキの頭を撫でる。


「お母様、教えてくれたセリフ、忘れた……」


 なんと、アリエノールもグルだったか!


「ルルさんと、練習した……」


 珍しく、ルルも協力していたのか!


「そ、そっか。仕方ないよ。まだ長い言葉を覚えるのは難しいよね。ちなみに、どんな意味のセリフだったの?」

 ユレシアはサツキを抱き寄せて背中をポンポンと優しく叩く。


「……寂しい。寝られん。好きにして?」


「好きにしてって……、およそ娘に教えるセリフじゃないな……」

 

 妖精の頭の中はどうなっているのだろうか。


「……みんなと話す、楽しい。元の世界、友だちいない……」

 サツキはユレシアの胸に顔を埋める。


「そっか……。まあ俺も貴族学院に行かなかったから友だちはいないけど、確かに最近は周りに人が多いかな……」


 でも不思議と嫌ではない。

 あんなに1人で本を読む時間が好きだったのに、こんなドタバタも悪くないと思っている。


「ユレシア様、わたし、似てる?」


「そうだね、似てるんだろうね」


 きっと、会うべくして会ったのだろう。

 あまりにもファンタジーだが、そうとしか思えない。


 ヴァルモン公爵とハミルトン公爵は許せないが、サツキが異世界に移動しなかったら、公国の姫と王国の男爵庶子のユレシアが出会う事なんてなかったのだ。


 ユレシアは両手でサツキの頬を包むと、唇を重ねる。


「んんっ……」

 サツキの甘い声がユレシアの耳に響く。


 この夜着を脱がすのはもったいない。

 本当に、妖精みたいだ。

 全員協力体制の夜這いも悪くない。


 ああ、でも、きっと明日、サツキは全てを報告してしまうのだろうなぁ……。

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