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歓楽街を禁止された男爵庶子、お金が足りず言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人〜   作者: 三多来定


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7.イルベルト家の事情

 ユレシアとガレシアとカラムは、ガレシアの部屋にいた。


 ユレシアとガレシアはローテーブルを挟んで向かい合ってソファに座り、カラムは紅茶を淹れて2人の前に置いた。


「カラムはユレシアの隣に座ってくれ。で、なんだ話というのは?」

 ガレシアは紅茶のカップを手に持って、ユレシアに尋ねる。


「まずはチサのことなのですが……」

 ユレシアが、先日辞めたメイドの名前を出すと、ガレシアの顔が曇った。


「親父様は嫌がると思ったのですが、調べましたところ、やはり、歓楽街の男娼に貢いでおり、お金目当てだったと……」


「ああ、もういいよ。なんとなく分かってはいた」

 ガレシアは溜息混じりに言う。


 実は、メイドだったユレシアの母親が生活を保証されて、悠々自適に暮らしていることは、メイド界隈では有名な話なのだ。

 

 つまり、奥様に先立たれたイルベルト男爵のお手付きになればお金が貰える、ということだ。


 チサは男娼に貢ぐ金が欲しかったようなので、お手付きになった瞬間に騒ぎ立て、お金を貰って辞めたのだ。


「親父様こそ、後妻を迎えたらどうなのですか?」


「お前が一番分かっているだろう? 成り上がり男爵の後妻なんて、誰もなりたがらないんだよ」


 否定できないので、ユレシアは黙り込む。


「後妻もメイドも、私にはもういいよ。元々自分のことは自分で出来るからな。付き人はユレシアがやってくれているし、屋敷のことは、カラムとサツキが予想外に働き者だから何とかなっているだろう?」

 ガレシアはそう言って、窓の外に目をやる。


 イルベルト家の屋敷の庭には小さな畑があり、ジェンが野菜を育てているのだが、その畑でサツキとジェンが草むしりをしているのが見える。


「そうですね。サツキは働き者ですね……」

 ユレシアも窓の外に目をやり呟く。


「なんだ? サツキがどうかしたのか?」

 ユレシアの表情が暗いのを見て、ガレシアは怪訝な顔をする。


「……先日、サツキに地図を見せて家の場所と両親のことをきいたのですが、家はないと言い、両親には捨てられたと……」


「なんだって!?」

「なんと、まあ……」


 ガレシアとカラムも、ユレシアと同じように愕然としている。


「何故、ランドン伯爵領の町を歩いていたのかも不明なままですが、サツキを島国に帰すことは難しいかもしれません……」

 ユレシアは、目を伏せる。


「ユレシア、サツキを島国に帰す必要があるのか?」

 ガレシアは飲み干した紅茶のカップを置いてユレシアにきく。


「え? それは……」


「話せるようになって、サツキが帰りたいというのならそうすればいいだけの話で、ずっとここで働いてもいいのではないか?」


 ガレシアの提案に、カラムも頷いている。


 確かに、サツキは自身を捨てた両親の住む島へは帰りたくないかもしれない、とユレシアも思う。


「そう、ですね……。でもずっととなると、手を出しにくいというか……」


「お前の頭の中、それだけなのか……?」

 ガレシアは、呆れた表情で溜息をついた。


「まあ、サツキの件はとりあえずはいいのですが、親父様、もう一つお話がありまして、テシア兄さんの縁談の件なのですが……」


 「テシア兄さん」とは、イルベルト家の長男で、ユレシアの異母兄である。

 現在、王都で騎士として勤務しているが、すでに28歳なので、そろそろ戻って来てイルベルト家を継いでもらわないといけないのだ。


「ど、どうだった!?」

 ガレシアは身を乗り出す。


「……全て断られました」

 ユレシアは、再び目を伏せた。


 ガレシアは、ガックリとうなだれる。

 カラムは「なんと、まあ……」と再び呟いている。


「ソレラン男爵令嬢も、レナシカ子爵令嬢も、すでにお相手がいるそうです。本当か嘘かは分かりませんが……」


 ユレシアは貴族社会には全く興味がないが、どの令嬢も格上の相手に嫁ぎたい、ということは理解している。

 成り上がり男爵令息の辛いところである。


「テシア兄さんが夜会に出たり、女性にアピールしたり、もう少しご自分で努力していただけるといいのですよ」

 ユレシアは、ガレシアに微笑む。


「テシアはなぁ……」

 ガレシアは苦笑する。


 テシアは生まれながらの武人で、女性に話しかけたり出来ないのである。

 ガレシアとユレシアの女好き要素が、テシアには何故か全くないのだ。

 きっと、子爵令嬢だった母似なのだろう。


「親父様、ミリアム子爵家からの伝手つては頼れませんか?」


 ミリアム子爵家とは、ガレシアの亡くなった妻の実家である。


「頼れるわけないだろう。ミリアム子爵は私を恨んでいるのだから」

 ガレシアは自嘲気味に笑う。


 ガレシアとミリアム子爵令嬢だったサラは、王命による結婚だった。

 武功を立てたガレシアを王様はかなり気に入っていたのだ。

 王命に逆らえるわけもなく、サラは成り上がり男爵のガレシアの妻になった。


 完全な政略結婚だったが、ガレシアの人の良さもあり、結婚後の2人はとても仲が良かった。

 その証拠に、2人の男児を授かった。


 しかし、次男出産後の肥立ちが悪く、サラは帰らぬ人となってしまった。


 ミリアム子爵家は、サラを死なせてしまったガレシアを恨んでいるのだ。


 もちろんガレシアが悪い訳ではないのだが、数年後に寂しさからメイドに手を出してユレシアを産ませたことも、かなり体裁が悪かった。


「そうですね……。一度テシア兄さんにはこちらに帰って来ていただきましょう。まあ、ついでにキサラ兄さんにも帰ってきてもらいましょう。もしかしたら何か伝手があるかもしれませんので……」


 「キサラ兄さん」はイルベルト家の次男である。

 テシアと同じく、王都で騎士として勤務している。


 キサラはちゃっかり、後継のいないロウラン子爵家の令嬢の婿になり、将来はロウラン子爵となる予定である。

 ぜひロウラン子爵の伝手をお願いしたいところだ。



 ユレシアは早速2人の兄に手紙を書き、1ヶ月後、兄2人と久しぶりの再会をすることになったのだった。

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