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歓楽街を禁止された男爵庶子、言葉の通じない娘を買う 〜実は彼女は日本から来た異世界人?〜   作者: 三多来定


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58.沙月と絵

 カロリーヌとテシアのお見合いが行われた次の日、エミールは王城へ行くために伯爵家別邸を出て行った。


 沙月たちは、別邸でお留守番だ。


「サツキ! 今日も言葉を教えてやるよ!」

 キサラが本を何冊か抱えてユレシアの客室のドアを開ける。


「あの、キサラ兄さん。空気読んで下さいよ……」

 

 今まさに、沙月にキスをしようとしていたユレシアはガックリと肩を落とす。


 そう、沙月とユレシアは、客室を別々にされたので、この別邸に来てからはあまり2人きりにはなれないのだ。


「キサラ様、じゃま」

「うをっ!? 相変わらずの片言失言だな!」

 キサラは本をローテーブルに置くとアハハと笑った。


 出て行く気はなさそうだ。


 とはいえ、沙月はキサラもテシアも好きである。

 この2人の兄は、とにかくユレシアを可愛がっているからだ。

 昨日もユレシア大好き仲間として、かなり気が合った、と思う。


 ルルにユレシアの話をすると嫌そうな顔をされるが、キサラはユレシアの名前を出すだけで嬉しそうに昔の事を教えてくれたのだ。


「いやな、ランドン伯爵から、お前たちを2人きりにするなって頼まれてるんだよ」


「なっ!? あの人、昨日私と話した件は何だったんだよ!?」

 ユレシアは驚愕の声を上げる。


「サツキもいろんな奴と話した方が言葉が上達するだろ?」


 キサラに問いかけられて、サツキはコクンと頷く。

 確かにその通りで、イルベルトの屋敷にいた時より、カロリーヌやルルと話し始めてからの方が、かなり聞き取りが出来ているのだ。

 もちろん、その前にユレシアが言葉を教えてくれたことが大きいのだが。


「それは私も同感ですけど、どうせならキサラ兄さんよりテシア兄さんの方がいいですね」

 ユレシアは本を手に取ってパラパラとめくる。


「そう言うなよー。テシア兄さんが女性相手にマトモに話せる訳ない……」

「ちょっと! この本なんですか!?」

 キサラの言葉を遮って、ユレシアが叫ぶ。


 沙月はローテーブルに置いてあったもう一冊の本を手に取る。

 パラパラとめくると、かなりデフォルメした男女の裸の絵が描いてある。


「はだか……」

「サツキは見なくていいから!」

 ユレシアは沙月から本を取り上げる。


「さっき買ってきたんだよ。こういう知識もいるだろ?」

「余計なお世話ですよ! わざわざ買ってこないでください!」


 キサラとユレシアが言い合っている横で、沙月は溜息をついた。

 前々から思っていたが、ユレシアは沙月の事を、純粋で何も知らない女性だと勘違いしている感じがする。


 先程の裸の絵なんて、日本の漫画に比べれば全然エロくない。

 むしろ、沙月は、もっとしっかり描ける。


 沙月は立ち上がると、机の上の白い便箋とペンを手に取った。


「わたし、絵、かく」


「絵? 描く?」

 

 ユレシアとキサラがキョトンとしている横で、沙月はサラサラと顔をユレシアに似せた裸の男性の上半身の絵を描く。


「おお! サツキ、絵上手いじゃん! しかもエロい!」

 キサラは驚きながら褒めてくれた。


「え、これ、俺? ていうか、上手い……」

 ユレシアは絵を見て呟いている。


「サツキは絵描きだったのか?」

 キサラが笑顔で沙月に問いかける。


「絵描き、違う。絵、好き、だけ……」

 

 絵描き……。

 絵を描く職業に就きたいと思ったことはあった。

 でも、諦めた。


「うまい、違う。うまい人、ほか、いっぱいいる」


「あー、なるほど、諦めたクチね。やっぱり昨日も思ったけど、ユレシアとサツキは似てるな」

 キサラは笑いながら言う。


「え? 似てますか?」

 ユレシアは沙月を見た後、キサラを見る。


 沙月も、似てるだろうか? と首を傾げる。


「ああ。周りの状況を見て、スッと諦めるとこ、ソックリだわ。お前ら似たもの同士で惹かれあってるんだよ」


 周りの状況を見て諦める……か。

 確かにそうだけど、簡単に言って欲しくない。

 状況を見ない訳にはいかなかったのだ。


 沙月はキサラをじっと見て、ユレシアは考え込む仕草をしている。


「お? サツキが睨んでるな? まあ、いろいろあって無理だったんだろうけどさ、今からは出来るんじゃないか? 画材道具くらい、ランドン伯爵にねだればすぐ買ってもらえるだろ?」

 キサラは気を悪くした様子もなく、笑う。


「画材道具くらいは、私が買ってあげられますよ!」

 ユレシアはキサラを睨む。


 今から?

 異世界で絵を描くの?

 そんな事をしていいのだろうか?


「言ったな、ユレシア! 画材は結構するらしいぞー? よし、今から買いに行こうぜ!」


「望むところですよ!」


 盛り上がる2人を沙月は「待つ!」と止める。


「がざい、高い。いい……」


「サツキ……」

 ユレシアはうつむく沙月を見て微笑む。


「俺はサツキのやりたい事を全部叶えたいんだ。サツキも俺も諦めて生きてきたけど、もういいんだよ。俺も諦めないから、サツキも諦めないでほしい。それにさ、サツキが言ってくれないと、俺もエミール様もサツキの服ばかり買ってしまうよ」


「ふ、服、いらない!」


「だよね。でも何かしたくて、買っちゃうよ?」

 

 意地悪く笑うユレシアに沙月も笑う。

 服はあれ以上買われたら困る。

 ユレシアもエミールも、服やアクセサリーばかり買うのだ。


「服いらない。がざい、いる……」


「うん。じゃあ買いに行こうか」

 ユレシアは優しく笑うと、沙月の手を取った。



 この事をカロリーヌたちに話すと「面白そう」となり、結局、全員で画材を買いに行く事になった。


 買いに行く道中もワイワイと楽しくて、見たこともない絵の具や筆も面白くて、沙月は幸せだなぁと心から思っていた。


 この幸せがずっと続くといいのに……。

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