56.ユレシア、サツキの事情を打ち明ける
王都にあるランドン伯爵家別邸の応接室。
カロリーヌ、ルル、サツキの向かい側に、テシアとキサラとユレシアが座る。
エルレンも座るように言ったのだが、護衛任務をすると言い、窓際に姿勢良く立っている。
伯爵家の使用人が出してくれた紅茶を飲みながら、ユレシアはサツキをスラサル商会で買ったところから、公国の姫の可能性が高いこと、『移動』能力があること、公国の内乱によりサツキが危ないこと、などをテシアとキサラに話した。
テシアとキサラは神妙な面持ちで聞いていた。
「やっぱり、巻き込まれてるじゃないか……」
キサラはハァと息を吐く。
「ユレシアは、もう決めているんだね」
テシアはユレシアに微笑む。
「はい。私はサツキの身分がなんであれ、サツキと生きていくと決めています。そのために必要ならランドン伯爵家に入りたいと思っています」
ユレシアのきっぱりとした言葉に、テシアとキサラは頷いた。
「まあ分かったよ。俺はいいと思うよ。ユレシアは昔からすぐ諦めて結論を出すから、今回やる気なのは兄としては万々歳だよ」
そう言うとキサラは、ユレシアの頭に手を乗せる。
「兄さんから見ても、そうでしたか?」
ユレシアは手を払いのけながらキサラとテシアを見る。
「そうだな。騎士は『無理ですので』と言ってやりもしなかったな」
テシアは思い出すように言う。
「騎士は、向いてないからで……」
「そう、そんなことばっかり言ってたよ。お前はな」
キサラはもう一度ユレシアの頭に手を乗せる。
「ユレシア様、弱い!」
フォローのつもりなのか、サツキがユレシアを「弱い」呼ばわりする。
「また片言失言してますよ!」
ルルは頭を押さえている。
「本当に片言失言メイドだな。ユレシアは弱くないぞ? な、兄さん」
キサラはテシアに同意を求める。
「ああ。ユレシアは今からでも騎士団に入れるくらいの実力はあるよ。お父様や私やキサラを相手にしていたから、感覚がおかしくなったのかもしれないな」
テシアは苦笑いをしている。
「まあ! ユレシア様は実は武芸にも秀でてましたのね!」
カロリーヌは目を輝かせている。
「ユレシア様、強い?」
サツキはユレシアを見つめる。
「いや、強くはないけど、確かに基本はあるよ。サツキの事も全力で守るよ」
ユレシアはサツキに微笑む。
「しかし、ユレシアがイルベルト家からいなくなると寂しくなるなぁ……」
「キサラ兄さんがそれを言いますか? さっさとロウラン子爵家に婿入りしたくせに……」
ユレシアが呆れながら言うと、キサラは「いやいや」と笑った。
「イルベルトは俺が出て行っても特に寂しくないんだよ。ユレシアはさ、ほら、反応が可愛いじゃん?」
「なっ!?」
ユレシアは顔を赤くする。
「そうだな。お父様も寂しがるだろうな……」
テシアも目を伏せる。
ガレシアの事を思い出し、ユレシアも目を伏せる。
ガレシアは他の兄弟と分け隔てなく接してくれた。
そんなガレシアのために、ユレシアもイルベルトを良くしようと動くことが出来た。
「ユレシア様、可愛い、だいじょぶ!」
サツキがユレシアを励まそうとしている。
「お! 失言メイド、分かってるじゃん! ズレてるけどな」
キサラはアハハと笑う。
「キサラ、公国の姫かもしれないんだ。あまり失礼な言い方をするんじゃないよ」
テシアはキサラをたしなめる。
「サツキは身分制度が嫌いなので、そういう事は気にしませんよ」
ユレシアが苦笑しながら言うと、サツキは大きく頷いている。
「ユレシア様、お話はまとまりましたよね? お見合いの方に移りませんこと?」
カロリーヌは身を乗り出している。
カロリーヌにとっては、すでに知っているサツキの話より、未知のお見合い(同性愛)の方が興味をそそられるようだ。
「そうですね。では私はサツキの隣にいきますので、エルレンさんこちらへ……」
「ユレシア様、私とサツキさんは立ちます」
ルルはそう言って立ち上がり、サツキもルルの真似をする。
確かにお見合いの席に侍女やメイドは同席しないだろう。
結局、カロリーヌの隣にユレシアが座り、向かい側にテシアとエルレンが座り、壁際にルルとサツキとキサラが立つことになった。
どうやらキサラはサツキをからかいたいようで、やたら話しかけている。
「え? 19歳になった? 嘘でしょ?」
「19歳ほんと、わたし、おとな!」
「サツキさん、大人は自分のことを大人と宣言しませんよ……」
キサラとサツキとルルで、気が合っているようだ。
ユレシアが前に向き直ると、カロリーヌがニッコリと微笑んだ。
「まずはですね、お二人の馴れ初めを聞かせてくださいませ!」
「カロリーヌ様、この席は、カロリーヌ様とテシア兄さんのお見合いですよ……」
初っ端から、ユレシアはガックリと肩を落とした……。




