57.お見合いの成功
カロリーヌとテシアのお見合いは、驚くほど上手くいった。
カロリーヌからの質問にテシアは照れもせず真面目に答え、カロリーヌの好奇心が満たされたようだ。
恋人のエルレンも真面目ないい若者だった。
年齢はユレシアと同じ23歳で外見も似ていたが、ユレシアより人間が出来ていた。
カロリーヌの研究継続と、その功績をカロリーヌ自身のものにすることについても、元々母親のサラがそうだったこともあり、テシアには何の異論もなかった。
後継ぎに関しては、カロリーヌは役目は果たすと約束し、領地経営についてはカロリーヌが詳しく、ユレシアがいなくなっても大丈夫そうである。
結局、しばらくはテシアとエルレンは王都で騎士を続けることになり、いわゆる書面上の結婚となることが決まった。
「あれ? もうお見合い終わったのか?」
キサラは立ち上がるユレシアたちを見て声をかけた。
「はい。その場所にいて何も聞いてなかったのですか?」
ユレシアは呆れ顔でキサラに言う。
「いやー、サツキが面白くってさぁ、言葉たくさん教えておいたぞ?」
「はい! キサラ様、言葉、教える!」
キサラはニヤニヤとし、サツキはドヤ顔で言う。
「嫌な予感しかしませんけど、ルルさん、キサラ兄さんは変なことを教えてませんか?」
ユレシアがルルを見ると、ルルは目をサッとそらした。
「キサラ兄さん!?」
「えー? それよりサツキってお前のこと驚くほど好きなんだな。どれだけたらし込んだんだよー?」
「わたし、たらしこまれました!」
キサラと素直に「たらしこまれた」と話すサツキを見て、ユレシアは頭を抱えた。
絶対にロクなことを教えていない!
「お嬢様、良かったです……」
ルルはカロリーヌを見て涙ぐんでいる。
「ルルには心配かけましたね。でもとても良いお見合いでしたわ! テシア様は思った以上に誠実でしたの。キサラ様はチャラチャラしていますし、ユレシア様は天然タラシなので、少し心配ではあったのですよ」
「チャラチャラですかぁ!」
キサラは笑う。
「て、天然タラシ……?」
また変な二つ名が出来た、とユレシアは肩を落とす。
「私は女性と話すことが苦手なのですが、カロリーヌ様はとても話しやすかったです。研究のお話もぜひお聞きしたいですよ」
テシアは微笑む。
「まあ! 研究の話となると、夜通しになってしまいますわね!」
カロリーヌも微笑む。
本当に気が合ったようで良かった。
「あの、昼食後、私は婚姻の書類を整えますので少しこもりますが、その間、サツキに変なことを教えないでくださいね?」
ユレシアは特にキサラに向けて言う。
「おう、任せとけ! そもそも俺たち護衛だしな!」
「ユレシア様、がんばる!」
キサラとサツキの態度に、ユレシアは一層不安になるのであった。
ユレシアがランドン伯爵家別邸の客室で婚姻の書類を作成していると、コンコンとドアがノックされた。
「どうかな、進捗は?」
入ってきたのはエミールだ。
ユレシアは立ち上がる。
「下書きは出来ていましたので……。申し訳ありませんが、見ていただいてもよろしいですか?」
ユレシアは書面をエミールに渡す。
「ケルバート伯爵は何と?」
書面に目を落としながらエミールはユレシアに尋ねる。
「……カロリーヌ様の今までの研究にかかった費用について書かれていまして、その還元をお願いしたいと……」
ユレシアは机に置いてあったケルバート伯爵からの書簡を手に取る。
「ああ、上手い書き方だな。還元の割合についても書かれていただろう?」
「はい。8割ですね」
エミールはふっと笑う。
「とっくに元はとっているだろうにな……」
「私、実はカロリーヌ様の研究について詳しくは存じ上げないのですが……」
エミールは呆れた顔をした。
「カロリーヌ嬢と割と長く一緒にいるだろう? 何故きいていないんだ?」
「いえ、気にはなっていたのですが、質問すると10倍以上返ってきそうで……」
ユレシアは苦笑する。
「……私が知っているのは、農業における虫の役割だったかな。害虫と良い役割をする虫を研究して、農業の効率がかなり上がったらしい」
「虫ですか。カロリーヌ様らしいですね」
普通の令嬢は、虫を気持ち悪いと嫌う。
それを研究しようなんて、やはり素晴らしい令嬢だ。
「でしたら、カロリーヌ様の功績を数値化しましょうか。功績の8割が横暴なことを証明しましょう」
ユレシアの言葉に、エミールはニヤリと笑う。
「数値化はこちらで調査しよう。婚姻の書面はこれでいいんじゃないか? うまいこと論点がぼやけている。これの後に数値化した書面があればそちらが効力を持つだろう」
「何から何までありがとうございます」
ユレシアは書面を受け取り、頭を下げる。
「まあいいさ。未来の息子だからな」
エミールは不敵に笑う。
「……あの、エミール様は、その、サツキのことは、娘のような感じなのでしょうか……?」
ユレシアは思い切って気になっていたことを口にしてみた。
「娘か……。子どもがいないからよく分からないのだが、ただ大切で幸せに笑っていて欲しいとは思っているよ。これは娘であっているかな?」
ユレシアはエミールの悲しそうな笑みを見て、娘や恋人で片付けられる単純な感情ではないということを理解した。
そこには、「アリエノール様」が重く絡んでいて、取り除く事は出来ないのだ。
「サツキの幸せが君といることだというのなら、私はそれを全力でやるしかないのさ」
エミールはユレシアを見て苦笑する。
「はい。私も全力でやりたいと思います」
ユレシアは笑う事なく、両手を握りしめていた。




