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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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79.ユレシアの痛みと妖精

 ランドン伯爵家別邸のエミールの私室で、ユレシアは情けなさと後悔で押し潰されそうになっていた。


 言い訳が思いつかないなどと思わず、真っ先に誤解を解くべきだった。

 サツキがキスをしてくれたと安心していたのもいけなかった。


 サツキは傷付いて『移動』してしまったのだ。

 

 戻って来なかったら……?


 ユレシアの心臓が、再びズキズキと痛む。

 

 サツキがいなかったら、死んでしまうかもしれないと思うくらいに、胸が痛い。


「アリエノール様! どうでしたか!?」

 エミールが目を開けたアリエノールの体を起こしている。


「……ルナベルとバラの妖精に会いました。もうすぐ戻ってきますわ」


 アリエノールの言葉に、エミールは「良かった」と息を吐き、カロリーヌとルルは手を取り合って喜んでいる。


「あ、あの、アリエノール様、サツキは、その……」

 ユレシアは咄嗟にアリエノールに話しかけて、しまったと思っていた。


 サツキのことは、ユレシア自身がサツキ本人にきかなければいけないことだ。


 アリエノールは、ふふっと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。ルナベルも大事なことが何かは分かっています。ちゃんと話し合えば問題ありませんわ」


「は、はい。すみませ……」


 ユレシアがアリエノールに頭を下げかけた時だった。

 ユレシアの肩と背中に、ズシンとした衝撃がはしった。

 背中はちょうど、ガレシアに打たれて青あざになったところである。


「うっあぁぁっ!?」

 ユレシアは悲痛な叫び声を上げて、その場に倒れた。


「サツキ!?」

「サツキさんっ!」

 カロリーヌとルルがユレシアの方へ駆け寄る。


 そう、行方不明だったサツキが、突然ユレシアの上に現れたのだ。


「おお、これが『移動』!」

 キサラは感心したように言う。


「い、いま、サツキはどこから来たんだ!?」

 ガレシアはキョロキョロと周りを見回す。


「ユレシア! 大丈夫か!?」

 テシアはサツキの下敷きになっているユレシアの肩を揺する。

 

「ユレシア様!? なんで、ここ!? ユレシア様、死ぬ!!」

 サツキは驚いてユレシアから飛び降り、空中に向かって不吉な事を叫ぶ。


「良かったですわ」

「良かった……か?」

 アリエノールとエミールが呟く。


「ユレシア様! ごめんなさい! だいじょぶ!?」

 サツキはユレシアにガバッと抱きつく。


 正直それも痛いがサツキが受けた傷に比べれば大した事はない、とユレシアは歯をくいしばる。


「だ、大丈夫……。あ、妖精がいる……」

 顔を上げたユレシアの目に、前に会ったバラの妖精と、淡い紫の妖精とクリーム色の妖精が映る。


「うん、妖精さん、みんなと遊ぶ……」

「ユレシア様だけずるいですわ! わたくしにも見せてくださいませ!」


 カロリーヌはサツキの言葉を遮って、サツキの肩に手を置いた。


「まあ! まあ! なんて可愛らしいの!!」

 

 3人の妖精を見たカロリーヌは感動で打ち震えている。


「え? なにか見えるのですか?」

 側にいたテシアはカロリーヌとユレシアを交互に見る。


「テシア様、妖精ですわ! ほら、サツキに触ってくださいませ!」

 カロリーヌはテシアの手をぐいっと引っ張ると、サツキの背中にあてた。


「えっ!? あっ!?」

 テシアにも見えたらしく、目を丸くしている。


「サツキさん、私も触りますよ!」

 ルルもサツキの背中に触り、「わっ! 可愛い!」と声を上げる。


「俺も! お父様もほら!」

 キサラはサツキの頭に手を乗せ、ガレシアを引っ張り、ガレシアの手もサツキの頭に乗せる。


「うお!? な、なんだ、こいつらは!?」

「ほんとにいるんだなー、妖精!」

 ガレシアとキサラも声を上げる。


「良かったですわね」

「いや、絵面的にはかなり危ないぞ?」


 微笑むアリエノールの横で、エミールは呆れた声を出す。


 倒れたユレシアにサツキが覆い被さり、カロリーヌとテシアとルルとキサラとガレシアがサツキを触って何もない宙を見ているのだ。


「わたくしたちもルナベルに触りましょう」

 アリエノールはエミールの手を引いてサツキの背中に手を乗せる。


「ああ、なるほど。体制はおかしいが確かに……」

 エミールは3人の妖精を見て納得する。


「ねえ、早くみんなで追いかけっこしようよ!」

 バラの妖精がサツキの髪の毛を引っ張る。


「お、追いかけっこ、みんな、むり! わたしと、あとふたり!」

 サツキは必死に訴える。


「妖精さんたちは、遊びたいのですね! 確かに全員では無理ですわ! サツキ……ルナベルに触れるのですからユレシア様以外の男性もよくありませんわね。ユレシア様はお怪我をされていますし、ここは、わたくしとルルか、わたくしとアリエノール様、の2択しかございませんわね!」

 カロリーヌは全員に訴える。


「お嬢様、絶対にご自分を外しませんね」

 ルルは小声でツッコミを入れる。


「わたくしは歳ですので走れませんわ。お嬢様方でお願いいたします」

 全く「歳」には見えないアリエノールは、すっと辞退する。


 

 かくして、サツキの右手にカロリーヌ、左手にルルが手を繋ぎ、ランドン伯爵家別邸の廊下を、3人にしか見えない妖精と追いかけっこをすることになったのだった。


 手を繋いだ成人女性3人がひたすら廊下を走り回る光景は、ランドン家の使用人たちをドン引きさせ、事情を知っているユレシアたちでさえ、直視し辛いものがあった。


「サツキに話があるのに……」

 異様な光景を見ながら、ユレシアは溜息をついたのだった……。

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